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後日談

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「とても良いお話に聞こえはしますが、無条件と言う訳にはいかないのでしょう。それに、それだけ揃っておられるのなら、その若君は選びたい放題ではありませんか。何も、わたくしが花嫁で無くとも良い筈です。それなのに、王都の貴族女性では無く、態々わたくしに声を掛けると言う事は、それ相応の条件が有るのでは?出来れば、その条件を先に教えて頂けないでしょうか?」


 アシュリーがそう問えば、侍女は先程の悪巧みのような笑みでは無く、普段アシュリーに見せていた笑みを浮かべる。


「アシュリーお嬢様は、殆どの条件を満たしておられますわ。強いて申し上げるのならば、最近嫁がれた若君の実妹やご家族、私達使用人と仲良くするよう努力して頂く事が条件になると思いますが、あの義妹のサラお嬢様と仲良くするよう努力をなさっていたアシュリーお嬢様なら問題無く接せられます。王都のお嬢様方は、兄妹仲が悪いと思っておられたからか、若君の前でも平気で蔑んでいらっしゃいましたので、妹好きシスコンの若君からすれば論外なのですよ」

「貴女は本来、その家に仕えているのですね。……妹好きなのに、兄妹仲が悪いと思われていたのですか?」


 アシュリーが疑問を口にすれば、侍女は頷き説明をする。


「ええ。余計な害虫が寄り付かないように、仲が悪いように見せ掛けておられたのですよ。男女問わず、家名やお金、容姿に群がろうとする者達が多いですから」


 その言葉だけで、アシュリーは大体の事情を理解した。


「容姿に群がる……と言う事は、ご兄妹揃っての美貌の持ち主ですか……」


 アシュリーの婚約者だった男も、かなりの美貌を持ち、社交性に長けてはいるものの、女遊びをするようなタイプでは無かった為、アシュリーを見て、何であんな女がと陰口を言われたり、嫌味を言われる事も多かった。

 その為、悪意有る連中の対処法には慣れているが、決して気分の良いものでは無い。


「ああ、その手の類いの連中は、全て若君に丸投げして頂いて構いませんよ。アシュリーお嬢様の元婚約者のような、真面目で優しいだけの、愚鈍な人では有りませんから。守ると決めた相手は、確りと守って下さいます。その点はご安心下さい」


 元では有るが、婚約者を愚鈍と言われても、アシュリーには返す言葉も無い。

 アシュリーは気持ちを切り換え、再度問う。

「……他の条件も聞かせて下さい」

「後は……若君の仕事に理解を示して頂きたいですね。嫡男と言えど、現在は当主の仕事も任されているので、とても多忙な方なのです。アシュリーお嬢様ならば、若君の仕事のお手伝いも出来ますよ。勿論、アシュリーお嬢様がしたければの話ですが。因みに、当家の所蔵本は、こことは比べ物にならないぐらい沢山有りますよ」


 アシュリーは、父に代わって領主の仕事を相当遣り込み、多忙な生活を送っていたが、仕事自体は割りと好きだったし、本も大好きだ。

 他家に嫁ぐとなれば、とても退屈するだろう日々を送らなければならないと思っていたのだが、侍女の言葉にアシュリーは内心とても喜んだ。
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