上 下
76 / 116
第二話 ギルド本部編

2ー35 湖上の黒城4 二階 生きた伝説

しおりを挟む
 リュカと合流したレオとランスは、リュカを先頭に、真ん中をレオと救出した魔法使いマルク、しんがりをランスが務めた。
 魔獣の襲撃もリュカとランスが易々と片付け、城内攻略は順調に進む。

「リュカさん~」
「んー」
 頭の後ろで両手を組み、レオは先輩土使いの名を呼んだ。

「さっきマスターが、橋作ったじゃないっすか? ンで、攻撃にも使えるって」
 ここに飛ばされる直前の出来事を思い出し、リュカがフンフンと頷く。
「で、攻撃に使ったンすけど、全然当たンなくて。どうしたらいいっすか?」
 魔者との戦闘を控え、戦いの手札は多いに越したことはない。レオは素直に教えを請うた。
 しかし、それに制止がかかる。

「おい、レオ」
「なンすか、ランス先輩?」
「マスターに、なんでも人に聞くなと言われただろ。まず自分で考えろ」
 ランスは普段無口なくせに、こんな時だけ先輩面して、厳しい口調で注意を促す。
「だーかーらー、考えてわかンないから、リュカさんに聞いてるンじゃないっすか」
 八つ当たりされてるとしか思えず、レオは顔をしかめた。

 魔者が現れてから、ランスはずっと臨戦態勢だ。ランスの境遇には同情するが、魔者が仇なのはランスの個人的事情であって、他人を巻き込まないでもらいたい。

「あはは、それ、オレに聞くんだ?」
 ランスとは違い、リュカは魔者出現の一報にもどっしりと構え、さすがの貫禄を見せつけていた。
 だから最初、なにを言われたのかレオはわからなかった。

「だって、リュカさん土使いだし」
 ふぅん、と振り返ったリュカの目は剣呑で、レオは狼狽える。
「レオは未だに学生気分が抜けないんだな」
「そンなことないすよ! だからこうやって、一生懸命考えてるンじゃないっすか!」
 リュカが鼻で笑った。

「ずいぶん簡単な一生懸命だな? オレが何年も修行して、ようやく得た答えを、レオはたった数時間悩んだだけで、わからないから教えてくれって? オレの長年の研鑽を横から掻っ攫おうってか?」
「そんなつもりじゃ……」
「じゃあ、どんなつもりだ?」
 凄みを帯びた声音に、レオは息を詰めた。

「あの最強の魔法使いですら、論文読んで、研鑽積んでんだってよ。なあ、意味わかるか? あのアホほど強いマスターですら、強くなる為の努力してんだよ」
 それは、レオもジュールに聞いた。けど、論文読むなんて面倒クセェのにマスタースゲーなって、そう思っただけで、その意味なんて考えもしなかった。

「なのに、尻に殻つけたヒヨッコは、センスがいいから研鑽必要ないってか。ふざけんなよ」
 ギラリ、とリュカの目が危険な光を帯びた。
「一級名乗れたからって、強いわけじゃねえ! 魔法使い、舐めてんじゃねーぞ!」
 低い恫喝は堂に入り、レオの肩がビクリと震える。

「これまで何体魔獣倒したか知らねえけどな、それで強いつもりか? 笑わせんな! これからオレ達が相手にすんのは魔者だ。遊びのつもりなら、足手纏いだからついてくんな!」
 リュカの罵倒は容赦がない。けれど、言っていることは正しいのだろう。
(正しいのかもしンないけどーー)
 レオはギリッと奥歯を噛みしめた。

「確かにオレは頭悪ぃけど」
 それでも馬鹿なりに考えて、努力して。
「オレだって、本気で魔法使いやってンだよ!」
 遊びだと、言われる筋合いはない。

「ふうん?」
 リュカがひょいと、レオの顔を下から覗き込む。
「なんだ。いい顔できるじゃん」
 イタズラっぽく笑うリュカは、タレ目な童顔と相まって少年のようだ。
「え? え……なに???」
 あまりの落差に目を白黒させるレオに、リュカは可笑しそうに笑った。

