Crowd Die Game

織稚 影願

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第一章・1stGame~3rdGame

襲撃。そして、別れ

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 クウガが着替えるのを待ち、俺達は爆発のあった方向へ向かった。
 するとそこは……せ返るような血の匂いと、黒い煙が立ち上がっていた。
「どうなってんだ? これ」
 俺は疑問に思いそう呟いた。
 とりあえずということで、ガランにみんなを避難させるように指示した。
 そして、クウガを含め、俺のチームのメンバーを呼び出した。
 マーリン、クレナイ、リューネ、そしてアレスだ。
 ナードがいないが、どうしたのだろうか。考えても仕方が無いので、とりあえず6人で襲撃の相手を撃退することにした。

「敵の数は?」
「5人だよ。ちょうど、奇襲をかけようとしてきたあいつらと同じ数」
「あいつらの変身とかなの?」
「その考えでいくのは早計だな。ほかの可能性もありうる」
 俺達は、敵の近くで固まって話し合っていた。
 確かに、数的には昼の奴らと合っているが、しかしそれならばすぐに変身したりしているだろう。
 ならば、違う可能性の方が高い。
「とりあえず、撃退だな。クウガは俺と一緒に来い。んで、マーリンはみんなの援護だ。ほかは、手分けして当たってくれ」
 俺は一通りの指示をしてから煙の上がっている方を一瞥した。
 ──ナードはもしや、あの中で戦っているのだろうか……。
 ええい、とその考えを俺は振り切り、そして見据えた。
 ……悪い結果にならないといいが……。
 そして、敵のいる方向へと、走り出した。

 敵はちょうど五つに分断されていた。
 そしてそのうち一人とは──やはりナードが戦っていた。
「──っ、ナード!」
「ハーデス! 来るな!」
 その怒声で俺は踏みとどまった。
 ナードの敵は……ナードと同じくらいの巨体で、パワーはありそうだった。
 ナードと同じタイプか?と思いつつ、俺は止まった足を進めた。
「ナード!危険だ!そいつは強い!俺が──」
「──やめろ! ……こいつは俺がやる!お前らはほかのヤツらを相手してろ……!」
 ナードはこちらを振り向きもせず、ただそう怒鳴った。
 無理だ、と俺は心の中で思った。勝てるわけがない、と。
 確かにナードは強い。だが、その相手はそれすらも馬鹿馬鹿しく思えてくる程に、強さが浮き出ていた。
 ──そいつの覇気によって、体から炎が燃え盛り、重い圧力が伸し掛るような感じがあった。
 それは……殺気にも似たものだ。
 戦闘系には、強さを戦わずとも測る方法がいくつもある。
 例えば、隙がない、や堂々としている、などだ。
 そしてそのうちに一つ。
 という基準もある。
 余程の達人ともなれば、殺気だけで相手を気絶させられるそうだ。化物かよ。
 今目の前にいるは、そこまではいかないが、しかし殺気だけでものすごい実力者ということが分かる。
「ナード! 無茶をするな! ……どうしても戦うってんなら……絶対に死ぬなよ!」
 俺は、無茶を言っているのは分かっている。
 しかし、こんなところで仲間を失う訳にはいかない。
「……分かっている。百も承知だ。……だから行け! まだ敵は何人もいるんだぞ!」
 ナードがそう言った瞬間。
「うぉぉぉおおおぉあぁぁぁぁぁあ! ……グ、グぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁあ!」
 咆哮が。響き渡った。
 耳をつんざくような、と言うより、鼓膜が破れそうな程の……叫びではない。咆哮だ。
 咆哮の主は分かりきっている。……今目の前にいるだ。
「……ナード……無事でな」
 俺はそういい、そんな化物を前にして、俺は違う敵を見据え、そして駆け出した。
「……分かっているさ。クウガのためにもな」
 俺はそういうナードの声が、震えているように感じた。

