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1章 リアルとデジタルを繋ぐ鍵
機巧巨塔は傷つかない
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トラ〇スッ、フォォォォーーーームッ!!
幼い頃のほんのほんの、ほーんの短いごく僅かな期間だけだが、狂ったようにそんな真似事をしていた記憶が蘇った。
クルマが戦闘ロボットに変身?
そんなことあるわけねぇ。大手のあそことかアソコとか、燃費偽装してまで金をケチらないとやってられないご時世なのだ。そんな世の中で『ロボットに変形する』なんてトンデモ機能を実装する余裕があるわけなかろうに。
そもそも世界のクルマ技術はそこまで進歩していない。そんなものがあるとすればそれはそうだな、それこそ映画の中とか、漫画やアニメの中…………。
あと………………
「ゲームの中、とかかな……」
今のところ剣と魔法のファンタジーっぽいこのゲーム世界観にはとても似合わない大正時代の塔っぽい建築物。だがそれは建築物なんかではなく、恐ろしく巨大で、荘厳で、堅牢なる怪物だった。
その巨体が少し動くたびに体が跳ね上げられるような地震が起こる。
怪物を真下から見上げながら、俺は乾いた笑みを零した。
「あははは……。…………負けイベント?」
「『カラクリ仕掛ケノ巨塔』。ボス扱いだからHPなどのステータスは非公開だよ。専用アナライズスキルを習得すれば、そういったボスキャラも分析できるようになるんだけどね」
「負けイベント? 負けイベントなんだよな?な?」
「普通に勝ちイベントでーす。さ、相手が気付いてないうちに先制攻撃だよ」
「えええええええええ!! 無理無理無理無理!! 俺まだレベル1なのに勝てるワケねーじゃん!!」
「大丈夫。君がポッ○ャマくらいの強さだとしたら、『カラクリ仕掛ケノ巨塔』はロズ○イドくらいの強さだよ!」
「そこそこ強いじゃねーか! しかも相性最悪! せめて『つつく』ぐらい覚えてんだろーな!?」
「君は『いあいぎり』覚えてるんだから大丈夫だろ」
「木刀振り回してるだけだっての! 何上手いこと言ってやったぜみたいな顔してんだ腹立つ!」
「まあ、これチュートリアルだし。ボクの必殺技『サポートコンボ』があれば勝てるから、とにかくやってみてよ」
そ……そうだよな。
普段ゲームをプレイしてる時なら「はーん、余裕余裕」ってこなしてるようなイベントでも、いざ自分が主人公の立場になったら必要以上にビビっちゃうって、ただそれだけのコトだよな。
モン〇ンだって、最初のフィールドに出てくるでっかい恐竜みたいなやつはクソ弱いじゃないか! この敵もそんな感じだって! チュートリアルでそんな強い敵が出てくるワケないんだって!
ここまでくるとほとんど自己暗示ありきである。
ぐるぐると混乱しながら、そろりそろりと巨塔に近付き、その足元に会心の一撃を喰らわせるべく木刀を大きく振りかぶる。
どうせ先制攻撃するなら、少しでも多くのダメージを与えるべきだよな……!
いけるいける大丈夫だ大丈夫だ、しじみがトゥルルって頑張ってんだよどうしてそこで諦めるんだそこで!!
今日からお前は、
そして、思い切り木刀を振り下ろした。
「富士山だ!!」
ガキン。
……結論。
「ゴォォォォォォ!」
「ぎゃああああああごめんなさいごめんなさいいいいいいい!!」
めっちゃ硬くて、少しでも多くのダメージとかそれどころじゃありませんでした。無傷でした。
ほぼノーダメージとは言っても、流石に背後から奇襲されたのは腹立たしいのか、カラクリ仕掛ケノ巨塔はこちらを振り返り、そのオニガワラのような形相を露にした。後ろ姿しか見てなかったが、器用にも煉瓦で顔まで作ってやがったのか。
……なんて言ってる場合じゃねぇ!
