氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

後日談

26

「さぁ、続きよ続きぃ～♪」


　ランドールが未だにちょっと引き摺り気味なのを、マッドが無理矢理引き戻す為に声を掛ける。


「リラちゃんのやり方でも、一応追い払う事は可能だけど、無表情でずっといる事って、ランちゃんには難しいと思うのよぉ。だから、ランちゃんは笑顔をマスターしなさいな。笑顔は女の武器って言うけど、執事にとっても笑顔は武器になるのよぅ。迷惑な客とか、嫌な客とかは、笑顔で対応した方が、乗り切り易いわよ。まぁ、相手の虫の居所が悪い時は、絡んで来る場合もあるけれど、そんな時は、ちょっと吃驚したような顔をしてから、否定してご覧なさいな。割りと毒気を抜かれる人が多いみたいで、キーツさんがよくするのよぅ♪後、謝罪の際は当然ヘラヘラしない。相手は馬鹿にされてるように感じるからよ。親しい相手なら理解してくれるだろうけど、毎回だと、カチンと来る事も有るからねぇ？」


　マッドがそんな話をランドールにしていると、令嬢役の侍女がこちらに近付いて来た。

　そして、令嬢役が、上から下までを不躾に見てくると、マッドも同じように見返した。


「何よ。失礼な人ね」

「あらぁ？あたしは貴女にされたから、てっきりこれが貴女の挨拶なのかと思って真似ただけよぉ？それが失礼に思うのなら、最初からしなければ良いんじゃなくてぇ？」

「……煩いわね。サイナス様がパートナーを連れて来ていたと言うから、どんな令嬢かと思えば、貴女、何か勘違いしてるんじゃなくて？サイナス様は優しい方よ。どうせ貴女か貴女の親が、無理矢理頼んだに違いないわ」

「勘違いはどっちかしらぁ？頼んだと思うのならば、貴女も頼めば良いじゃない。相手にされないからって、あたしに絡まれても困っちゃう～♪」

「何ですって？！」

「所で、貴女だぁれ？話し掛けに来てくれるのは良いけれど、名前ぐらい名乗ったらどうなの？ああ、序でにサイナス様にもお聞きしておくわね？サイナス様のお知り合いのような口調でしたが、お知り合いですか？って。さすがに知らない人だと、サイナス様も恐いでしょうから」


　マッドは首を傾げて聞いている。


「貴女に名乗る名なんて、持ち合わせて無いわ!!」


　そう言って、そそくさと逃げて行った。


「こっちがこう言ったら、相手は今後迂闊に近付いて来ないわよぉ♪だって、自分が声を上げた事で周囲から注目されちゃってるし、話し掛けて来た癖に、名前も名乗らない礼儀知らずで、結局、ああやって名乗らずに逃げちゃったもの。次にまた来た時は、あら、名無しさんって言って今回の状況を周りが聴こえるように言ってやれば、また注目が集まるし、サイナスちゃんはサイナスちゃんで、心当たりのある知り合いでも、そんな礼儀知らずは知り合いにいるなんて言いたくないし、知らないなら知らないで、何その迷惑女って印象が悪くなるのよ。まぁ、サイナスちゃんに言うタイミングはサイナスちゃんが帰って来た時が一番効果的かしら？」


　そう言って、マッドはサイナスに視線を送れば、サイナスは片手袋を付け出した。