「クッククク……流石は我が軍最強の兵士。咆哮だけであのとは。やりますねぇ……」
 俺達はあのあと、右側にいる敵を倒しに行った。
 ……はずなの……だが……。
「──ったくどうなってんだよ……。敵は5のか……?」
 そこには、
 情報だと、こちらに一人、左側に三人のはずだが……移動してきたのか?
「クククク、戸惑うのも無理はない。偵察に来ていたやつとの情報の食い違いが起こっているみたいだからなぁ……?」
 眼鏡を掛けた男が、俺の問に答えるかのように言った。しかし微妙に会話が噛み合っていない。
「なっ……なんでそれを知っている……」
「偵察に来ていることはバレバレさ。食い違いに関してはそうだね……私の能力上、そうなっていてもおかしくない、と言うだけだよ」
「……?  どういうことだ?」
 男は続ける。
 能力?身体能力……とは違うみたいだが。
「私の特殊能力……存在感を消す能力ですよ。だから、一人少ない情報がきた……でしょう?」
 なるほど、それなら数が違うこともおかしくはない。
 そしてもう一つわかったことがある。
「あんた……馬鹿じゃねぇの? それ、僕達に教えてもいいのか?」
 クウガが先に言った。
 ……俺が言おうと思ったのに!
 ってそうじゃない。わかったことは、バカってことは一緒だが……。
「それ以前に、もう敵の前に姿を現していいのか?現さずに奇襲をかけても良かっただろうに……」
「……あ」
 ……どうやら素で忘れていたらしい。やっぱ馬鹿だな。
「……まぁいい。どうせ、私の力の前より、こいつの……『タルロア』の力でお前らは死ぬのだからな!」
「それ自分では勝てないって暴露してんぞ」
「うぐっ……」
 つくづく、墓穴を掘る馬鹿だな、こいつ。
 だが、一方のタルロアとやら……マスクで口をおおっていて、顔が良く見えないが……しかし、この威圧……。
(……まぁ、認めざるを得ないか……)
 こいつらは……五人とも。
 ……強い。
 だがそれを踏まえて、少し違和感がある。なんだろうか、この狙ったかのような組み合わせ方は……。
「……んじゃ、やりますか。クウガ!お前はあんま前に出んなよ。俺一人でやる」
 これは決して慢心ではない。
 むしろ……敬意を払い、二対一で、戦う、と言っている。
 しかし相手はそう取らないようで。
「……はぁ? 舐めてんですか?私達相手に一人で? ……いいでしょう、タルロア、やって──」
「──いや、お前らいいぜ。来いよ。まとめてやってやる」
「…………あぁぁぁあ!? 舐めてんじゃねぇぞゴルァ! いいだろう……やるぞタルロア。この野郎……殺す……!」
 タルロアと呼ばれた男は、コクリと頷き、そして両腕を広げた。
 もう一人の男は、ムチを構えている。
「……よっし! んじゃあ……行くぜ?」
 俺がそう言い、そして戦いが始まった。

 一方その頃、クレナイの向かった先には。
「ほう、意外と出来るやつがいるものなのだな」
 男が立っていた。そして会って早々、貶しているのか褒めているのかよくわからない言葉を吐いた。
「……そういう発言は、私に勝ってからしな……」
「まぁそう言うな。そうだな、まずは名乗りからか。俺の名前は『カガリ』。『アルクプリア』の戦士だ」
 アルクプリア? ……ということは、あの五人とはやはり関係が……。
 しかしこのカガリとかいう男……強い……。
「私の名前はクレナイ。クラン名は……まだない」
「ふっ……NamelessClan名も無きクランか……まぁいい。さぁ………行くぞ」
 そう言って、カガリは動き出した。

