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本編

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「二年程前と言われましても、わたくし、クルルフォーン公爵様とお会いしたのは一昨日が初めてだと記憶しておりますが?」


 人違いでは?と思いながら、恐る恐るリラは問う。先程の鋭い眼差しの影響で、本調子ではないけれど、ここには兄のジーンもいる事だし、罵倒されるにしても、少なくて済む筈だと決意して。


「ああ、確かにお会いしたのは一昨日ですが、私は何度か貴女を見掛けていますよ。王立図書館や夜会等で。ただ、図書館でも夜会でも、貴女は直ぐに立ち去ってしまうから、私が声を掛けようと近付く前にいつも逃げられてしまいました。本当はもっと早くに声を掛けたかったのですが、邪魔が多く、苦労しましたよ」


(そんな追い掛けられる程の容姿でも無いし、好かれるような事すら言えないわたくしに見惚れる意味が解らないわ。やっぱりここは、他人ひとに言えない相手がいるか、身分違いの恋人でもいらっしゃるのかしら?)

 未だに本気で結婚を申し込まれているとの認識が無いリラは、エドワルドがリラを名ばかりの妻、カムフラージュ要員にでも仕立てたいのかと思っている。


「わたくしのような悪評高い娘より、もっと愛くるしく社交性のある女性の方が宜しいのではなくて?政略にしろ、わたくしではあまりお役に立てないと思いますわ」
[訳=わたくしのような悪評高い平凡以下の娘より、美人で上手く立ち回れる社交性のある女性を妻にした方が世間的にも良いと思われますよ?いくら政略婚でも、わたくしでは美貌も社交性も無いので足を引っ張る事は有っても役には立たないと思います。出来れば話を他に持っていって下さった方が賢明だと思いますよ?]


 残念ながら、エドワルドの言葉はリラに届いていない。

 リラの言葉にエドワルドは口元に笑みを浮かべたまま、リラに聞き返す事にした。


「……どこから政略が?リラ嬢は、私との結婚がそれ程までお嫌ですか?」


(まぁ、喩え嫌だと言われても、絶対に逃す気はないけれど)


「わたくし、公爵様に好かれる要素は何一つ思い浮かびませんもの。となれば、公爵様の想い人は別に居て、名ばかりの妻を欲していらっしゃるのでしょう?わたくし、そんな茶番に付き合う気は毛頭ありませんわ」
[訳=わたくし、公爵様のような目も眩む美貌の持ち主に好かれると思える程、自惚れが強くありませんわ。公爵様を嫌う女性はいらっしゃらないでしょうし、名ばかりの妻なんてわたくしには荷が重すぎます。愛情の無い結婚生活なんて虚しいだけですし、これ以上期待したくも嫌われたくもありません。そんな茶番に付き合わされる方の身にもなって下さい!]


 自己評価の低いリラは、エドワルドの前で言い切った。
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