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本編

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「リラ嬢はとてもダンスがお上手でしたね」


 エドワルドの言葉にリラは答える。


「あれぐらい、侯爵令嬢として当然の嗜みですわ」
[訳=わたくしなんてまだまだですわ。周りには、わたくしと同等以上の令嬢方がいらっしゃいましたもの]


 実際、リラ以外にもダンスの上手い令嬢達が周りでダンスを踊っていたりもしたのだが、パートナーの腕が悪かったり息が合わなかったりと、脱落したり失敗したり、止めてしまったりする者達が続出した。

 それもその筈。リラ達のダンスを妨害しようと、オーケストラの指揮者に、曲が終わる度に難易度を上げろと苦情を入れていた貴族がいたからだ。

 彼は気付かれている事に気付いていなかったようだが、エドワルドは、その貴族の顔も名前も確りと覚えている。

 四曲目に入る時、リラ達がダンスフロアを出ていかないと知って、向きになったのだろう。最高難易度の曲が流れて来たが、リラもエドワルドも難無く踊り終えたのだ。


「わたくしは、パートナーに恵まれ過ぎただけですわ。最後の曲は、一人だけだと無理がありますもの。わたくしよりも上手な令嬢や子息達は、パートナーに恵まれず、ちゃんと踊る事が出来なかったみたいです。ですから、わたくしが上手なのでは無く、エドワルド様がお上手なのですわ」


 その言葉はリラの本心だ。エドワルドだから踊れたと、リラは思っている。

(間違ってはいないのだけれど、私もリラ嬢だから完璧に踊れただけなのに。あの曲は、最高のパートナーで無いと踊るのは難しいから、完璧でなくとも踊り切る事が出来れば問題は無かったのだが、難無く完璧に踊り終えてしまえるなんて、あの男も想定外が過ぎただろうな)

 四曲目の曲を踊り終えた後の男の顔と言ったら、顔が真っ赤で威嚇している猿その物だ。

(いや、猿の方がまだ賢いかも知れないな)

 そして、エドワルドが男を見ている事に漸く気付き、その顔を真っ青に変えてその場から逃げ出した。逃げ出した所で、もうエドワルドにはバレバレだと言うのにだ。


「リラ嬢、もうお披露目は済みましたので、もう少ししたら、陛下に挨拶だけをして帰りましょう。どうせ長居しても馬鹿が沸いて来るだけです。それなら、二人切りでいた方が有意義です」


(さすがにドレスを全部脱がすと、着付けられる自信も時間も無いだろうから、出来る範囲で味見をしよう)


「……そうします。夜会に長居すると碌な事がありませんもの」
[訳=……そうします。夜会は苦手ですので、二人切りの方が嬉しいですもの。長居したら、エドワルド様目当ての女性に囲まれる可能性もありますから、早く去りましょう]


 エドワルドが、不埒な事を考えている等知る事も無く、リラはエドワルドの言葉に素直に頷いた。
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