「──へっ! やっぱその程度じゃねぇか」
 俺が一瞥した先には、タルロアと、もうひとりの男がうつ伏せて倒れていた。
 しかし……タルロアの様子がどうもおかしかった。
 まるで──狂っているかのような……。
「ククッ……ククククッ……あは、あーははははは!」
「……んだよ、ついに狂ったか?」
「いいえ? いやぁ、先程あなたは言いましたね?と。面白い冗談をいう。──タルロア」
 男の声で、タルロアはむくりと起き上がった。
 タルロアの目は……笑っていた。
「……どういうことだ?」
「さっきのセリフ……お返しさせていただきましょう。その程度ですか? ……死ね」
 男がにやりと笑い、言うと同時に。
 タルロアが、姿
 すると途端に、背中に痛みが走った。
「……がっ……!?」
 タルロアは逃げたわけでも姿を消すような能力を使ったわけでもない。その能力はそこに寝っ転がってる男の方が持ってる。
 タルロアはただ単純に。速いのだ。
「……ぐぅ……なるほどね? そりゃその程度で終わってたわけだわ」
 しかし──
 ──こいつらは勘違いしている。主にこの変な男は。
 そう思うと、俺は押されているにも関わらず笑ってしまった。
「はっ……よくそんな余裕でいられるな。何が可笑しい」
「いや……ね? お前らさ……」
 俺はその場に仁王立ちし、そして……。
「一体俺がいつ、一回でも本気出したっつったよ?」
 その瞬間、大地が震えた。
 もっとも、俺はそんな感じはしなかったが、後でクウガに聞いたら、震えていたらしい。
 そのお陰か、タルロアの動きが止まった。
「んじゃあ……終わりだな……」
 俺はそう言って、
 すると、後ろから……だけでなく、前からも、グシャ、という音が聞こえた。
 見るとそこには、血飛沫ちしぶきと、横たわる人……のと、が転がっていた。
「──っ! ……ハ、ハーデス……」
 その生首は。
 先程まで戦っていた、タルロアと、男だった。
 俺が──斬ったのだ。
「……強すぎでしょ……」
 クウガが漏らす感嘆の声は、震えているようにも聞こえた。

 その頃、上空には。
 マーリンが一人、援護のために浮いていた。
 とは言っても、味方が負けることなんて想定していないので、言うならば観察していた、と言うべきか。
「やぁっぱ、ハーデスは勝っちゃうか。強いなぁ……」
 多少血で吐きそうになったが、まぁ、それは予想していたので何とかなった。
それよりも。
「……ナード……やばい?」
 見ると、ナードは明らかに押されていた。
 実力の全てを出し切っているので、ハーデスみたいなことは無い。
 つまり。勝てないかもしれない、ということだ。
「……仕方ない。アーネルトフ・シューティン!」
 私が詠唱すると同時に、杖から光の矢が何本も出ていった。
 向かう先は、ナードの敵。
 するとその敵は……手で、
「──なっ……!? 嘘っ! ありえない……!」
 その男は、こちらを見て……飛んだ。
 こっちに……来る……!?
 もう終わりか、そう思って目を瞑った。
しかし、いくら待っても衝撃と痛みは来なかった。
 目を開けると……そこには、ナードが、いた。
 ────心の臓を掴まれた状態で。
「──ナード!?」
「だから……手を出すなと言った……俺がやると言ったのだが……な……ごふっ……」
「っ! ……ナード、ごめん! だから、もう喋らないで!」
 そう叫ぶと同時に、私は魔法を使い、男を振り払った。
 男は抵抗せずその魔法を受け、そして地上に大人しく戻った。
「……ナード……回復する! ヒール──」
「──やめろ。……無駄だ。それより、下に降ろしてくれ」
 私はその言葉通り、地上に降ろした。
 ちょうどその時、ハーデスがこっちへ走ってきた。

