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本編

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 男が失神したからと言って、出発時間を遅らせる気は無い。

 少々手荒だが、水をっ掛けて意識を取り戻させ、近くの厩舎きゅうしゃで着替えさせる。

 捕虜の男は思った。この国の人達を怒らせ敵に回すなんて、何て愚かで命知らずだったのだろうと。

 しかも、あの二人の王族の怒りを買い、あまりの恐さに震えていると、他の兵士達が声を掛けてくれた。


「罪人とは言え、災難だったな」

「ウチの陛下は家族想いだから、政略結婚で結ばれた王妃も物凄く大切に想っているし、実の弟であるクルルフォーン王弟公爵の事も、昔から大事な弟だと言って、ことほか可愛がっておいでなんだよ」

「しかもエドワルド様は、元々大の女嫌いで、結婚する気すらなかったようだが、とある一人の令嬢に惚れ込んで、縁談、お披露目婚約が済んだばかりなんだよ」

「あのエドワルド様が、足繁く令嬢の元に通っていた最中に、お前等が起こした襲撃で、令嬢のいる王都を離れなければいけなくなるし、今回も王都を不在にしなければいけないからな。普通なら、結婚所じゃなくなるんだぞ」

「きっとかなり厳しい事を言われたんだろうぜ、相手はあの令嬢だからな」

「……あの・・?」

「ここだけの話、相手の令嬢は物凄く美人なんだが、評判が悪くてな。キッツい令嬢で、氷結の毒華って呼ばれてるんだ。無表情で笑わない、口を開けば毒を吐く、男に対しても怯まない令嬢。お前も相対したろ。あのジーン殿の妹で、ジーン殿にすら毒を吐いてるって令嬢だぞ」


 あの、エドワルドと大差無かったあの人に……。令嬢だろうとこの国の人間は恐いっっ!!

 そんな事を心底思う捕虜の男と、兵士達の帰りが遅いと様子を見に来るエドワルド。


「エヴァンス家の当主が親馬鹿発揮して甘やかしたのか、前の王宮主催の夜会でも、男のエドワルド様の前に出て、話し掛けて来た男を馬鹿呼ばわりしたんだと。でも、スタイルは抜群で、一度ぐらいは手を出してみたくなる上物だぞ」

「あの口と態度がなけりゃあ引く手数多だったろうに。まぁ、念願の公爵夫人になる事は決まったんだし、噂通りなら、公爵家の後継ぎさえ産めば、遊んでくれるかもなぁ」

「おい、いい加減にしとけ。エドワルド様に聴かれたら……」

「大丈夫だって。裏で何人も遊んでるような女だって噂だぞ?エドワルド様やジーン殿のいない時に、男が屋敷に忍んで行ったらしいし、その後全然見掛けないらしいから、屋敷のどっかに囲んでんじゃねぇか?今も」


 他の兵士達は口を閉じ、真っ青になっているが、その兵士は背後に気付かず、ぺらぺらと喋っていた。
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