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後日談

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 王都のエヴァンス邸へと到着したのは、日が暮れて、少し経った頃の事。

 本来ならばこの時間、ジーンは王宮にいる事が多いのだが、アシュリーが到着する事を前以て知っていたので、仕事を調整し、日暮れ頃に帰宅していたのだ。

 馬車の到着を待ちわびていたジーンは、玄関の馬車停めまで出迎える。

 外は暗いが、天上の月が周囲を優しく照らし、ジーンの青みの薄い青銀色の髪を輝かせる。

 その姿は、月の精霊と見間違われても不思議では無い。

 そんなジーンの姿を、馬車の中からステラが気付き、アシュリーに声を掛ける。


「アシュリーお嬢様、若君自らお出迎え下さいましたよ。あのお方が次期当主のジーン様です」


 アシュリーがステラの言葉で馬車の外に視線を向けると、息を呑む程に美しく、思わず人なのか?と、疑いたくなるような美貌の男性がいた。

 しかも、その美貌に儚げだとか、なよなよしい印象は一切無い。

 アシュリーのこれまでの人生の中で、これ程の美貌を持つ人は、一度たりとも見た事が無かった。

 アシュリーは見惚れると言うよりも、ただただ茫然とジーンを見る。

 比べるのも烏滸がましいが、あの元婚約者の時ですら、周囲の女性達から散々、不釣り合いだ何だと貶され続けていたのだ。

 その時の事が思い出されて、あれぐらいで済むのだろうかと考え込んでいた。


「ーーシュリーお嬢様、アシュリーお嬢様?そんなに不安そうにならなくても大丈夫ですよ。さぁ、若君がお待ちです。降りましょう」


 御者が扉を開けたので、出ない訳にはいかない。

 アシュリーは意を決して外に出ると、正面に立つジーンが声を掛けてきた。


「初めまして、アシュリー=ゴート辺境伯令嬢。私はジーン。このエヴァンス家の、次期当主です。貴女にお会い出来る日を楽しみにしていましたよ。聞き及んでおられると思いますが、私は貴女を未来の花嫁として、我が家へと歓迎します」

「あっ、アシュリー=ゴートです。よっ……宜しくお願い致します」


 ジーンが名を呼んだにも拘わらず、慌てて名乗り、頭を下げるアシュリー。

 そんなアシュリーを見て、ジーンは口元に笑みを浮かべ、アシュリーの手を取り口元に運ぶ。


「私は妻になる女性を蔑ろにする気は無い。だから、困った事や思った事、他愛の無い事でも良い、沢山の会話と時間を共有したいと思っている。私は運が良い。貴女のような、理想の令嬢を妻にする事が出来るのだから。長旅でお疲れでしょう。部屋を用意していますので案内します」


 ジーンはアシュリーの手に口付けてから、その手を自身の腕に掛けて微笑み、顔を真っ赤に染めたアシュリーを屋敷内へとエスコートするのだった。
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