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いつもの帰り道。途中まで岩田さんと笹村さんと一緒に帰った。彼女らの受験が落ち着いた時、一緒にどこかでパーティをしようと約束までした。
(何だかここ数か月、大きく変わったな……)
それをヒシヒシと感じていた。笹村さんの妹がいじめられたのを助けた時から変わった。助けたという感覚はなかった。助けたような行動をとった覚えもある。と言ったほうが近いのだろうか。私の胸の内は立派なものではなく、過去の自分あの時の自分を見ている気がして嫌気がさしてしまい、咄嗟に庇った。自分の面倒事はもう見たくなかった。というのが失礼ながら本音だった。私は情けないが、優しくも出来た人間でもない。そんなことを考えると笹村さんにも、笹村さんの妹にも申し訳なく思った。
罪悪感を感じながらも、この半年で人間関係が変わり、深山ゆきさんのファンになってしまい、お洒落やダイエットに目覚め、約半年で七キロも減量することが出来た。推し友も出来た。デザイナーになりたい目標も出来て、M女子大の指定校推薦も獲得出来た。目まぐるしい日々だったけれども、充実した日々。ふと空を見上げる。暑さが残っているものの、カラッとした暑さでトンボがところどころ飛んで行くのが見える。周りのアパレルショップでも、長袖の服やボルドー色や茶色の服を見るようになった。
(あぁ、何だか色々あったなぁ)
ふと立ち止まって空を眺めて目を閉じた。また自分の人生が変わる時だ。他人のと触れ合うのが苦手で、特に同年代の子達のコミュニケーションは、思いがけない方向から心を叩かれるようなものに感じられて苦痛だった。でも今は違った。私を信用してくれた人達、こんな私を助けてくれた人達のお陰で、今の私は成り立っているのだと実感した。
(久保田君にも感謝しなきゃ)
目を開けて再び歩き始めたときに、「よぉ」と、いつも突然話しかけて来る久保田君の声が聞こえた。
「あぁ、久保田君」
とは言ったものの、何を話せばいいのだろう。沈黙していると久保田君はイケメン顔にスマイルを浮かべた。
「指定校、おめでとう」
「ありがとう」
まさか、彼が祝福の言葉を述べてくれるとは思っていなかった。淡々とした会話。他の子達みたいに和気あいあいと話せればいいのに。
「久保田君は、総合型選抜受けるんでしょ? もうすぐだね」
「あぁ……。でも受かるかなぁ」
倍率高いし。と、久保田君はウンザリしたように空を見上げた。確かにA大は難しい。
「けど、なんでさ、久保田君はA大に行きたいの?」
ずっと疑問だった。彼がA大に入りたい情熱はとても大きかった。
「んー、特に大きな理由はないけど、いい会社に就職出来そうだから。まぁそれだけの理由だけどな。君みたいに大きな目標がある訳じゃないし」
「そっか。でもそういうのも良いんじゃない?」
すると「え?」と、私の顔を確認するように言う。
「良い会社に入りたいっていう気持ちも大事だよ。給料は良いだろうしさ」
会社員になりたいっていう目標だって、立派だ。私はデザイナーになりたい。という夢を抱いているけれども、もし目指すとしてもどこかのアパレルの会社に入ることになるだろう。
久保田君は「うん」と頷いてから、また何かを思案しているようだった。九月の柔らかな風が鼻孔をくすぐり、クシャミが出そうになった。
「君さ、駒田の告白断ったんだって?」
「えっ」
思わずドスの利いた声が出た。駒田君と久保田君は仲が良い。だから久保田君が知らない訳はないか。それにしても、当事者の私が忘れていたことを何故今になって言うのだろう。
「うん。まぁ。受験生だし忙しいし」
曖昧な返しをした。すると久保田君は「君は偉いな」と言う。
「目標に向かってどこまでも突き進んでいくから、凄いと思うよ。俺も見習いたい」
