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本編

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「リラ、街に着いてからよく喋っているけれど、喉は渇いていない?どこかの飲食店に入ろうか」


 茶葉を売っている店を出て直ぐに、エドワルドはリラに声を掛けると、リラは少し落ち込んでいるのだろうか。

 声のトーンが若干低くなっていた。


「あのっ……。エドワルド様は、お喋りな女は、嫌い、ですか?」

「?まぁ、嫌いな方かな……」


 お喋りな女と聞いて、王宮や夜会で言い寄ってきた、甲高い声で煩く騒がしい女達を思い浮かべてしまい、思わず眉間に皺が寄ると、リラからどんよりとした空気が漂うので、エドワルドはリラに誤解が無いよう訂正する為、リラの名を呼ぶ。


「リラ」


 勿論、甘く優しい声でリラを呼び、エドワルドの声で顔を上げ、上目遣いになるリラの瞳を見ながら、優しく微笑むエドワルド。


「誤解無きよう言って置くけれど、リラの場合は入らないよ。今まで不快にさせられた他の女性達を思い浮かべてしまうから、そこはリラと限定して置いて欲しいな。私はリラの声も大好きだから、リラが沢山喋ってくれるのは嬉しいよ」


 エドワルドの言葉にリラは安堵して、エドワルドの大好きだと言う言葉に頬をほんのり赤く染めながら、先程の店の事を謝り出す。


「先程は見苦しい姿を晒してしまい、申し訳ありませんでした」

「リラが謝る事では無いよ。そもそも、あれは店員の態度が悪過ぎるのだから。客に対してあのような態度を取る事の方が間違いだ。相手が貴族と解っているなら、尚更質が悪い」


 エドワルドにそんな気は更々無いが、幾ら自領の領民とは言え、家位の高い家格に身柄を差し出せと言われたならば、余程の事情が無い限り、差し出すのが通常だし、家位が同等であれ下位であれ、自領の領民が貴族に喧嘩を売るような態度であれば、領主が責任を持ってその者罰し、謝罪しろと言われても仕方が無いのだ。

 お忍びで、相手にその気が無いからいいような物で、お忍びだろうと身分を明かせば、平民に太刀打ち出来るすべ等無い。

 それを容認してしまえば、身分制度の意味が無いからだ。

 エヴァンス領が如何に特殊とは言え、エヴァンス家が客として招いてる相手の身分を無視する事は出来ない。

 エドワルドがエヴァンス領に、身分を捨てて永住する気なら未だしも、エヴァンス家の身内になる者として訪問しに来ているのだから、領民がエドワルドに喧嘩を売るような事をすると言う事は、エヴァンス家にも喧嘩を売っているような物なのだ。

 彼はエヴァンス領と言う特殊な環境に慣れ過ぎて、貴族に喧嘩を売るとどうなるかと言う、根本的な事を忘れていたようだ。

 エドワルドが問題にしなかったからこそ、余所で一からのやり直しと言う軽い物で済んだが、本来ならば、罪人扱いされててもおかしくは無い事なのだ。

 下手をすれば、平民に馬鹿にされた貴族として、貴族間で噂になってもおかしくない事なのだから。

 きっと彼は、エドワルドの身分を知った父親に、その事もきっちり叩き込まれ、自分の失態を大いに思い知るだろう。


「まぁ、私はリラの婚約者と言う身分だけでここに来させて貰っているから、後の事はジオラルド殿やジーン殿、そしてあの店主に任せて置くよ。だからリラも気にせずに忘れて、私達はデートの続きを楽しもう」


 そう言ってエドワルドは、リラにお勧めの飲食店の案内を頼んだ。
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