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イベント会場である五階建てのビルに向かった。結構大きめのビルだった。勿論一般のライブなんかの会場よりは少し狭め。椅子にぎっちり女性が並ぶように腰かけていた。比較的若い女性が多かったが、三十代以上の子持ちの女性や、四、五十代の女性、カップルで来ている人もいた。照明は落としており、まだまだ暗め。室内はいつも過ごす教室とは違うざわめきに満ちていた。楽しそうなざわめきは、私も嬉しくてたまらない。
そうこうしているうちに、深山ゆきさんが登場した。キャーとか、ワーとか言う黄色い声で更に満ちてから、大きな拍手が響き、私もアイリさんも一緒に拍手する。
「細い! 綺麗!」
「可愛い!」
そんな声も大きく持ち上がる。その意見には私も同じだった。不意を突かれ、思わず呆けた顔をしてしまった。顔がSNSの写真で見るよりも小さくて、華奢すぎて折れそうだ。細すぎて倒れないか心配さえ過る。白い肌に腕や足もほっそりしており、目や口元のパーツもハッキリくっきりしており、フランス人形のようだった。ウエストマークがある、ベージュのワンピースが細身のゆきさんに、よく似合っていた。こういう色、ウエストマークを作るのはやはり、痩躯の人じゃないと似合わないものだと実感する。チュールのように品良くて、柔らかなローズベージュの口紅が印象的だった。淡めの色に見えたけれど、締まった赤で素敵だ。
次に女性の司会の方が登場した。元アナウンサーだそうだ。私の知らない方だったが、三十代前半らしいショートカットのハキハキした女性だった。
「司会の田坂と言います。宜しくお願いします」
笑顔が素敵なトークが上手そうな女性。拍手がもう一度沸き起こった。
「今日は、お忙しい中、来て下さりありがとうございます」
深山ゆきさんは、天使のような声でマイクを手に持ち、発する。この前テレビで見た時の声と違った。また、会場の中はドッと楽しそうな大きな声で満ちた。
(やはり影響力がある人は強いな)
関心しながらも、深山ゆきさんの容姿に釘付けになりながらトークを堪能する。
「深山ゆきさんと言えば、人気のインフルエンサーですが、今度また『Apple tea』から秋物商品が発売されるそうです」
その言葉に瞳も心も輝いた。今度はどんな商品なのだろう。元アナウンサーの女性が「商品がこちらです」と言うと、別のスタッフがトルソーに商品を着せたものをカートに押して持ってきた。茶色のリブニットに、首元には白いラインが入っており、スカートは黒生地に左右両側に、白いラインが入ったナロースカート。今、流行のものだ。姉もよく買って穿いている。
「ニットは同じもので、赤も、白もあります。スカートは、ベージュもお色違いであります」
深山ゆきさんが商品の説明をする。周りから歓声が響いた。色はダーク系だけど落ち着いた色で素敵だった。スカートはベージュ色が気になる。本当に秋らしい色だ。夏はまだ終わっていないし、九月になってもまだ残暑は続くだろう。今、真夏の真っ盛りで秋冬物は試着するのも戸惑うけれど、これは乙女心がゆさぶる商品だった。
「お値段はニットが、三千九百円、スカートが四千円となっております」
深山ゆきさんの説明に、会場がまたざわついた。嬉しそうな声。私みたいな学生には痛い金額だった。もう社会に出て働いている方なら、容易く手が届きやすいだろう。
「沙織ちゃんは買う?」
アイリさんに問われた。
「うーん、欲しいですけどね。買おうかな。でも、お財布に響くなぁ……」
「だよねぇ」
大学生でバイトをしているアイリさんでも、苦笑いを浮かべた。きついらしい。十月に私の誕生日があるから、これを親におねだりするのもアリかもしれない。
「発売日ですが、九月二十二日となっております」
司会の方が発売日を知らせてくれた。約八千円の商品。お小遣いからちょくちょく出資出来るようにしておこうか。どうやって代金を工面しようか考えてると、話題は次に移っていた。
「ゆきさんは、今はどのようなお仕事をされているのですか?」
司会者の女性が問う。私もそこは興味があった。今は二件のアパレルショップからコラボのお仕事の依頼が来ており、打ち合わせにそのアパレルの会社の本社へ向かうことが多いそうだ。元々デザイナーさんがデザインした服に、ポケットをつけてみたり、柄を少し変えたり、スカートやトップスのラインを変えたりしてみるのが、インフルエンサーの仕事。服のデザインそのものは元々、デザイナーがするそうだ。だから『コラボ』なのだと納得した。
「そう考えると、私もデザイナーになりたかったな。なんて思いましたね」
その言葉が今、私の心に刺さった。特別な素敵な言葉に聞こえた。やっぱり洋服を作りたいと思うのなら、デザイナーになるしかない。ただアパレルメーカーによっては、人気インフルエンサーに、一から服のみをデザインさせてくれることもあるが、ほんの一握りの会社だそうだ。
