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本編

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「とても美しい装飾品を有難う御座います。わたくし、この先一生、とても大切に使わせて頂きますわ」


 頬を赤らめ、嬉しそうに微笑むリラだが、本人はその事に全く気付いていない。エドワルドと接している間、無表情と言う名の仮面は剥がされ、喋り方も素の状態に戻っているが、兄が家族向けの口調と態度で接している為、違和感が無いのもあるからだ。

 その上、今の台詞はリラに他意は無くとも、自分は一生貴方の物だと言っているような物である。

 ただ、今までの言動から、リラがそんな意味で言っていない事にエドワルドは気付いているが、それでもリラの言葉は本心だと分かる為、可愛くて仕方ない。


「お嬢様、お付けしましょうか?」


 おずおずと、部屋の隅に控えていた侍女の一人が、リラに声を掛ける。


「レベッカ、お願いしても良いかしら?」

「はい」


 レベッカと呼ばれた小柄な女性がリラの後ろに回り込み、リラから首飾りを受け取り、元々何も付けていなかったリラの首に飾る。


「髪型はどうなさいますか?」


 リラはハーフアップにリボンを付けている状態だ。


「リボンだけ外してそのまま付けて頂戴」


 レベッカは、リラの言う通りにする。そもそも身嗜みは男性に見せる物ではないからだ。身内だけなら未だしも、ここには他人のエドワルドがいる。いくら婚約者になるとは言え、婚姻した訳では無いのだから。

 それでも別室に移らずにいたのは、物凄く気に入ったと解って貰う為。


「出来ました」

「有難う、下がって良いわ。……どうでしょうか?」


 鏡で見ていないので、少し不安気にエドワルドを見るリラに対し、エドワルドは優越感で心を満たされる。

(こうして形だけでも、私の物だと視認出来る事がこれ程嬉しいとは思ってもいなかったな)


「よくお似合いですよ。少し後ろを向いて頂けますか?」


 エドワルドの言葉に顔を後ろに向けて、髪飾りが見えるようにする。

 青みの強い青銀色の真っ直ぐな髪がサラサラと揺れる上部に、銀の髪飾りが青みを引き立てるかのように輝き、その中心にはエドワルドの瞳と同じ色の宝石が、負けじとその色を煌めかせる。


「想像していた以上に嬉しいものですね、愛しい貴女に私の色の装飾品を身に付けて貰うのは」


 テーブル越しに、リラの髪をすくい上げ、その髪に口付けを落とすエドワルド。


「ななななっ、何をしていらっしゃるのですかエドワルド様?!」


 リラは顔を真っ赤に染めて、髪を手元に手繰り寄せる。その姿は、突然尻尾を握られた猫が、毛を逆立てて威嚇しているようにも見えた。
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