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本編

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 エドワルドは、現在リラと続けて三曲踊っている最中だが、リラに疲れた様子は見られない。

 公の場で未婚者の場合、この国ではダンスにも隠された意味がある。
 一曲だと初対面、もしくはあまり面識の無い者、ただダンスを楽しむ目的。続けて二曲は知り合いや友人、好意を少しだろうと持っている事を示す。続けて三曲になると恋人や婚約者で、将来を考えている最中か、決定した者達だ。婚約発表しているなら結婚までの秒読み段階、まだなら婚約までの秒読み段階。と言った具合に、同じパートナーと続けて踊るとその回数で暗黙の意味が隠されている為、余程の無知で無い限り、その意味にのっとったダンスをする。


「リラ嬢、もう一曲いけますか?折角だから見せ付けましょう」

「?!ほっ、本気ですか?!」

「勿論」


 四曲以上は、生涯そのパートナーとしか結婚しないと決めた者。離婚も再婚もしないと言う決意。四曲以上踊っておきながら、他の者に手を出せば、いい笑い者、つまりは一生死ぬまで嘲笑われ続ける事だろう。パートナーをたがえた場合はだが。

 それ故に、四曲以上を踊る男女はこうも囁かれる“狂気の沙汰”だと。

 若い一時の情熱で、この先パートナー一人で満足出来る訳が無いと。

(こんな事、彼女以外で出来る訳が無い。彼女だからこそだ)

 四曲目の曲が始まり、それでも踊り出すエドワルドとリラを見て、会場内がどよめきに包まれる。公爵ともあろう者が、その意味を知らない筈は無いからだ。

 あちこちから、絶望的な悲鳴や、人の倒れる音がするが、ダンスフロアからでは聴こえない。そもそもエドワルドには、耳を傾ける気すら無いが。

(やりやがったよ、あいつは……!)

(やりそうだとは思っていたが、本当にやるとは……)


「リラ嬢、これで一心同体ですね」

「そっ、そうですわね?」


(えっと、あの……たっ、多分、わたくしの不安を解消して下さったのですわよね?わたくしが捨てないで下さいと言ったから……。えっ、エドワルド様、格好良すぎますぅ~!!うっ、嬉し過ぎて顔面崩壊してしまうじゃないですか!駄目よ、リラ!おっ、お屋敷まで我慢です~!)

 エドワルドの肩に顔を埋め、エドワルドと繋がる手に力を込め、エドワルドにだけ聞こえる声で言葉を紡ぐ。


「あっ……有難う御座います」


 エドワルドは、自分の独占欲からした事なので、お礼を言われるとは思ってもいなかった。エドワルドはリラの手を少しだけ強く握り返して言葉を返す。


「……どう致しまして」


(可愛い!可愛過ぎる!!本当に、心底彼女を持ち帰りたいのだが!!)

 他から見れば、リラが項垂れているようにも見えるのだが、誰がどう見てもエドワルドは上機嫌だった。
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