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本編

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 夕食を終え、エドワルドが帰り支度をすると、リラがエドワルドの元に来る。


「馬車までお見送りしますわ。その、おっ、お兄様が見送りなさいと仰るから!」
[訳=わたくしで良ければ、馬車までお見送りしますわ。おっ、お兄様が見送っても良いと仰るので!]


 頬を赤く染めながら、自分の意思ではないと主張しているように言ってるが、本当に嫌ならリラはそうはっきり主張する。ジーンが口添えした事に変わりはないが。

 エドワルドがジーンを見ると、ジーンは笑顔で手を振る。その口元はエドワルドに見えるように動いていた。


『連れ帰ったら、結婚式まで会わせませんからね。今許容出来るのは、少しの散歩と未婚女性が使用人の前で出来る所までです』


(抱き締める事や、キスまでは良いが、服には手を掛けるなと言う事か……。まぁ、と言うから、次に期待だな。後はリラ嬢がどこまで許してくれるかだが……)

    不快にさせなかっただろうかと、少し不安そうな顔でエドワルドを見上げるリラ。

(あまり煽らないで欲しいな。只でさえ欲求不満が溜まっているのに、連れ帰れないのなら馬車の中に連れ込んで、思う存分貪りたいと願ってしまうじゃないか。今はまだ、妄想の中でだけに留めてあげるけれど、その内貴女の全てを奪うからね。取り敢えず、そのつややかで魅力的な唇を、どう攻略しようかな?)


「ではお手を。外まで貴女と共に歩く権利を私に下さい」


 内心の思惑を綺麗に隠し、エドワルドはリラの手を腕に組ませて玄関に向かう。

 馬車置き場に馬車はあるものの、御者はいない。ジーンが先に手を回したのだろう。でなければ優秀な者を雇っている意味がない。


「リラ嬢、もう少しだけで良いので二人切りで散歩をしませんか?」

「……宜しいのですか?お忙しいのでしょう?」

「貴女との時間を過ごせるならば、私は何としてでも時間を作りますよ」


 リラの何も掴んでない手を取り、その手にキスを贈ると、リラの顔が真っ赤に染まる。

(えっ……エドワルド様はタラシだわ!!!)

 調子を崩されっぱなしのリラは少し悔しい。自分だけがエドワルドに翻弄されていると思うからだ。実際はリラも充分エドワルドを翻弄しているのだが、無自覚とは恐ろしい。


「エドワルド様はズルいです。そんな事を言われて喜ばない者はいませんわ。そんな事、他の人には言わないで下さいね?」


 リラはキスを贈られた手を支えに背伸びをし、お返しとばかりにエドワルドの頬に親愛のキスを贈った。
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