「どうした、何があった?」
 マーリンが傷を負ったナードを抱きかかえているのを見て、俺はすぐ側に駆け寄った。
 ナードは、心臓の部分がポッカリと空いた状態で、しかし今も尚、気力で意識を持たせようとしていた。
「……無茶するな、ナード。……マーリン、何があった」
 俺が聞くと、マーリンは震えながらも答えてくれた。
「…………。なるほどな……」
「ご、ごめん。私が余計なこと……」
「もういい。それよりも……」
「──ハー……デス……」
 息の根も絶え絶えの状況で、ナードの声が聞こえた。
「!? ナード、大丈夫なのか? あまり無茶は……」
「大……丈夫だ……。それより……頼みが……ある」
 ナードは今にも息絶えそうなほど、苦しい表情で、縋るように言った。
「なんだ? 俺に出来ることならなんでも──」
「──クウガを……守ってくれ……絶対に……殺すな………」
 それは、兄のような、もしくは父親のような、優しい笑みだった。
 それほどまでに……クウガのことを想っているのだろう。
 ならば、俺はリーダーとして、仲間として。
その願いに応えねばなるまい。
「……分かった。約束する。この命に変えても……守ってみせる」
「……あり……が……と……う…………」
 そう言い遺し、ナードは……帰らぬ人となった。
 その顔は、幸せそうな顔でもあった。
「ナード……ナード! 死ぬなよナード! 僕は……」
「クウガ……もう諦めろ。もう……死んでる」
 クウガが泣き喚くが、しかしもはや意味が無い。
 死んでるものに戻ってきてもらおうにも、無理だ。
「──ハーデス……お前、魔法使いなんだろ?」
「──は? ……一応魔法使いの一族の末裔ではあるが……それがどうかしたか?」
「じゃあ──」
 クウガが何を言い出すのやら、と思うと、クウガは口にした言葉はとんでもない事だった。
「──じゃあ、魔法で生き返らせてよ……!」
「……なに?」
「魔法なら生き返らせることだってできるでしょ!? なんたって奇跡の力なんだから! じゃあ生き返らせてよ! ナードを……生き返らせて!」
 正直、クウガの言い分は聞き入れることが出来ない。
 ──魔法だって万能じゃねぇんだよ……!
俺は、しかし怒ることなく、諭すように言った。
「クウガ、よく聞け。魔法を使ってもできないことなんてざらにある。人を生き返らせるってのはな……魔法でも……できないんだよ」

 今の俺はどんな顔をしているだろう。

 泣いているのだろうか?

 それとも…………怒っているのだろうか。

 そんな感情を探るような思いも、うっすらと、意識とともに消えていく。

 そしてそんな時でさえ。
 俺はしっかりと相手を見据えた。
 横でクウガが肩を震わせて泣いていようが、マーリンが謝り続けていようが。
 そんなのは関係ない、俺は俺で、やりたいことがある。
「おいてめぇ……」
 その声はきっと、最初に戦った男達の時よりも低かっただろう。
 ただ低い訳では無い。
 ──恐怖を感じさせるほどに、怒りのこもった声だっただろう。
 そして続きを言った。
「今すぐ殺してやる。お前の寿命は──今日だ」
 相手に対する、死の宣告を。
 後に「絶死の剣士」と呼ばれる所以たる、その宣告を。

 クレナイはその頃、カガリと対峙していた。
「やはりやるな。さて、本気を出させてもらおうか」
 カガリはそう言うと腹に力を入れ始めた。
「ふっ……!」
 どうやら時間がいるようだ。
 漫画やアニメならば、ここで待ったりするものではある。
 だがこれは現実。そんなに甘くない。
「……遅い……」
 そう言ってクレナイは、カガリに向かって走り出し──後ろに回り込み、そして、カガリの腹に一つ、刀を突き刺した。
「がっ……なっ……卑怯……だぞ……!」
「……卑怯? ……別に私は、あなたの力を出すというものを待つ義理はない……だから、これは卑怯ではない……」
 カガリは、クレナイに虚しく正論で返され、のめり込むように倒れていった。
「……らく……しょー……」
 クレナイは心の中でガッツポーズをしてから、急いでナードの元へ向かった。
 が、向かった先にいるのは冷たくなったナードと、泣きじゃくるクウガ。そして、クウガに対して静かに話すハーデスだった。
「……これは……」
 状況を察したクレナイは、さらに速く、近づいた。

 その頃、アレスとリューネは、余裕綽々よゆうしゃくしゃくの表情で、相手に勝っていた。
 相手は両方女らしく、アレスは殺すのを躊躇い、半殺し程度に。リューネは、そもそも殺す気がなかったので、眠らせて捕らえていた。
 そして、二人は合流し、ナードの元へと向かっていた。