目にも止まらぬ速さで発射された煉瓦が俺の頬を掠める。口角を引きつらせて冷や汗をドバドバかいてぎこちなく振り返ると、煉瓦が着弾した大地は無残に抉れて地面の茶色が顕になっていた。
これが直撃してたら…………?
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ひぃぃぃぃ!! もっと降ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「頑張って避けまくって! しばらくしたら止むから!」
まるで流星群の如く、カラクリ仕掛ケノ巨塔の体から剥がれ落ちて飛んでくる無数の煉瓦群。ドヒュンドヒュンという効果音を俺は初めて聞いたね。小学生の時にドッジボールで培った回避スキルが自分の命を助ける時が来るなんてな。
前転やバックステップを駆使してなんとか全ての煉瓦弾をかわしきると、カラクリ仕掛ケノ巨塔の動きが停止する。ジェイペグの言った通りってわけか。
恐る恐る、しかし勢いよく巨塔の足元へ近付き、ガツンガツンと2,3発殴りつける。しかし俺の必死の斬撃アタックも虚しく、かなり効果は薄そうだ、っていうか多分効いてない。
しかも、こちら側の攻撃ターンはかなり短いようで、7秒ほど攻撃を休んだ巨塔はまた目をギラッと光らせて煉瓦を発射してきた。
「ゴォッ!!ゴォォォォォォォォォッ!!」
1発、2発と避けていくが、そもそもこの煉瓦弾は160キロ剛速球レベルの超スピードバレット。第一波の弾を全てかわしきったこと自体がラッキーなのであり、そうポンポン避け続けることは叶わなかった。
3発目の弾丸をバックステップで避けると足がもつれてしまった。その場でケンケンパをするようによろめく。
そして、4発目の弾丸の着弾地点は、まさにその『パ』の位置なのだった。
「ぐほぁぁぁっ!?」
胸と腹の間、みぞおち付近にモロに煉瓦弾が直撃し、その勢いのままに後方へ吹っ飛ぶ。服もなにも破けていないのが不思議なくらいに、肉が抉れていないのが不思議なくらいにめちゃくちゃ痛い。
くそっ、ゲームのくせに本当に痛みを感じるなんて!
倒れているところにさらにもう一発喰らえば、次こそマジでバタンキューかもしれん。現実世界ならこれだけのダメージを負ったらすぐには立ち上がれないだろうが、さすがにこのへんはゲームなようだ。俊敏に立ち上がって木刀を構え直す。
つーか、俺の足元にいるこの虎……。こいつは俺みたいに慌ててないのを見ると、どうやらパートナーキャラには攻撃が当たらないようだな。くそ、済ました顔しやがって!
「敵と戦ったりしていると、戦闘時間経過や与えた・受けたダメージなどによって、ゲージが溜まっていくんだ。それを2本ぶん溜めたら、切り札『サポートコンボ』が使用可能になるからね」
「そのゲージはどうやって確認するんだよ!?」
「メニューを開いて」
「そういうことは先に言……とっくに溜まってんじゃねーかクソ虎がああああ!!」
「ハハハハハハハハ、ごめんごめん!」
「笑ってないで、どうやったら使えるのか教えろ!! もー無理ィィィィィ!!」
この一方的ないじめドッジボールもいよいよ限界だ、集中力とか運とか精神力とかいろいろ、このままジリ貧じゃ2分ともたない。
めいっぱい脚を広げてジャンプし、股の間に飛んできた弾を避ける。
もし当たっていたら体のどの部位に被弾していたのか……………………考えたくもない。
「力を借りたいパートナーの名前…、つまりボクの名前を呼ぶんだ! スタ〇ドとかペル〇ナみたいに!」
「いつも一言二言余計なんだよお前は!」
「ゴォォォォォォォ!!」
「うわあああああああああああああ! 弾数が明らかに増えてるぅぅ!!」
ツッコミなんかしてる場合じゃねぇ!
