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フェールの花-価値のない王子は完璧な王に愛される-

第4章・真意 24 突然の悲報

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 ある程度の案件に目を通し終わった昼過ぎに、顔色を変えたネイトが戻って来た。急な使者が来たとのことで、対応に行かせていた。

「フェールの第二殿下が行方不明になったそうです」

 耳を疑いそうになる。手紙と箱が届いてから、まだ五日だ。

 フェールからアラガスタの城まで、最短距離で八日、馬で急いでも五日くらい。手紙が書かれたてすぐ送られたとして、約十日程。

 北部に到着して数日も経たずに消えたことになる。さらになぜわざわざ知らせに来たのか、理由がわからない。

 クリースとは昔ながらの知り合いでもない。先日の祭りで初めて会話をしたくらいだった。

 仲が良いと勘違いする者もいるはずがない。

「で、使者は何を望んでいる?」

 言いづらそうな顔をした後、ネイトがボソボソと口を開く。

「クライス様とお会いしたいそうです」

 やはりかと思った。目的はクライスに何かを伝えるためなのだろう。

「断る」

 不機嫌になったのを隠す気もなく、さっさと使者を追い返せと伝えるために部屋の外を指差す。ネイトが絶望感を出し始めたが無視する。

「簡単に言わないでください! 外交というものが、世の中には存在しているんです!」

「クライスはもうフェールの者ではない」

 故に決定権はこっちにある。

「理屈はそうでしょう。でも違うってわかってますよね?」

 思わず舌打ちしてしまう。ネイトの顔がさらに悪くなる。

 品位にかけると、言われなくても顔に出ている。仕方なく立ち上がって部屋から出る。

 わかりやすくほっとしたネイトを、城に一日くらい吊るしてやりたいと思ってしまう。使者を通したであろう応接間に向かうと、ネイトも黙って着いてくる。

 内乱のせいもあって、城は守りに堅いがだいぶ無骨なものに変わった。昔はもう少し優雅な城だった記憶がある。

 しかし無駄に城のために金を使うなら、民のために使うとスリアと意見が一致して、そのままの状態になっている。スリアを守るために塔を建てるのも、本人からは反対されていた。

「そちらです」

 示された部屋のドアを開けると、ひ弱そうな男が一人いる。姿を確認してすぐに立ち上がり頭を下げられる。

「顔を上げろ」

 向かい側のソファーに腰を下ろすと、相手も座って正面から顔が見える。特徴のない男だと思った。

 見たことはない男だと思うが、絶対という確信は持てない。どこかで会っていると言われたら、会っているのかもしれないと思ってしまう。

「用件を言え」

「王におきましては……」

「無駄な挨拶は省け。暇はない」

「恐れ入ります。では率直に失礼します。クライス様にお目通り願いたいのです」

 言いながら深々と頭を下げられる。

「断る」

 男は頭を下げたまま動かない。後ろに控えているネイトからは、不穏な空気を感じる。

「どうしてもでしょうか」

「くどい。伝言なら伝えてやろう」

 沈黙が部屋に満たされたが、全く気にならない。気になっているのは、使者とネイトだろう。

 このままどれだけ時間が過ぎようと、コールには関係ない。

「……では、王がとてもお心を痛めていると」

 よく笑い出さずに我慢できたと、自分を褒めてやりたくなる。クリースが行方不明になって心が痛いと?

 正直、フェールの王のせいで姿を消したのではないだろうかとすら思っている。明らかに王はクリースを邪魔だと思っていた。

 もしくはクリースが自ら姿を消したという可能性もある。当たっているなら、嫌気がさしたのだろう。

「さらにクリース様の代わりに、従兄弟のマクス様が王位を継がれると」

「確かに聞いた」

「ありがとうございます」

 もう用はないと部屋から出る。後はネイトに任せておけば追い出してくれるだろう。

 しかし公の使者でもないのに王を呼ばせるとは、舐められだのだと思う。相手の出方がわかっていたのなら、無視していたところだ。

 クライスにいまの話をしたら、間違いなくフェールに帰りたいと言うだろう。反対すれば無理にでも向かおうとするのが目に見えている。

 もう王はクリースが死んだとわかっているようだ。行方不明とは言っているが、探させてもいないだろう。

 なりふり構わず、欲しいものを手に入れようとしている。

「お伝えするつもりですか?」

 いつの間にか戻ってきたネイトに後ろから声をかけられた。クライスを塔から出さないようにしているおかげで、情報を勝手に手に入れることはないだろう。

 けれど本当にクリースが亡き者になっていた場合、教えなかった人間をクライスは二度と信用しないだろう。

「伝えるしかないだろう」

 もし行方不明になっているのも知らないまま、スリアが亡き者になったら、自分は絶対に相手を許さない。

「精鋭を数名、フェールの北部へ向かわせろ」

「有事の際はどうしますか?」

「クリースは王位継承権を持っている。何としても助けるように」

「……わかりました」

 ネイトが考えていることはわかる。他国への干渉はするべきではない。

 一歩間違えれば、アラガスタの民を戦に巻き込むことになりかねない。しかしマクスというものを、コールは知らない。

 どんな人物なのか、野心はあるのか。知らない人間が王になるよりは、わかっている人間の方がましだ。

 さらにクリースならば、お互いの利になる国交ができるだろう。
 
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