素敵な洋服を作りたい

大羽月菜

文字の大きさ
上 下
37 / 38

******

しおりを挟む
 いつもの帰り道。途中まで岩田さんと笹村さんと一緒に帰った。彼女らの受験が落ち着いた時、一緒にどこかでパーティをしようと約束までした。

(何だかここ数か月、大きく変わったな……)

 それをヒシヒシと感じていた。笹村さんの妹がいじめられたのを助けた時から変わった。助けたという感覚はなかった。助けたような行動をとった覚えもある。と言ったほうが近いのだろうか。私の胸の内は立派なものではなく、過去の自分あの時の自分を見ている気がして嫌気がさしてしまい、咄嗟に庇った。自分の面倒事はもう見たくなかった。というのが失礼ながら本音だった。私は情けないが、優しくも出来た人間でもない。そんなことを考えると笹村さんにも、笹村さんの妹にも申し訳なく思った。
 罪悪感を感じながらも、この半年で人間関係が変わり、深山ゆきさんのファンになってしまい、お洒落やダイエットに目覚め、約半年で七キロも減量することが出来た。推し友も出来た。デザイナーになりたい目標も出来て、M女子大の指定校推薦も獲得出来た。目まぐるしい日々だったけれども、充実した日々。ふと空を見上げる。暑さが残っているものの、カラッとした暑さでトンボがところどころ飛んで行くのが見える。周りのアパレルショップでも、長袖の服やボルドー色や茶色の服を見るようになった。

(あぁ、何だか色々あったなぁ)

 ふと立ち止まって空を眺めて目を閉じた。また自分の人生が変わる時だ。他人のと触れ合うのが苦手で、特に同年代の子達のコミュニケーションは、思いがけない方向から心を叩かれるようなものに感じられて苦痛だった。でも今は違った。私を信用してくれた人達、こんな私を助けてくれた人達のお陰で、今の私は成り立っているのだと実感した。

(久保田君にも感謝しなきゃ)

 目を開けて再び歩き始めたときに、「よぉ」と、いつも突然話しかけて来る久保田君の声が聞こえた。

「あぁ、久保田君」

とは言ったものの、何を話せばいいのだろう。沈黙していると久保田君はイケメン顔にスマイルを浮かべた。

「指定校、おめでとう」

「ありがとう」

 まさか、彼が祝福の言葉を述べてくれるとは思っていなかった。淡々とした会話。他の子達みたいに和気あいあいと話せればいいのに。

「久保田君は、総合型選抜受けるんでしょ? もうすぐだね」

「あぁ……。でも受かるかなぁ」

 倍率高いし。と、久保田君はウンザリしたように空を見上げた。確かにA大は難しい。

「けど、なんでさ、久保田君はA大に行きたいの?」

 ずっと疑問だった。彼がA大に入りたい情熱はとても大きかった。

「んー、特に大きな理由はないけど、いい会社に就職出来そうだから。まぁそれだけの理由だけどな。君みたいに大きな目標がある訳じゃないし」

「そっか。でもそういうのも良いんじゃない?」

 すると「え?」と、私の顔を確認するように言う。

「良い会社に入りたいっていう気持ちも大事だよ。給料は良いだろうしさ」

 会社員になりたいっていう目標だって、立派だ。私はデザイナーになりたい。という夢を抱いているけれども、もし目指すとしてもどこかのアパレルの会社に入ることになるだろう。
 久保田君は「うん」と頷いてから、また何かを思案しているようだった。九月の柔らかな風が鼻孔をくすぐり、クシャミが出そうになった。

「君さ、駒田の告白断ったんだって?」

「えっ」

 思わずドスの利いた声が出た。駒田君と久保田君は仲が良い。だから久保田君が知らない訳はないか。それにしても、当事者の私が忘れていたことを何故今になって言うのだろう。

「うん。まぁ。受験生だし忙しいし」

 曖昧な返しをした。すると久保田君は「君は偉いな」と言う。

「目標に向かってどこまでも突き進んでいくから、凄いと思うよ。俺も見習いたい」

 何故か私を褒めるのか分からなかった。何が聞きたいのか分からなかった。首を傾げている私に対し、彼はつづけた。

「君は、心に決めた人がいるの?」

「えっ」

 唐突な質問に肩と心臓が跳ねる。何故そんなことを聞くのだろう。

「な、何でそんなこと?」

「駒田って割とカッコイイじゃん? 結構あいつモテるんだよ」

「そうなんだ、知らなかった……」

 それは初耳だった。カッコイイのは認めるけれど、そんなにモテるんだっけ。周りの女子から駒田君のことが好きだという話は聞いたことがなかった。単に私が知らないだけかもしれない。私は駒田君に興味がないから、彼がモテるとか知らなかった。

「いや、その……」

 しどろもどろになった。こういう会話は私にとってはとても辛い。どうにかして凌げないのだろうか。しかし何故か久保田君は、真剣な眼差しを私に向けてくる。

「く、久保田君もさ、噂で、好きな人がいるって聞いたよ。だから安井さんのこと断ったとか、そんな噂もチラっと耳に入ってきたよ。安井さんだってめっちゃ可愛いのに、勿体ないよ」

 自分に振ってほしくなくて、振り返した。いやぁ、なんてことを私なんかに聞くのだろう。そして私は何故素直に「いないよ」と言えなかったのだろう。思わず沈痛な面持ちになる。

「俺の好きな人は……」

「え?」

聞いてもいないのにあっさりと彼は言おうとしている。私なんかに喋っても良いのだろうか。私だって口が軽いかも
しれないのに。

「今、俺が喋ってる人だ」

 そのセリフに、ビックリマークが目の中に飛び込んで来たような感覚に陥った。久保田君のセリフには迷いがなく、真っすぐ私の顔を見つめる。

「え、うそ……」

「嘘じゃない。笹村の妹を庇った時から、見ていた」

 その言葉に足が震える。思わず体がフリーズする。何故奇跡ばかりが起こるのだろう。何故こんなイケメンで人気者の男子が私なんかを? 戸惑うしかない私を久保田君はジッと見つめる。何度も瞬きし、足がガタガタと震える私を見て察した久保田君は、「どこかで話そうか」と、提案した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

足を踏み出して

示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。 一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。 そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。 それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ファンファーレ!

ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡ 高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。 友情・恋愛・行事・学業…。 今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。 主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。 誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...