せっかくの初必殺技なんだからカッコつけたいところではあるのだが、如何せん全くそんな余裕はない。
俺は後を追いかけるように撃たれる弾を走って避けながら、神に祈るように、さっきものすごくテキトーに名付けた名前を呼んだ。
「ジェイペグ!!」
言われたとおり、俺がなせる限りのイケボでその虎の名を呼ぶ。
あたり一面が、世界に灰色のトーンを貼り付けたかのように暗くなって、カラクリ仕掛ケノ巨塔は時が止まったかのように動かなくなる。
圧倒される俺の目の前の大地に、どこか見慣れたマークが中心に描かれた魔法陣が展開される。紫色と赤色と黄色と……その魔法陣は次々に色が変わっていき、最終的にはうっとりするような真っ黒い闇色に染まった。
魔法陣は徐々に形を失い、やがて一つの大きな闇の玉となった。
…………演出、長くね?
邪念を振り払い、サポートコンボとやらの観察を続ける。
闇の玉はやがて粘土細工のように変形して、ジェイペグとなった。そういえば、名前を呼ぶまで足元についてきていたジェイペグの姿はいつの間にか消えている。
「――ラヴクラフト!」
ジェイペグの声が、クトゥルフ神話の父として有名なイギリスのコズミックホラー作家の名を呼ぶ。俺がパートナーを召喚し、喚ばれたパートナーは、かつて自らの思い描く混沌の世界を描いた作家を喚んだ。
若干演出過多な2重召喚から登場した『ラヴクラフト』は、皮膚が焼け爛れた鬼のような奇抜な姿。奇怪なリズムで蜃気楼のようにゆらめくその動きのせいで、それが本当にここに存在しているのかすらはっきりとしない。
恐怖と未知の暗示。
そして、混沌の暗示。
ラヴクラフトの名を付けられるに相応しい魔物が、ジェイペグの影となるように顕現した。
「す、すげぇ……! ゲームとか漫画の化身的なアレって、リアルで見たらこんなカッコいいんだな!?」
「うん、なんか憧れられ方に少し納得がいかないけど……」
「え、これ、敵の動きが止まってるのはもしかしてラヴクラフトの能力か? ザ・ワー○ドッ! 時よ止まれッ! 的なアレなのか?」
「いや……普通にチュートリアルの解説のためのシステム的な一時停止だけど……」
「えぇ―……ないわー………」
「えぇー……何そのさっきまでとの温度差……」
一回高望みすると、寸止めされた時の失望感が半端ないよね。現実は理想の2個下でしたみたいな。
「ま、いいや。で、時止めが出来ないならラヴクラフトの能力は何なんだ?」
「ああ。それは実際に見てもらった方がいいかな?」
ジェイペグはそう言うと、四足歩行の右前足を前に突き出して叫んだ。
「いっけぇぇぇー!!」
ジェイペグの無邪気な子供の声を合図に、残虐極まりない奥義演出が展開される。
ラヴクラフトは、鬼のようなその姿を水のような液体に変え、カラクリ仕掛ケノ巨塔を包み込んだ。そのまま真下に潜り、カラクリ仕掛ケノ巨塔の形をした影を地面に写し出し……その姿のまま、確かに笑みを浮かべた。
やがて、イタズラな子供が水面をメチャクチャに殴りまくったように、影が波打った。グチャリ、ベチョ、と、咀嚼音とも何かを踏み潰す音ともつかぬ残虐な音が聞こえてくる。
波打った影は、カラクリ仕掛ケノ巨塔の形を徐々に崩し、元の鬼の形となって、主であるジェイペグの元に帰り、姿を消した。
「……フィニッシュ、かな?」
「ゴッ…………ゴォォゲェェガァァァァァ!?」
突然、ラヴクラフトに拐われてから今までどこかに消えていたカラクリ仕掛ケノ巨塔の体が地面から撃ち上がる。煉瓦造りの巨塔がまるでペットボトルロケットのように放物線を描いて飛び上がる図は、実にシュールだった。
最高到達点にたどり着く。たどり着いたその座標で死神と出会したかのように、カラクリ仕掛ケノ巨塔は凍りつき……先刻の影のように波打ち、砕けた。
……鮮やかだ。そう思った。
「……ラヴクラフトは、影の能力か……厨二くせーけどかっこいいな」
「影を自在に操って、相手が読めないような手段で攻撃を繰り出す。NPC操作の敵なんかはもちろん、同じ双子座のパートナーを持ってたりかなりの上級プレイヤーじゃないと、これは避けられないだろうね」
