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本編

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「リラが大声を出すなんて珍しいわね、しかもお客様の前で」


 クスクスと笑いながら、一人の美女がサロンへと顔を出す。


「母上」

「お母様!」

「お久し振りです、クルルフォーン公爵様。話はジーンから聞いておりますが、本当に、我が家のリラで宜しいのかしら?こう言っては何ですが、リラは社交に向いておりませんし、公爵夫人として夫を立てるような娘とは思えません。それでも良いと、何事からも、何者からも娘を守り、わたくし達以上に娘を愛し、幸せにして頂けますでしょうか?嫁がせて早々、離縁だなんて事になれば、エヴァンス家は黙っていませんわ。それでも宜しくて?」


 にっこりと、美しい笑顔でエドワルドに問うが、その瞳の奥は冷ややかで、生半可な気持ちで近付く事を許さない気迫が充分過ぎる程に籠められていて、並の男なら、その場で逃げていても不思議では無い。


「勿論。私はリラ嬢に社交を押し付ける気もなければ、公爵夫人と言う枠に嵌めるつもりもありません。私が望むのは、公爵の妻では無く、私の妻。私と言う男の妻として、一生私のかたわらで過ごして頂く事です。その為なら、使える物はあにでも何でも使いますよ」

「その情熱が、熱し易く冷め易い物で無い事を、わたくしは祈っておりますわ」

「それは問題無いでしょう。私自身、不能かと思える程性欲が無かったのに、リラ嬢相手だと尽きる事の無い欲に悩まされているぐらいですから」

「……それならば結構よ。リラ、貴女とんでもない方に好かれたわね。でも、これぐらい愛して下さる方なら女冥利に尽きるわよ。諦めて頑張りなさい」


(おっ、おおお、お母様相手に何て事を仰るのですかぁぁぁ!!!少しは慎みと言う物をお持ち下さいっ!!お母様も楽しまないで下さいませ~!『諦めて頑張る』の意味が分かりませんからっ!!)

 ふふふ、とまるで玩具を与えられた子供のように瞳を輝かせる母に対し、リラは引き気味だ。


「そうは言ってもここまで重い愛情だと、リラが少し可哀想に思えてきますよ」


 ジーンの言葉に母は言い切る。


「あら、その点は大丈夫よ。リラは貴方の重度のシスコン愛情に対して、重荷だとは少しも思っていないもの。多少重過ぎる愛情の方が、鈍いこのにとって丁度良いのではないかしら?寧ろ、薄っぺらい愛情なら早々に手を引いて頂くよう、我々エヴァンス家が持つ全てを使ってでも阻止すれば良いだけよ。わたくしだって愛する娘を不幸にすると判る相手の手に委ねさせる気は無いわ」


 口元には笑みを、瞳には好戦的な光りが浮かぶ。リラが無表情の仮面を被るのに対し、母親は笑顔と言う名の仮面を被る。

 その美しさに惑わされてはいけない。

 その華は毒やトゲを隠し持つ華。油断した者は、その華に守られていない限り、痛い思いをするからだ。
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