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本編

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「僕はエヴァンス領内に入ったら、母上の方に移るから。それまで邪魔だろうけど、大目に見て欲しい」

「邪魔だなんて思っていませんよ。ジーン殿は義兄になる方ですし、今までずっと彼女を守って来てくれていた大切な人ですから」

「そうです!ジーン兄様はわたくし自慢の兄様です!わたくしが嫁いだ所で、それは少しも変わりませんわ」

「そう言ってくれると有り難いよ」


 馬車の中ではリラの子供の頃の話や今まで読んだ本の話で盛り上がった。

 昼食は、リラが料理長と一緒に作った料理を食べ、夕暮れ前に宿屋に着き、ゆっくりと身体を休める。

 それからは、宿屋で昼食分を作って貰い、夕暮れ前には次の宿屋へ着く事を繰り返し、順調にエヴァンス領へとたどり着く。

 そうして予定通り、十日の日程でエヴァンス領内の本宅前へと到着したのだ。


「お帰りなさいませ、若奥様、若様、お嬢様。そして、ようこそお越し下さいました、クルルフォーン公爵様」


 年配の執事が出迎え、荷物を本宅の侍女や侍従達に運ぶよう指示を出している。

 その姿はキビキビとしており、年配とは感じさせない貫禄も有る。


「エドワルド=クルルフォーンだ。暫く世話になる。宜しく頼むぞ」

「これはご丁寧に。私は執事のキーツと申します。今後宜しくお願い致します。長旅故、お疲れでしょう。早速ですが、お部屋に案内させて頂きます。婚礼がお決まりとは存じておりますが、一応婚前ですので、お部屋は分けさせて頂きました。何卒ご理解とご容赦の程を」

「ああ、解っている。ただし、婚姻後次回は、一緒の部屋で頼む」

「えええっ、エドワルド様?!」

「当然だろう?その頃は夫婦になっているのだから」


 リラが顔を真っ赤に染めるも、エドワルドは笑顔のままで撤回しない。

 それを見た老執事は、ちょっと驚いた顔をするも、直ぐに笑みを浮かべてエドワルドの言葉に頷いた。


「はい。勿論で御座います」


 そう言って、キーツはエドワルドを一番広い客間に案内する。


「ここをお使い下さい。従者の方は、こちらに願います」


 エドワルドの従者はランドールではなく、御者をしていた男で、王都のエヴァンス邸に行く時は、必ず彼に頼んでいる為、リラ達とも面識は有る。

 この御者は、武芸に長けている訳では無いが、とても口が堅く、エドワルドへの忠義も厚い。

 今回と言うよりは、毎回と言った方が良いのかも知れないが、ランドールには、王都の屋敷を任せている為、こちらには同行していない。

 因みに、もう一人の馬車の御者は、エヴァンス家から派遣された男性が籤引くじびきで勝ち取った様だった。
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