「プレイヤーじゃないと避けられない、ねぇ。やっぱりこのゲーム、モンスターとだけじゃなく他のプレイヤーとも戦うことがあるのか?」
「もちろん。他のオンラインゲームみたいに闘技場があって、何勝したらレア装備ゲット! とか、このアイテムをかけてバトル! とか、色々な設定で対人戦ができたりするよ。
あと次のイベントなんかは、対人戦でポイントを集めると、レア装備を入手できる特別ダンジョンに挑戦する資格がもらえる! みたいな、対人戦メインのものだしね。装備とかレベルが充実してきたら闘技場に挑戦してみてもいいかもよ?」
なんともメタ的な説明だ……。いや、普通のゲームみたいに『〇〇タウンの〇〇〇という施設で〇〇〇〇に話しかけて〇〇アクションをすることで~』みたいな、固有名詞たっぷりの初心者に不親切な説明されるよりずっといいんだけどさ。
それにしても、対人戦か……。深夜のFPSでニート廃人にボッコボコにされた記憶が蘇ってくるな。
トゥリッパラッパラッパーラッパー♪
「ん? なんだ今の、いかにも『レベルが上がりましたよ!』って感じの効果音?」
「君の予想通り、レベルが上がった効果音だよ。あのデカブツを倒したんだから、一気にレベル4くらいまで上がってるかもね」
パン、と手を叩いてステータスを開いてみると、たしかにレベルは4に上がっている。さっき、レベル1の時に見たものよりも数値が上がっていた。
もちろんまだまだ小さな値ではあるのだが、レベル1の時に比べれば大きく上がっていると言える。この、ステータスの数字がどんどんと上がっていく様子こそRPGの醍醐味である。
「怜斗ー! おーい!」
「こっちこっちー!!」
現実世界では聞き慣れた、しかしゲームの世界では初めての声。足元を歩くジェイペグに向けていた視線を前方に戻すと、斗月と夏矢ちゃんが大きく手を振っているのが見える。
そんな二人の足元には、ネコっぽいのとニワトリっぽいのもいるようだが、アイツらもそれぞれパートナーを獲得したんだろうか。
「無事だったか?」
「ああ……でっかい砦っつーか、ゴーレムみたいなのと戦わされたがな」
「私たちもよ。……一回蹴っ飛ばされたわ、めちゃくちゃ痛かった」
「それな。石が頭にマトモに当たってちょっと混乱状態になるわ、散々だったぜ」
どうやら、石がみぞおちに当たったってだけの俺はマシだったらしい。
「そういえば、隣のそいつは?パートナーか?」
「おお、紹介するぜ。このクソ猫は……」
「誰がクソ猫だ。……俺様はナウド。名は、ついさっきそこのチャラ男にそう名付けられた。天秤座のパートナーキャラだ」
「誰がチャラ男だ!」
「……仲悪いな」
「天秤座のパートナーはプライドの高いヤツが多いからね……ファーストコンタクトに失敗したんだろうね」
そういえば斗月のヤツ、天秤座だったっけ。
そう考えると、夏矢ちゃんはたしか射手座だが…射手座のパートナーがニワトリとは、なんかミスマッチだな? 双子座で虎を連れてる俺が言えたことではないけど。
「ワシはキーピー。夏矢を主とするパートナーじゃ」
「……キーピー、あなたそのババ臭い言葉遣い、なんとかならないの?」
「いいんじゃね? 主《あるじ》にそっくりで」
「はぁー!? それどういう意味?」
「言ったまんまだよ。その年でブランドブランド言ってるのは相当ババくせぇから」
「そっちこそ、いつまでもしま○らで私服揃えるのやめたらー?」
「し○むらを馬鹿にしたなこの野郎! 熊○村の巫女さんも認めたファストファッションブランドだぞ!!」
「お主ら仲がええのう。とっととくっついたらええのに」
「そりゃ昔くっついて別れ……」
『………………………………………………』
「……なんでもねっす」
斗月に尋常ならざる視線の圧力×2をかけて黙らせる。だがキーピーの誤解は晴れず「やっぱし仲ええのう」とかほざいて笑っていた。
くそ、無駄なトコで息合わせて来てんじゃねーよ。
……あれ?