 クレナイの姿を確認した俺は、ちらとそちらを一瞥するも、相手を再び見据え直した。
 クレナイがこちらに加勢してこないことを願い、俺は、目の前にいるそいつに問いかけた。
「殺す前に一つ聞くが、てめぇ、名前はなんだ?」
 そもそも喋るのか?という疑問を抱きながら、睨んで聞いた。
 すると、予想外の返答が来た。
「……俺の名前は……アイドラだ……」
 返事の内容はそこまで驚く程のことではない。というか名前を聞いておいて名前を言われて驚いたら失礼すぎる。
 何に驚いたかと言うと、それは返事をしたこと自体だ。
 ──喋れたのかよ……。
 少し呆れつつ、しかし見据えることはやめずに言った。
「んじゃあ、アイドラ……安らかに眠れ?」
 そう言って、俺はアイドラに突っ込んだ。
 目にも止まらぬ早さで動く俺に対し、アイドラは突っ立っているだけだった。
 アイドラが立ち尽くしていたので、格好の的と思い、俺は切り刻んだ。
 体を捻り、回転を加えて。
「ぐっ……」
 アイドラは唸るも、傷がついた様子がない。
 傷はついているのだろうが、そもそも傷だらけだったし、こいつの耐久力が高いだろうことぐらいは予想がついていた。
「それで終わりか? ではこちらも……」
 アイドラは言うが早いか、腕を振り下ろした。
 そしてその腕は、地面に当たり……大地を震わせた。
 そこからアイドラの猛攻が始まった。
 足がよろめき、ふらついた所を拳で叩きつけ、そして何度も殴り続けた。
 10分も殴り続けると、さすがに疲れたのか、距離を置いて立ち、休憩していた。
 とは言っても、警戒は一切緩めなかった。
 手応えはあったが、死んだという確証がない。
 アイドラはじっと、見据えていた。
 しかしアイドラの攻撃も虚しく、俺にすべて防がれていた。
「残念だったな。──終わりだ」
 その言葉は、重く、そして強い怒りのこもった声だった。
 そして……俺は一瞬で姿を消し、また現れた。
 
 途端、アイドラはガクリと足をよろめかせ、崩れるように倒れ込んだ。
 アイドラは……死んでいた。
「……安らかに眠り給え……ナード、アイドラ」
 そうして、襲撃による戦いは終わった。

 戦いが終わったにも関わらず、クウガは一頻り泣いていた。
 マーリンやリューネも、多少泣きはしたが、すぐに泣き止んだ。しかしクウガはずっと泣いている。
 仕方ないことだとは思う。なにしろ、一緒に戦ってきた仲間で。
 それに、クウガはずっと懇意にしていたわけで。だからこそ、ナードのことは人一倍思っているが故に、泣きじゃくるのだろう。
 しかし、泣いているクウガを誰も止めはしない。
 主に俺や、クレナイの分まで泣いてもらっている気がしたからだ。
 かくいう俺は、一切涙が出なかった。悲しくない、と言うと、嘘になるが、しかし泣くことは出来ない。
 仲間の死でも泣くことが出来ないなんて、血も涙もない、そう、自分のことながら思った。
 クレナイも、そう思っているのかもしれない。
 そしてその夜は、クウガの泣き声だけが、響き渡っていた。

エピローグ・嵐の後
 翌日、俺たちはナードの死体を森の中に埋め、墓を作った。
 そして今は、墓参り中だ。
「ナード……約束は絶対守る。だから……安心して逝ってくれよな」
「ナード、僕、強くなるから。だから……見守ってて……」
「ごめんね、ナード……私がいらないことしたばかりに……ごめんね……」
 みんなが口々にナードの死を悼んでいた。
 ナードの死は、たしかに大きい。
 だが、この死を乗り越えなければ、このゲームで先に進むことは出来ない。そう思って、この墓参りをすることにした。
「もう止まることなんてできねぇんだもんな……」
 俺は独り言のようにそう呟いた。

「──よし、もう行くぞ」
 俺の声を聞き、みんなは合掌する手をおさめた。
 拠点へ向かって歩いていると、ふと、ナードの声が聞こえたような気がした。
 ──生きろ。ずっと、見守っているぞ──
 そんな声が……聞こえた気がした。

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