上海ハニー

フランク太宰

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マイアミ デバイス

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 抜け出してやってきた、マイアミビーチは午後の陽気で暑さは些か影を潜めていた。
 ビキニの美しいブロンドの娘もいれば、ビキニをを着た、豚のようなブロンド女性もいた。
黄色い帽子を被ったビーチボーイは白い櫓から、遠くを泳ぐ子供たちを双眼鏡で覗いていた。空は青く、海はクリーム色の波柱とブルーの海水がカクテルのように交わっていた。私達は情けないことに、共に地味な格好をしていた、彼女はブルーのTシャツ、私は右胸に赤いチェリー、右に日本国旗が刺繍された競技用のポロシャツを着ていた。
 海に飛び込むと言ったほどの度胸はなく、波打ち際までいきサンダルで暖かい波を蹴っ飛ばしているだけだった。
彼女は私にかけられた海水に
「冷たい、思ったよりも」
と回答した。馬鹿を言うなよ七月のマイアミの海水が冷たいわけないじゃないか。
  九十九里浜で私たち二人が同じ行動をしていたら、回りは仲良い恋人だな、とでも思ったのではないのだろうか。しかし、そこはフロリダのマイアミで特殊な環境であったのだ。回りのアメリカ人からしてみれば陳腐な中国人観光客にでも見えていたのだろう。
 暫くして、私達は誰かが挿したのか、挿しっぱなしのか分からないオレンジ色のビーチパラソルの下に座った。彼女は体育座りで、私はあぐらだったと思う、足の長い外国人様にはきつい体勢であろう"あぐら"
 会話を始めたのは彼女の方からだった
「私の知ってる海とは違う、当然だけどね」
彼女は日本海側出身であった、
"田舎者"そんな古臭い差別表現に敏感なところのある娘だった。
口にはしないけれど、数回の飲み会を共にしたことで何となく、彼女の故郷に対する独特な感情が見栄隠れするので私はその事に関して少し気を使っていた。
「どっちの海の方が好き?」
「地元の方がいいわ、だってここは外国だもの、それにあそこの売店のライター見た?言葉にしたくないぐらい卑猥な形していたじゃない」
「確かにね、でも性産業については日本がずば抜けているけどね」
「そうなの?」
「日本ほど大っぴらに売春だの風俗だのが蔓延している国もないと思うよ」
「行ったことあるの?」
 「さぁーね、でもそんなにいいものでもないよ、愛がないしね」
 彼女は笑いながら
 「行ったことあるのね」
 そして「男の子だものね」 
 と言った。
私はなにも言い返さなかった。
何を言ってもいいわけじみているし、女性にはなにも言い返さない方が正解のときもあるのだと私は既に知っていた。
 「女の人とお付き合いしたことあるの」
 私は苦笑しながら言った
 「童貞かどうかってこと?」
 彼女は少し考えてから
 「お店には行ったことがあるのだから、それはちがうんじゃないかしら」
「違わないかもしれないし、違うのかもしれない」
そして私はOとAという女性に関して短く彼女に話した。
今まで誰かに話したことはなかったが、別に隠していたわけでもなかった。
 「本当の話し?」
彼女は疑わしそうだった。
「信用できない?」
「そうじゃないけど、何だか小説の内容を話しているみたいだから」
「話すのは得意じゃないんだよ、ましてここ数日酒も飲んでいないんだ。素面だと頭が上手く動かない」
「煙草は隠れて吸ってるのにね」
「何処にいたって呼吸はするだろ、同じだよ。少なくとも海の中以外ではね」
「格好つけちゃってさ」
呆れている様子であった。

 そして、次に彼女は突然に自分の話をし始めた。
「私、レイプされたことあるの」
私は何を言い返せばいいのか解らなかった。こんなときなんて言えばいいのか、きっと重要なことであるのに、誰も教えてくれなかったし、誰も知らなかった。
結局、私は何も言えなかったけれど彼女は話を続けた。
「中学の時に、高校生に襲われたの。無免許の運転するハイエースに連れ込まれてね。痛いだけだったわ、痛いだけ...」
そして彼女は黙りこんだ。
「でも、君が無事に今生きていてよかったと思う。あまり何もいうことができないんだ、ごめん」
「ありがとう」
彼女はそう言い、私の方に向き私の唇にキスをした。
その感触はOのときともAのときとも、Oと父親のものとも違った。
唇を離したあと、彼女の顔が見えた。涙目だけれど涙は出ていず、それに彼女はひきった微笑を浮かべていた。
「ごめんなさい」
 「謝ることじゃないよ」
 「きっと、ここが暑すぎるのがいけないのよ」
   
 海の先の空はそろそろ赤くなりかけていた。
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