ふと気付く。何だか二人の見た目に違和感を感じるのだが……。
「ん?何よジロジロ見て気持ち悪い。……ああコレ?銃よ」
斗月は人の顔くらいの大きさのヨーヨーを両手に、夏矢ちゃんは星の装飾がついた白い拳銃をベルトに取りつけたホルスターに、それぞれぶら下げている。
「このヨーヨー、結構威力高くてさ。なかなか使いやすい武器だぜ」
「真っ白な銃なんて、可愛いでしょ?あんたには分からない価値だろうケド」
「……おいジェイペグ、二人とも俺の木刀なんかよりめっちゃオシャレな武器なんだが、これはどういうことだ」
てっきり「君に似合うダサい武器じゃんか」とかバカにされると思ったのだが、ジェイペグは気まずそうに目を伏せている。
「……あの鍵は、脳に入る瞬間に、君たちの身体能力とかのデータをスキャンして読み取る力も持っていたんだけど……」
「ちょ……なんか嫌な予感がするからやめろ!」
「トヅキは器用で、このゲームでも不人気なヨーヨーやヌンチャクといった武器を使いこなせるトリッキーな才能の持ち主でね……」
「だからやめろって!」
「カヤも、人よりかなり目がよくて、銃とかの遠距離武器の才能は、運営の目から見ても光っていてね……」
「お願いしますやめてください! しんでしまいます!」
「でも怜斗には何にも特筆すべき特技や特に秀でた身体能力がなかったから、適当に一番人気の武器である刀剣類を与えたんだ……」
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!」
「黙っててごめんね……」
「謝るなあああああああああああああ! 今すぐ死にたいいいいいいいいいいい!!」
完全にハートブレイクした。
こんなのあんまりだ。現実逃避の先であるべきゲームの中でまで、『お前には特技も特殊性も何もない一般人だ』なんて言われるなんて……! 畜生、いくら勉強できても身体能力が人並みじゃ意味ないってか!?
プークスクスと指を指して笑ってきやがる幼馴染み二人を横目で睨み付け、あいつらを殺して自分も死んでやろうと後ろ向きな決意を固めつつ、俺は膝から崩れ落ちた体勢を立て直した。
「……てか、ジェイペグって。なんつー名前つけてんだよ、お前」
「出来るだけ愛着が沸かなそうな名前を選びました」
「……お前、将来ぜったい孤独死するわ。なんとなくだけど」
現在高校生同士の親友から何故か老後の心配をされ、首を傾げた。
「はい、みんな注目!」
そんな風に、喋る獣たちを交えての世間話に花を咲かせていると、ジェイペグが突然話に割って入ってきた。
ジェイペグの声に、事前に打ち合わせでもしていたかのように違和感なく振り向く獣二匹に、顔を見合わせる人間三人。なにが始まるんです?
「今日は皆さんに、ちょっと神狩りをして貰います!!」
幼い頃のほんのほんの、ほーんの短いごく僅かな期間だけだが、狂ったようにそんな真似事をしていた記憶が蘇った。
クルマが戦闘ロボットに変身?
