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本編

16 (エドワルド視点)

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「自覚が無いと言うのも困った事だな」


 リラは自分を醜いと言うが、社交界で見せる顔ではなく、こうして素に近い顔をすれば、目の鋭さも薄れ愛らしく、国内でも稀に見るような美貌の持ち主であると理解出来るだろう。薄化粧ではあるものの、目の鋭さを強調するようなメイクの為、人の好みは様々だが、誰もが一度は振り向く美女である事は間違いない。

 見惚れる前に、リラの蔑むような高飛車ぶりと厳しい口調、目付きが鋭くきつい上に、令嬢には似つかわしくない殺気立った雰囲気を放たれてしまえば、誰もがお近付きになりたくなくなる事だろう。喩えチャレンジャーがいた所で、話し掛けても笑顔を見せず、その寒々しい雰囲気と毒舌で撃沈させられるのが関の山。しかもリラは『ダンスは踊らないのですか?』と問われて、『親兄弟を除き、王族か公爵以外の相手と、踊る必要性は全く感じませんが』と、デビュー時に言い切った強者だ。

 その場にいた誰もが、“令嬢リラは王族か公爵目当ての玉の輿狙いな高慢高飛車女か”と思い込んだが、リラをよく知る親しい者達なら口を揃えてこう言った筈だ。『ああ、親兄弟は兎も角、王族や公爵は断れないからな』と。ジーンもそれを踏まえた上で、リラに王族と公爵以外は踊らなくて良いよと言っていたのだ。

 コミュ障のリラが、王族や公爵と縁を持とうとする思惑等、全く無かったと言うのに、その公爵に目を付けられるなんて想像もしなかった事だろうが。

 普通なら、高慢高飛車女等、扱い難い上に浪費家が多い。この国の王族や公爵は、多少の浪費でどうにかなるような王族でも公爵でもないが、莫大なメリットが無いなら好んで欲しがる者は稀だろう。

(それを狙っての発言だったのかも知れないけれど、実際、私もリラ嬢のあの笑顔を見るまでは、噂通りだと思わされていたのだけれど、あの笑顔と口の動きで別の顔を持つと知り、暴きたいと思ったのだ。本当に隠したいのなら、誰もいないからと、外であんな顔を晒すべきでは無かったんだよ。まぁ、そのお陰で私は、幸運にも気付く事が出来たのだけれどね)

 他の男が気付かずにいてくれて、心底良かったと心から思う。

 この二年の間、もし、気付く事の出来た男がいたなら、それがジーンの条件に合っていたならと、内心ずっと気に掛けていた。リラと早く接触したいのに、当の本人は中々捕まらず、月日だけが過ぎ去る焦燥感。

 ジーンに直接リラの事をたずねよう物なら、誤魔化されるか警戒されるだけ、下手をすると早々に婚約者を見付け出し、結婚させて手を出せないようにするかも知れない。ジーンならやり兼ねないと、気持ちを気付かれぬよう、ただただチャンスを待っていた。

 リラと接触さえ出来れば、何があろうと何を言われようと、必ず自分の物にすると決めていた。その為なら、兄を脅す事にだって躊躇わない。それ程に彼女に焦がれていたのだから。
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