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進路の面談
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一週間後。すっかり午後の授業も始まった。一年生はまだまだ慣れないから、顔に憂鬱の色を醸し出していた。久保田君は受験に専念するために、部活をやめたらしい。三年生もそろそろ部活をやめて受験勉強に専念する子が増えてくる。これは気を抜くと、テストの順位が抜かれると焦り始める。そんな中、井口先生と一人一人、進路の面談をする日がやってきた。三時間目と四時間目。二時間も自習時間を作り、他の生徒は自力で勉強する中、一人ずつ図書室へ呼ばれた。出席番号順なので、私は一番最後。億劫になりながら図書室へ行くと、古い淀んだ本の匂いが鼻に入ってきた。何故だろう。決して嫌な匂いではなかった。静かで落ち着ける場所だった。三年間、あまりここへ来たことはなかった。長い机が並ぶ中で、井口先生は一番後ろに座っており「おう、和田で最後だな」と、こちらを見る。
ペンをノートに走らせながら「ええと、和田は、M女子大の家政学部希望か」と確かめるように問う。
「はい」
「それでいいのか? 和田の成績ならA大に入れるぞ」
全国の中でも名の通った一流大の名を上げる先生。久保田君が入りたいと言っていた大学。私はかぶりを振った。
「どうしてもM女子大の家政学部に入りたいんです」
「そうか。服飾学科って書いてあるな。デザイナーか何かなりたいのか?」
「はい」
流石先生、勘が鋭い。それについて先生は「良い夢だな」と、感心するように微笑んだ。
「一般入試でも受かると思うが、指定校推薦で入るのも手だな」
その言葉にハッとして顔を上げた。そういえば指定校推薦という入試方法があることを、すっかり忘れていた。
指定校推薦とは、大学が定めた指定校の生徒のみが出願することができる制度だ。
指定校は大学が高校のこれまでの進学実績に応じて指定するため、自分が通っている高校が指定されていなければ、成績が良くても出願する権利はない。
また、募集枠は1つの高校から一人から三人程度が多く、出願条件も厳しい。それをクリアして校内選考を通過することが第一条件。しかしこれを獲得出来たら九割は合格したようなものだ。つまり、落ちる可能性は校内選考に通った場合はほぼないと言われている。毎年、M女子大から各学部一人ずつ、募集が来るようだ。それならそれで、有難い。
「去年はM女子大へ進学したものは、五人ほどだな」
「そうでしたか」
ここから近いし、やっぱりいるようだ。と言っても東京の都会のど真ん中にあるから、神奈川のキャンパスよりは、遠くなる。その五名は何学部に入ったのだろうか、興味津々だった。黙っていると先生は私の心中を見抜いたように発する。
「毎年薬学部は必ずいるな。あと、経済学部、理工学部、英文科、国文科、各一人ずつだな」
これらは、東京にあるキャンパスだった。神奈川のキャンパスにある家政学部と音楽学部へ進学した者はいないという。少し寂しい気持ちになった。薬学部は手に職が就けるからかなり人気の学部になるだろう。
「薬学部じゃなくていいか?」
何故か薬学部を勧める先生。手に職は就けるし魅力的だけど、私はやっぱり服飾学科へ行きたくて、その決意は変わらなかった。その趣旨を述べると「そうか」と真剣に頷いた。
「M女子大はやっぱりうちからは、毎年、数人行ってるな。やっぱり薬学部が人気でなぁ。去年は薬学部に一般入試で入った者が他にも三人いた」
このご時世だから、就職で不利にならないために良き選択だと思う。でも私は、我が道を貫きとおしたかった。
「家政学部は、栄養学科、服飾学科合わせて一人しか指定校の募集が来ない」
他の学部も各、一人ずつだと言う。
「そうでしたか」
極端だと思ったけれども、指定校推薦なんてそんなものかもしれない。複雑な感情抱いたまま、黙って聞いていると「質問はあるか?」と問われた。うちの高校からは、家政学部に行く生徒が少ないそうだ。去年は二人だけ、東京の女子大の家政学科へ行った人はいるらしい。
「指定校推薦の入試は何月くらいにありますか?」
先生の話によると校内での募集が六月になると公開され、校内選考は十月までに完了してから、指定校の枠が決定するそうだ。M女子大の場合、家政学部の場合は栄養学科へ進むなら、面接と小論文。服飾学科へ進むのなら、面接と好きな服、着たい服のデザインを当日、紙に描くそうだ。入試なのにその言葉を聞いて心が躍った。イラストを描くなんて楽しそうだ。
「まぁ、でも、この一学期の成績でほぼ決まるからな。気を抜くなよ? 近々テストがあるからそれも選考対象に入るからな」
ギクッと心臓が跳ねあがる。コツコツと勉強はしているけれど、それが反映される日が来るということだ。先生がおっしゃる通り気を抜けない。
「はい」
力ない返事をするしかなかった。
