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本編

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 それから数日後の午前中、王宮からリラ宛に、一通の書簡が届く。

 それは、時間と場所が指定された呼び出し状では有るが、署名の名前が書いていない。余程慌てていたのか、それともわざと書かなかったのか。

 とは言え、封筒に使われた紋章で、差出人が特定出来る為、問題は無いのだが。

「レベッカ、外出の準備をお願い」

「えっ、今からですか?」


「一応、王宮内に三時頃と指定されていますが、場所が王宮なので、それ相応の格好をしなければいけないでしょう?」

「どこの誰からですか?!女性の仕度時間を考えない方と言うのは!!今は午前中とは言え、一時間もしない内に正午ですよ!」

「王太子様からよ。年齢も年齢だし、そこまで深くは考えなかったのではなくて?そうは言っても、それを何度もされるようでは相手が困るでしょうし、一応話題には出して置くわ。相手の都合も有るのに、一方的な呼び出し状は、相手に迷惑となる事も有りますもの」

「嬢ちゃん、内容は?」

「時間と場所の指定、それだけよ」

「……ちょっと見ていいか?……ああ、こりゃあ駄目だ、落第点」

「そうね。人を呼び出すのに、内容も抜き、署名も抜きでは、さすがに失礼ですもの」


 子供が出した物とは言え、相手は王族。喩え気に入らない相手だろうと、それを見せてはいけないのが王族だ。

 そして彼は、エドワルドが後見する者だ。

 そして多分、エドワルドの婚約者である、悪評名高きリラが気に入らない事も何と無く読み取れるのだが、だからと言ってこれは無い。

「一応、王太子の教育者としてお父様も入っているので、報告した方が良いのかしら?」

「しなきゃあいかんレベルだろ。こんなの他所に出したら、王太子の資質が問われんぞ。指定された場所へ行く前に、寄り道決定だなぁ」


 リラ宛に来た物だから、内々で済ませられるが、王族が罪人でも無い特定の相手を蔑むのは周囲に誤解を与える為、してはいけない。王族は公平性を求められるからだ。

 そうは言っても王族も人間。私的の場でならば仕方無いと思うが、こういった物で残すのは、自らの地位を脅かされる危険性も出てくる為、してはいけないのだ。


「レベッカ、そう言う事だから、急いで仕度をして頂戴」

「……分かりました。直ぐに済ませます」


 レオンとしては、大好きな叔父が、結婚する事を決めていただけではなく、その相手が悪評名高きリラと知り、周囲の人間達に、エドワルド様が可哀想だ、絶対に騙されているのだとか、あの令嬢が誑かした、何か弱味でも握ったのだろうと言われていた為、それを真に受け書いたのだろう。

 ただ、内容を書こうとしたが、罵倒や余計な事を書きそうなので、それを書かないようにする為に、そのまま出したのだが、そういった物が王族として相応しく無いと言われるとは思ってもいなかったようだ。
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