何故か私を褒めるのか分からなかった。何が聞きたいのか分からなかった。首を傾げている私に対し、彼はつづけた。
「君は、心に決めた人がいるの?」
「えっ」
唐突な質問に肩と心臓が跳ねる。何故そんなことを聞くのだろう。
「な、何でそんなこと?」
「駒田って割とカッコイイじゃん? 結構あいつモテるんだよ」
「そうなんだ、知らなかった……」
それは初耳だった。カッコイイのは認めるけれど、そんなにモテるんだっけ。周りの女子から駒田君のことが好きだという話は聞いたことがなかった。単に私が知らないだけかもしれない。私は駒田君に興味がないから、彼がモテるとか知らなかった。
「いや、その……」
しどろもどろになった。こういう会話は私にとってはとても辛い。どうにかして凌げないのだろうか。しかし何故か久保田君は、真剣な眼差しを私に向けてくる。
「く、久保田君もさ、噂で、好きな人がいるって聞いたよ。だから安井さんのこと断ったとか、そんな噂もチラっと耳に入ってきたよ。安井さんだってめっちゃ可愛いのに、勿体ないよ」
自分に振ってほしくなくて、振り返した。いやぁ、なんてことを私なんかに聞くのだろう。そして私は何故素直に「いないよ」と言えなかったのだろう。思わず沈痛な面持ちになる。
「俺の好きな人は……」
「え?」
聞いてもいないのにあっさりと彼は言おうとしている。私なんかに喋っても良いのだろうか。私だって口が軽いかも
しれないのに。
「今、俺が喋ってる人だ」
そのセリフに、ビックリマークが目の中に飛び込んで来たような感覚に陥った。久保田君のセリフには迷いがなく、真っすぐ私の顔を見つめる。
「え、うそ……」
「嘘じゃない。笹村の妹を庇った時から、見ていた」
その言葉に足が震える。思わず体がフリーズする。何故奇跡ばかりが起こるのだろう。何故こんなイケメンで人気者の男子が私なんかを? 戸惑うしかない私を久保田君はジッと見つめる。何度も瞬きし、足がガタガタと震える私を見て察した久保田君は、「どこかで話そうか」と、提案した。
(何だかここ数か月、大きく変わったな……)
それをヒシヒシと感じていた。笹村さんの妹がいじめられたのを助けた時から変わった。助けたという感覚はなかった。助けたような行動をとった覚えもある。と言ったほうが近いのだろうか。私の胸の内は立派なものではなく、過去の自分あの時の自分を見ている気がして嫌気がさしてしまい、咄嗟に庇った。自分の面倒事はもう見たくなかった。というのが失礼ながら本音だった。私は情けないが、優しくも出来た人間でもない。そんなことを考えると笹村さんにも、笹村さんの妹にも申し訳なく思った。
罪悪感を感じながらも、この半年で人間関係が変わり、深山ゆきさんのファンになってしまい、お洒落やダイエットに目覚め、約半年で七キロも減量することが出来た。推し友も出来た。デザイナーになりたい目標も出来て、M女子大の指定校推薦も獲得出来た。目まぐるしい日々だったけれども、充実した日々。ふと空を見上げる。暑さが残っているものの、カラッとした暑さでトンボがところどころ飛んで行くのが見える。周りのアパレルショップでも、長袖の服やボルドー色や茶色の服を見るようになった。
(あぁ、何だか色々あったなぁ)
ふと立ち止まって空を眺めて目を閉じた。また自分の人生が変わる時だ。他人のと触れ合うのが苦手で、特に同年代の子達のコミュニケーションは、思いがけない方向から心を叩かれるようなものに感じられて苦痛だった。でも今は違った。私を信用してくれた人達、こんな私を助けてくれた人達のお陰で、今の私は成り立っているのだと実感した。
(久保田君にも感謝しなきゃ)
目を開けて再び歩き始めたときに、「よぉ」と、いつも突然話しかけて来る久保田君の声が聞こえた。
「あぁ、久保田君」
とは言ったものの、何を話せばいいのだろう。沈黙していると久保田君はイケメン顔にスマイルを浮かべた。
