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本編

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 他愛の無い話、と言うか、エドワルドの巧みな話術により、エドワルドにとって充実した時間が過ぎる。さすがに二人切りは許されなかったが、それでもリラと過ごせる時間はとても嬉しい物になる。

 リラとジーンの母であるリリーが戻り、夕食を共にする際、リリーからリラの子供時代の話を聞く。

 曰く、いつもジーンの後ろに付いて歩いて、ジーンのやる事なす事真似していたり、ジーンが王立学院に行ってからは、ジーンの好きな花を庭師と植えたり、ジーンに贈る為に刺繍を刺したりと、本当にジーン大好きっ子なのよねと。

(そっ、そんな事、当然ですわ!わたくしにとってジーン兄様は、自慢で、理想のお兄様ですもの!格好良いし優しいし、賢くて、いつでもわたくしの味方をして下さるジーン兄様は、憧れであり大好きな兄様ですわ!)

 リラはそう思いつつも口には出さない。出して良いのは家族と使用人達の前でだけだと思い込んでいるからだ。


「あら、珍しいわね?リラが肯定しないなんて。いつもなら直ぐに肯定して、ジーンの事を誉め称えるのに」

「だって……」


 リラがエドワルドを気にする素振そぶりを見せるので、ジーンがリラに聞いてみる。


「エドワルド殿がどうかしたの?大丈夫だよ、彼は僕達が仲の良い事に気付いているよ」

「……突き飛ばしたり、馬鹿にしたり……されない?」


 リラの言葉に、和やかだった場の空気が凍る。


「……どうして私が、リラ嬢を突き飛ばしたり、馬鹿にしたりしなければならないのかな?」

「だって……子供の頃にされたもの。お兄様の話をしていたら突然突き飛ばされて、それ以降、会う度に小突かれたり、馬鹿にされたり……人前で、お兄様の自慢話をしてはいけないのだとその時に気付きましたわ。だから、外で仲の悪い振りをすれば、わたくしだけではなくお兄様も、突き飛ばされる事や馬鹿にされる事なく済むでしょう?」


 リラはこれまで、殆ど他人と関わらずにいた為、家族の中でしかジーンの自慢話をしなかったが、まさかそんな風にずっと思い続けていたとは思ってもいなかった。

(リラに外では仲の悪い振りをしようとした提案に、あっさり頷いていたから、凄く寂しく思ってたけど、そんな理由があったなんて……)


「やはり、切り落とした上で、罪人に仕立てあげれば良かった……」


 リラには聴こえないように口元だけで呟くジーン。


「同感です」


 そんな男と同一にされたエドワルドは、ジーンと同じように口元で呟き返した。
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