「いやぁ、だってレオ、あんまりやる気なさそうだから。気合い入れてやらなきゃ、こいつ死ぬなーって思ってさ」
 あっははーと笑うリュカに、さっきまでの威圧感はない。
「冗談キツいっすよー。マジビビったし」
「いやいや、オレが言ったことは本音。昔のオレなら、あのままシメてる」
 真面目な顔で言われ、レオの顔が再び強張った。昔のリュカは知らないが、只者でない感は十分漂っている。

「なあ、わかってるか? お前はマスターからの宿題をオレに丸投げして、せっかくの強くなれるチャンスを棒に振ろうとしたんだよ」
 リュカは、揶揄うように後輩を諭した。
「馬鹿な子だねー」
「いひゃい! いひゃいー!」
 鼻を摘まれレオが悲鳴を上げる。

「レオは人に頼りすぎ。強くなりたいなら足掻け。試行錯誤することに意味があるんだよ。自分で考えろ。脳みそ使え。楽して強くなんてなれねーぞ」

 リュカはレオから手を離すと、今度はレオの隣りにいる三級魔法使いの肩に腕を回す。
「で、おたくはいつまで、そうやってビビってるわけ?」
「ひえっ」
 これまでろくに喋らず、縮こまっていたマルクは、リュカに話しかけられてあからさまにおびえた。
 小柄なリュカよりも背が低く痩せたマルクは、眼鏡越しにオドオドとリュカを見上げる。

「オレ、学生時代、おたくに絡んだことないと思うけど?」
「僕のこと知って……」
「いや、知らんけど。オレ、弱い者イジメはしない主義なんだわ。見た感じ、一こか二こ下だろ? なら、オレを知ってるわな」
 プルプルと震えながら、マルクは二こ下です、と蚊の鳴くような声で答えたが、おびえ方が尋常ではなかった。

「リュカさん、昔なにしたンすか!?」
「リュカさんは、生きた伝説だぞ。知らないのか?」
 ランスの一言に、マルクは壊れた人形のようにコクコクと首を縦に振る。けれど残念ながら、レオの代にはリュカの武勇伝は伝わっていなかった。

「昔の話だから、いい加減ビビるのやめてくんない?」
「は、はい、す、すみませんっ」
 リュカの腕の中で顔面蒼白なマルクが、否定だか肯定だかわからない返事を返す。
「まあ、それだけオレにおびえてたら、魔者に会ってもパニクる余裕ないな」

 リュカが懸念したのは、学生気分の新人魔法使いと、異常に気の小さい(とリュカは思う)三級魔法使いの恐怖による暴走だったが、この調子ならなんとかなりそうである。
 ランスも心配だが、残念ながらどうしてやることもできない。けれど、復讐に燃えながらも後輩を思いやる男気は、リュカは嫌いではなかった。さっきもリュカの怒りに触れることがわかっていたから、レオを守ろうとしたのだ。

「よし、じゃあ、そろそろ行くか」
「行くってどこに?」
 レオは相変わらず間抜けな質問をする。手のかかる新人の背中をバシンと叩き、三度気合いを入れ直してやる。

「魔者んとこに決まってんだろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

白い結婚の王妃は離縁後に愉快そうに笑う。

三月べに
恋愛
 事実ではない噂に惑わされた新国王と、二年だけの白い結婚が決まってしまい、王妃を務めた令嬢。  離縁を署名する神殿にて、別れられた瞬間。 「やったぁー!!!」  儚げな美しき元王妃は、喜びを爆発させて、両手を上げてクルクルと回った。  元夫となった国王と、嘲笑いに来た貴族達は唖然。  耐え忍んできた元王妃は、全てはただの噂だと、ネタバラシをした。  迎えに来たのは、隣国の魔法使い様。小さなダイアモンドが散りばめられた紺色のバラの花束を差し出して、彼は傅く。 (なろうにも、投稿)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...