「指定校、おめでとう」
「ありがとう」
まさか、彼が祝福の言葉を述べてくれるとは思っていなかった。淡々とした会話。他の子達みたいに和気あいあいと話せればいいのに。
「久保田君は、総合型選抜受けるんでしょ? もうすぐだね」
「あぁ……。でも受かるかなぁ」
倍率高いし。と、久保田君はウンザリしたように空を見上げた。確かにA大は難しい。
「けど、なんでさ、久保田君はA大に行きたいの?」
ずっと疑問だった。彼がA大に入りたい情熱はとても大きかった。
「んー、特に大きな理由はないけど、いい会社に就職出来そうだから。まぁそれだけの理由だけどな。君みたいに大きな目標がある訳じゃないし」
「そっか。でもそういうのも良いんじゃない?」
すると「え?」と、私の顔を確認するように言う。
「良い会社に入りたいっていう気持ちも大事だよ。給料は良いだろうしさ」
会社員になりたいっていう目標だって、立派だ。私はデザイナーになりたい。という夢を抱いているけれども、もし目指すとしてもどこかのアパレルの会社に入ることになるだろう。
久保田君は「うん」と頷いてから、また何かを思案しているようだった。九月の柔らかな風が鼻孔をくすぐり、クシャミが出そうになった。
「君さ、駒田の告白断ったんだって?」
「えっ」
思わずドスの利いた声が出た。駒田君と久保田君は仲が良い。だから久保田君が知らない訳はないか。それにしても、当事者の私が忘れていたことを何故今になって言うのだろう。
「うん。まぁ。受験生だし忙しいし」
曖昧な返しをした。すると久保田君は「君は偉いな」と言う。
「目標に向かってどこまでも突き進んでいくから、凄いと思うよ。俺も見習いたい」
何故か私を褒めるのか分からなかった。何が聞きたいのか分からなかった。首を傾げている私に対し、彼はつづけた。
「君は、心に決めた人がいるの?」
「えっ」
唐突な質問に肩と心臓が跳ねる。何故そんなことを聞くのだろう。
「な、何でそんなこと?」
「駒田って割とカッコイイじゃん? 結構あいつモテるんだよ」
「そうなんだ、知らなかった……」
それは初耳だった。カッコイイのは認めるけれど、そんなにモテるんだっけ。周りの女子から駒田君のことが好きだという話は聞いたことがなかった。単に私が知らないだけかもしれない。私は駒田君に興味がないから、彼がモテるとか知らなかった。
「いや、その……」
しどろもどろになった。こういう会話は私にとってはとても辛い。どうにかして凌げないのだろうか。しかし何故か久保田君は、真剣な眼差しを私に向けてくる。
「く、久保田君もさ、噂で、好きな人がいるって聞いたよ。だから安井さんのこと断ったとか、そんな噂もチラっと耳に入ってきたよ。安井さんだってめっちゃ可愛いのに、勿体ないよ」
自分に振ってほしくなくて、振り返した。いやぁ、なんてことを私なんかに聞くのだろう。そして私は何故素直に「いないよ」と言えなかったのだろう。思わず沈痛な面持ちになる。
「俺の好きな人は……」
「え?」
聞いてもいないのにあっさりと彼は言おうとしている。私なんかに喋っても良いのだろうか。私だって口が軽いかも
しれないのに。
「今、俺が喋ってる人だ」
そのセリフに、ビックリマークが目の中に飛び込んで来たような感覚に陥った。久保田君のセリフには迷いがなく、真っすぐ私の顔を見つめる。
「え、うそ……」
「嘘じゃない。笹村の妹を庇った時から、見ていた」
その言葉に足が震える。思わず体がフリーズする。何故奇跡ばかりが起こるのだろう。何故こんなイケメンで人気者の男子が私なんかを? 戸惑うしかない私を久保田君はジッと見つめる。何度も瞬きし、足がガタガタと震える私を見て察した久保田君は、「どこかで話そうか」と、提案した。
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