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本編

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 エドワルドは一通り仕事を終えて、本来であればエヴァンス家に立ち寄る所だが、今日はそういう訳にはいかない。

 レオンがリラに出した書簡と日誌を持って、アレクシスの元を訪れ、アレクシスと共にアナスタシアの元へと向かう。

 最近はよくアナスタシアの元に顔を出していた為、誰も不審がる事は無く、アレクシスと一緒にアナスタシアの部屋に入ると、アナスタシアがいつも通り人払いをしてくれる。

 二人共ジルギリスから、レオンの為出しでかした事を聞いていたのだろう。普段通りに見せ掛けて、実際は目が全然笑っていない。

 人の気配が完全に消えて、アナスタシアが本題を切り出す。


「エドワルド様、此度の事、ウチの不肖の息子が本当にご迷惑をお掛け致しました。リラ様にもとんだご迷惑をお掛けしました事、深くお詫び申し上げます。今度の年越しに直接お詫びを申し上げたいので、必ずわたくし達の所に二人で顔を出して下さいね?それと、早速見せて頂いても宜しいでしょうか?ウチの馬鹿息子がリラ様に送ったと言う例の書簡を」


 アナスタシアの、寒い笑顔での要求にエドワルドは応え、懐から例の書簡を取り出し、アナスタシアにそれを渡す。

 それを広げ、怒りで震え出すアナスタシア。


「……こんな物を、リラ様に……。王族と言うのは、どれ程嫌いな相手だろうと、それを本人や他者に悟られてはいけないと言うのに……。こんな物を、あの、可愛い可愛いリラ様に……」


 アレクシスも、アナスタシアが握り潰しそうになる前に、横から取り上げ、とても短い内容をその目で確認する。


「……これを、選りにも選ってあの・・エヴァンス家に送るとか……確かに不幸中の幸いでは有るが……」

「しかも、レオンがこれを出したのはジルギリス様が王宮に来てからなのでしょう?ジルギリス様が知っていらっしゃったのならば、朝一番に、わたくし達や、レオンの所に来ていてもおかしくないのですもの……。それが、公務中にエヴァンス家の侍女の方から書簡を頂き、内容を確認して、その場でレオンの所に問い質しに行ってしまいたかったのを、何とか堪えたのですよ?」

「一応、ジルギリス殿の教えで、レオンがこのような日誌を書いていたので、今後は提出するようにと言って置きました」

「ああ、私も書いているやつだな。あれは、代々教育係りに当たるエヴァンス家の当主に王太子は必ず書かされるみたいだぞ。王位継承して国王を継いだ時、父王の日誌も貰い、その中から現存する人物達を全て書き写す事で、知識も継ぐと言う意味合いがあるらしい。私も父上のを持っているが、同一人物でも、昔、父にどんな事を言っていたのかも分かる為、用心した方が良いだとか、特徴や癖も掛かれているから、偽名を使用された場合でも、気付けるからな」


 初めて会う者が、まだ謁見していない別の者の名を語り、本来の名の持ち主を陥れようとする事が、たまに有る。息子がまだ継いでもいない爵位を名乗る事も。

 王太子の場合は気付かずとも、王になって気付いた場合、偽っていた者を問い質す事も可能だ。勿論不敬罪として。

 さすがに国王相手に誤魔化す事も国王を侮る事になるので、誤魔化し切れないのだが、悪足掻わるあがきをした場合、この日誌を証拠として見せて、国賊として罰せられる事になるのだ。
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