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本編

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 エドワルドが上機嫌のまま、リラをソファーの隣に座らせ寛いでいると、夜会の開始となる時間の鐘の音が、王宮内に鳴り響く。

 家位の低い者達は、既に会場入りを果たし、公爵の位にある者達は、この鐘の音が鳴り響いてから会場へと向かい、王族は全員の会場入りが確認された後に会場へと向かう。

 因みにこの鐘の音が鳴った後や、ギリギリだろうと遅れて王宮に来た者は、当然ながら門前払いだ。

 エドワルドはリラを伴い会場へと向かう。

 会場内ではいつも以上の大勢の貴族が溢れていた。

 どうやら、噂の真相が知りたくて、集まった者達が多いようだ。

(暇人共が多いな。私の事に関心を示す前に、その関心を少しでも領民に向ければ良い物を)

 エドワルドが子供の頃は、気味が悪いと散々陰口を叩いていた者達ですら、美貌に磨きが掛かり、政務官としての能力も高く、王子の後見人でもある男を敵に回すよりも、身内に引き込もうと必死なようだ。自分達の過去は棚に上げて。


「クルルフォーン公爵が、あの・・エヴァンス侯爵令嬢を連れているぞ!」

「あの噂は本当だったのか?!」

「うっ、美しい……美しいが、性格は最悪だぞ!!あんな氷結の毒華なんかより私の娘の方が良いに決まってーー」


 こそこそと小声で話している貴族達、特にリラの性格が最悪と評した男をエドワルドは流し見る。聞こえているぞと言うように、冷笑を向け、その男からは目を離さず見詰めてやると、男の顔色が悪くなっていくが、エドワルドにとってそんな事はどうでもいい。

(私のリラ嬢よりも、お前の娘が良いだと?随分と私のリラ嬢を下に見てくれているようだな?あんな香水臭い女のどこが良いと?性格と言うが、お前の娘の方が明らかに性格は悪いし、興味も湧かない。礼儀をわきまえないのは親子揃って同じだがな)

 エドワルドからすれば、声が聴こえた時点で誰が声を発しているのか判別出来る。

 幼い頃から雑音が煩かった為、暇潰しに噂の真相や出所を探る癖が付いている。大半の貴族の声や特徴、口癖等は記憶している為、壁越しだろうと間違う事なく高確率で当てられる特技が身に付いた。

 高が噂、然れど噂。

 突き詰めれば、真実だったり敵対勢力の流した嘘だったり、或いは、宝を隠す為の情報操作だったり。

 悪評高き娘が、実はとんでもなく素直で可愛いだなんて、一体誰が思うだろう。

 教えてやるのも勿体無いから、ここで言う訳にはいかないが、エドワルドは声を掛ける事も無く、その男の前を通り過ぎた。
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