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本編

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 リラの、普段隠されている肩や首の素肌部分に触れて、自分の物だと言う所有印を残したいエドワルドは、一先ず、害のある連中に、どう地獄を見せようかと考え、何とか気を逸らせる。

 そうでもしないと、今直ぐ馬車の中で襲い掛かりそうだからだ。

 そんな事を考えていると、漸く王宮へと到着したので、エドワルドが先に降りてリラに手を差し出す。

 ただ、エドワルドの本心としては、このまま人前には出さずに連れ帰りたい所だが。


「リラ嬢、お手を」


 エドワルドの目の前で、リラの細く長いスラリとした指先が流れ、手袋に包まれたその手をソッとエドワルドの手の上に重ねられる。

(この手袋の中にある素手で、全身の素肌を隈無く撫でられたなら、どれ程気持ちが良いのだろうか?ああ、だが先ずは、私が彼女の素肌を丹念に味わい尽くし、その全身に愛撫を施す。唇ですら、あれ程甘く気持ち良いのだから、その先はもっとだろう)

 リラの手を握り締め、不埒ふらちな考えをしている事は全く顔に出さず、リラが降りて来るのを待つ。

 その場にいた誰もが注目する中、リラは背筋をピンと伸ばし、エドワルドに支えられながらも降りる。

 その美しさに誰もが息を呑み、見惚れている。元々美しい令嬢だったが、華やかな衣装とメイクでここまで美麗さが増すのかと。

 そんな事等露知らず、リラはエドワルドに自然な形で腕を組まされる。


「皆様ごきげんよう。ですが、あまりに不躾過ぎではありませんか?用も無いのに、ジロジロ見ないで頂きたいですわ」
[訳=皆様ごきげんよう。あの、視線が痛いですよ?わたくしなんて見ても、面白くなんて無い……筈ですので、どうか他所を向いて下さいませ]


 どんなに美麗に装っても、毒吐きは同じかと、皮肉な顔付きで目を逸らす周囲。

 リラに向いていた視線が逸らされて、内心ホッとしていると、近くの馬車からジーンも降りてきた。


「エドワルド殿、申し訳ない。このような愚妹ですが、本当に宜しいのですか?今ならばまだ、間に合いますが?」
[訳=エドワルド殿、このような茶番に付き合わせて申し訳ない。このような自身に対して鈍い妹ですが、本当に後悔しませんか?今ならばまだ、手を引いても構いませんからね?]


 何気に破談を勧めるジーンに、エドワルドは笑顔で拒否する。嘘でも頷く気は無いし、リラに誤解されては堪らない。何より、他の男に寄り付かれる隙を与える気は、毛頭無いのだから。


「勿論ですよ。私はリラ嬢に一目で惚れて、縁談を申し込ませて頂いたのですから。邪魔をするなら、喩え兄であるジーン殿を敵に回してでも、私はリラ嬢を妻にしますので」


 エドワルドは珍しく、口に笑みを見せているが、その空気は凍り付いたと周囲の者達は感じ取った。
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