クラスの子らはほとんどが、都内や神奈川県内の大学への進学を希望しているらしい。地方の国公立大を目指している人もいるそうだ。
図書室を後にして、教室へ戻る。教室へ入ると、生徒らは少し雑談をしたりはしているが、騒がしい感じではなかった。皆、参考書を見たり勉強している。岩田さんと笹村さんは勉強する訳でもなく、ただひたすらボーっとしていた。池田さんや大林さんは必死に何かしら難しそうな参考書を見ている。私も着席して、英語の問題集のページを開いた。
ペンをノートに走らせながら「ええと、和田は、M女子大の家政学部希望か」と確かめるように問う。
「はい」
「それでいいのか? 和田の成績ならA大に入れるぞ」
全国の中でも名の通った一流大の名を上げる先生。久保田君が入りたいと言っていた大学。私はかぶりを振った。
「どうしてもM女子大の家政学部に入りたいんです」
「そうか。服飾学科って書いてあるな。デザイナーか何かなりたいのか?」
「はい」
流石先生、勘が鋭い。それについて先生は「良い夢だな」と、感心するように微笑んだ。
「一般入試でも受かると思うが、指定校推薦で入るのも手だな」
その言葉にハッとして顔を上げた。そういえば指定校推薦という入試方法があることを、すっかり忘れていた。
指定校推薦とは、大学が定めた指定校の生徒のみが出願することができる制度だ。
指定校は大学が高校のこれまでの進学実績に応じて指定するため、自分が通っている高校が指定されていなければ、成績が良くても出願する権利はない。
また、募集枠は1つの高校から一人から三人程度が多く、出願条件も厳しい。それをクリアして校内選考を通過することが第一条件。しかしこれを獲得出来たら九割は合格したようなものだ。つまり、落ちる可能性は校内選考に通った場合はほぼないと言われている。毎年、M女子大から各学部一人ずつ、募集が来るようだ。それならそれで、有難い。
「去年はM女子大へ進学したものは、五人ほどだな」
「そうでしたか」
ここから近いし、やっぱりいるようだ。と言っても東京の都会のど真ん中にあるから、神奈川のキャンパスよりは、遠くなる。その五名は何学部に入ったのだろうか、興味津々だった。黙っていると先生は私の心中を見抜いたように発する。
「毎年薬学部は必ずいるな。あと、経済学部、理工学部、英文科、国文科、各一人ずつだな」
これらは、東京にあるキャンパスだった。神奈川のキャンパスにある家政学部と音楽学部へ進学した者はいないという。少し寂しい気持ちになった。薬学部は手に職が就けるからかなり人気の学部になるだろう。
「薬学部じゃなくていいか?」
何故か薬学部を勧める先生。手に職は就けるし魅力的だけど、私はやっぱり服飾学科へ行きたくて、その決意は変わらなかった。その趣旨を述べると「そうか」と真剣に頷いた。
「M女子大はやっぱりうちからは、毎年、数人行ってるな。やっぱり薬学部が人気でなぁ。去年は薬学部に一般入試で入った者が他にも三人いた」
このご時世だから、就職で不利にならないために良き選択だと思う。でも私は、我が道を貫きとおしたかった。
「家政学部は、栄養学科、服飾学科合わせて一人しか指定校の募集が来ない」
他の学部も各、一人ずつだと言う。
「そうでしたか」
極端だと思ったけれども、指定校推薦なんてそんなものかもしれない。複雑な感情抱いたまま、黙って聞いていると「質問はあるか?」と問われた。うちの高校からは、家政学部に行く生徒が少ないそうだ。去年は二人だけ、東京の女子大の家政学科へ行った人はいるらしい。
「指定校推薦の入試は何月くらいにありますか?」
先生の話によると校内での募集が六月になると公開され、校内選考は十月までに完了してから、指定校の枠が決定するそうだ。M女子大の場合、家政学部の場合は栄養学科へ進むなら、面接と小論文。服飾学科へ進むのなら、面接と好きな服、着たい服のデザインを当日、紙に描くそうだ。入試なのにその言葉を聞いて心が躍った。イラストを描くなんて楽しそうだ。
「まぁ、でも、この一学期の成績でほぼ決まるからな。気を抜くなよ? 近々テストがあるからそれも選考対象に入るからな」
ギクッと心臓が跳ねあがる。コツコツと勉強はしているけれど、それが反映される日が来るということだ。先生がおっしゃる通り気を抜けない。
「はい」
力ない返事をするしかなかった。
クラスの子らはほとんどが、都内や神奈川県内の大学への進学を希望しているらしい。地方の国公立大を目指している人もいるそうだ。
図書室を後にして、教室へ戻る。教室へ入ると、生徒らは少し雑談をしたりはしているが、騒がしい感じではなかった。皆、参考書を見たり勉強している。岩田さんと笹村さんは勉強する訳でもなく、ただひたすらボーっとしていた。池田さんや大林さんは必死に何かしら難しそうな参考書を見ている。私も着席して、英語の問題集のページを開いた。
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