ゆきさんは最近は、アパレルの会社を立ち上げようとしているそうだ。なかなか凄い話だった。
そうこうしているうちに、深山ゆきさんが登場した。キャーとか、ワーとか言う黄色い声で更に満ちてから、大きな拍手が響き、私もアイリさんも一緒に拍手する。
「細い! 綺麗!」
「可愛い!」
そんな声も大きく持ち上がる。その意見には私も同じだった。不意を突かれ、思わず呆けた顔をしてしまった。顔がSNSの写真で見るよりも小さくて、華奢すぎて折れそうだ。細すぎて倒れないか心配さえ過る。白い肌に腕や足もほっそりしており、目や口元のパーツもハッキリくっきりしており、フランス人形のようだった。ウエストマークがある、ベージュのワンピースが細身のゆきさんに、よく似合っていた。こういう色、ウエストマークを作るのはやはり、痩躯の人じゃないと似合わないものだと実感する。チュールのように品良くて、柔らかなローズベージュの口紅が印象的だった。淡めの色に見えたけれど、締まった赤で素敵だ。
次に女性の司会の方が登場した。元アナウンサーだそうだ。私の知らない方だったが、三十代前半らしいショートカットのハキハキした女性だった。
「司会の田坂と言います。宜しくお願いします」
笑顔が素敵なトークが上手そうな女性。拍手がもう一度沸き起こった。
「今日は、お忙しい中、来て下さりありがとうございます」
深山ゆきさんは、天使のような声でマイクを手に持ち、発する。この前テレビで見た時の声と違った。また、会場の中はドッと楽しそうな大きな声で満ちた。
(やはり影響力がある人は強いな)
関心しながらも、深山ゆきさんの容姿に釘付けになりながらトークを堪能する。
「深山ゆきさんと言えば、人気のインフルエンサーですが、今度また『Apple tea』から秋物商品が発売されるそうです」
その言葉に瞳も心も輝いた。今度はどんな商品なのだろう。元アナウンサーの女性が「商品がこちらです」と言うと、別のスタッフがトルソーに商品を着せたものをカートに押して持ってきた。茶色のリブニットに、首元には白いラインが入っており、スカートは黒生地に左右両側に、白いラインが入ったナロースカート。今、流行のものだ。姉もよく買って穿いている。
「ニットは同じもので、赤も、白もあります。スカートは、ベージュもお色違いであります」
深山ゆきさんが商品の説明をする。周りから歓声が響いた。色はダーク系だけど落ち着いた色で素敵だった。スカートはベージュ色が気になる。本当に秋らしい色だ。夏はまだ終わっていないし、九月になってもまだ残暑は続くだろう。今、真夏の真っ盛りで秋冬物は試着するのも戸惑うけれど、これは乙女心がゆさぶる商品だった。
「お値段はニットが、三千九百円、スカートが四千円となっております」
深山ゆきさんの説明に、会場がまたざわついた。嬉しそうな声。私みたいな学生には痛い金額だった。もう社会に出て働いている方なら、容易く手が届きやすいだろう。
「沙織ちゃんは買う?」
アイリさんに問われた。
「うーん、欲しいですけどね。買おうかな。でも、お財布に響くなぁ……」
「だよねぇ」
大学生でバイトをしているアイリさんでも、苦笑いを浮かべた。きついらしい。十月に私の誕生日があるから、これを親におねだりするのもアリかもしれない。
「発売日ですが、九月二十二日となっております」
司会の方が発売日を知らせてくれた。約八千円の商品。お小遣いからちょくちょく出資出来るようにしておこうか。どうやって代金を工面しようか考えてると、話題は次に移っていた。
「ゆきさんは、今はどのようなお仕事をされているのですか?」
司会者の女性が問う。私もそこは興味があった。今は二件のアパレルショップからコラボのお仕事の依頼が来ており、打ち合わせにそのアパレルの会社の本社へ向かうことが多いそうだ。元々デザイナーさんがデザインした服に、ポケットをつけてみたり、柄を少し変えたり、スカートやトップスのラインを変えたりしてみるのが、インフルエンサーの仕事。服のデザインそのものは元々、デザイナーがするそうだ。だから『コラボ』なのだと納得した。
「そう考えると、私もデザイナーになりたかったな。なんて思いましたね」
その言葉が今、私の心に刺さった。特別な素敵な言葉に聞こえた。やっぱり洋服を作りたいと思うのなら、デザイナーになるしかない。ただアパレルメーカーによっては、人気インフルエンサーに、一から服のみをデザインさせてくれることもあるが、ほんの一握りの会社だそうだ。
ゆきさんは最近は、アパレルの会社を立ち上げようとしているそうだ。なかなか凄い話だった。
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