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本編

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 その日の夜、エドワルドはジーンと共にエヴァンス邸へと寄り、リラに心から謝罪する。


「本当に済まない。リラとの約束を破る事になってしまうが、許して欲しい!」

「えっ、エドワルド様?!」


 頭を下げるエドワルドに代わり、ジーンが冷ややかな声で説明をする。


「今朝の会議で、ドレファン国側がローズウッド公爵領のルーデン地方を襲ったらしい。援軍は直ぐに派遣したけど、場所が場所だから、厄介なんだよ」

「それなら、エドワルド様の所為では無いじゃないですか!頭を上げて下さい!」


 リラに言われて頭を上げるが、エドワルドとしてはリラに申し訳ない気持ちで一杯だ。

 リラがあれ程喜んでいたと言うのに、その翌日に撤回しなければいけないのだから。


「それでも、私がリラとの約束を守れないのは事実だよ。今日は来れたけれど、明日以降はどうなるか分からないし、クルルフォーン邸に招く事やエヴァンス侯爵領の訪問も暫くは延期になってしまうから」


 エドワルドの落ち込みと、ジーンの怒りを目にしたリラは、ジーンに問い掛ける。

 その声はいつもより若干低く、外用のリラを彷彿させる物だ。


「……ジーン兄様、詳細をお聞きしても?」

「越境して来たドレファン国の者達が、ルーデン地方にあるダド村を襲ったらしい。ローズウッド公爵が、最近怪しい人影を複数回目撃されていると聞いて、警戒に当たっていたそうだ。被害は最小限で済んだものの、あの近辺に潜伏しているようだ」

「ルーデン地方、ダド村……」


 リラは思考を巡らせる。何かがリラの頭に過ったからだ。目を細め、記憶を探り続け、そしてリラは、その過った物を記憶の中から見付け出した。

(わたくしの大切なエドワルド様や兄様を不快にさせ、王族であるエドワルド様を、女であるわたくし相手に頭を下げさせるなんて、随分良い度胸をしていますわね、ドレファン国国王陛下?)

 その顔は、まるで猫が獲物を捕らえて甚振いたぶる前の、獲物を見付け、狩りに入る時の顔に似ている。


「今からおよそ六百年程前に、ルーデン地方のドレファン国沿いにある山岳地帯で、水害が多発。その為五十年程の歳月を掛け、人工の河川を増やし、水量を分散させて水害を減らしたと、記述された文献が有りましたわ。当時の地図も違う書物で見た覚えがあります。現在の地図と照らし合わせれば、利用出来ませんか?」


 いつもより若干低いトーンの声で、リラが告げる。それは、リラが本気で激怒している証拠だった。
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