そんなことあるわけねぇ。大手のあそことかアソコとか、燃費偽装してまで金をケチらないとやってられないご時世なのだ。そんな世の中で『ロボットに変形する』なんてトンデモ機能を実装する余裕があるわけなかろうに。
そもそも世界のクルマ技術はそこまで進歩していない。そんなものがあるとすればそれはそうだな、それこそ映画の中とか、漫画やアニメの中…………。
あと………………
「ゲームの中、とかかな……」
今のところ剣と魔法のファンタジーっぽいこのゲーム世界観にはとても似合わない大正時代の塔っぽい建築物。だがそれは建築物なんかではなく、恐ろしく巨大で、荘厳で、堅牢なる怪物だった。
その巨体が少し動くたびに体が跳ね上げられるような地震が起こる。
怪物を真下から見上げながら、俺は乾いた笑みを零した。
「あははは……。…………負けイベント?」
「『カラクリ仕掛ケノ巨塔』。ボス扱いだからHPなどのステータスは非公開だよ。専用アナライズスキルを習得すれば、そういったボスキャラも分析できるようになるんだけどね」
「負けイベント? 負けイベントなんだよな?な?」
「普通に勝ちイベントでーす。さ、相手が気付いてないうちに先制攻撃だよ」
「えええええええええ!! 無理無理無理無理!! 俺まだレベル1なのに勝てるワケねーじゃん!!」
「大丈夫。君がポッ○ャマくらいの強さだとしたら、『カラクリ仕掛ケノ巨塔』はロズ○イドくらいの強さだよ!」
「そこそこ強いじゃねーか! しかも相性最悪! せめて『つつく』ぐらい覚えてんだろーな!?」
「君は『いあいぎり』覚えてるんだから大丈夫だろ」
「木刀振り回してるだけだっての! 何上手いこと言ってやったぜみたいな顔してんだ腹立つ!」
「まあ、これチュートリアルだし。ボクの必殺技『サポートコンボ』があれば勝てるから、とにかくやってみてよ」
そ……そうだよな。
普段ゲームをプレイしてる時なら「はーん、余裕余裕」ってこなしてるようなイベントでも、いざ自分が主人公の立場になったら必要以上にビビっちゃうって、ただそれだけのコトだよな。
モン〇ンだって、最初のフィールドに出てくるでっかい恐竜みたいなやつはクソ弱いじゃないか! この敵もそんな感じだって! チュートリアルでそんな強い敵が出てくるワケないんだって!
ここまでくるとほとんど自己暗示ありきである。
ぐるぐると混乱しながら、そろりそろりと巨塔に近付き、その足元に会心の一撃を喰らわせるべく木刀を大きく振りかぶる。
どうせ先制攻撃するなら、少しでも多くのダメージを与えるべきだよな……!
いけるいける大丈夫だ大丈夫だ、しじみがトゥルルって頑張ってんだよどうしてそこで諦めるんだそこで!!
今日からお前は、
そして、思い切り木刀を振り下ろした。
「富士山だ!!」
ガキン。
……結論。
「ゴォォォォォォ!」
「ぎゃああああああごめんなさいごめんなさいいいいいいい!!」
めっちゃ硬くて、少しでも多くのダメージとかそれどころじゃありませんでした。無傷でした。
ほぼノーダメージとは言っても、流石に背後から奇襲されたのは腹立たしいのか、カラクリ仕掛ケノ巨塔はこちらを振り返り、そのオニガワラのような形相を露にした。後ろ姿しか見てなかったが、器用にも煉瓦で顔まで作ってやがったのか。
……なんて言ってる場合じゃねぇ!
目にも止まらぬ速さで発射された煉瓦が俺の頬を掠める。口角を引きつらせて冷や汗をドバドバかいてぎこちなく振り返ると、煉瓦が着弾した大地は無残に抉れて地面の茶色が顕になっていた。
これが直撃してたら…………?
「ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「ひぃぃぃぃ!! もっと降ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「頑張って避けまくって! しばらくしたら止むから!」
まるで流星群の如く、カラクリ仕掛ケノ巨塔の体から剥がれ落ちて飛んでくる無数の煉瓦群。ドヒュンドヒュンという効果音を俺は初めて聞いたね。小学生の時にドッジボールで培った回避スキルが自分の命を助ける時が来るなんてな。
前転やバックステップを駆使してなんとか全ての煉瓦弾をかわしきると、カラクリ仕掛ケノ巨塔の動きが停止する。ジェイペグの言った通りってわけか。
恐る恐る、しかし勢いよく巨塔の足元へ近付き、ガツンガツンと2,3発殴りつける。しかし俺の必死の斬撃アタックも虚しく、かなり効果は薄そうだ、っていうか多分効いてない。
しかも、こちら側の攻撃ターンはかなり短いようで、7秒ほど攻撃を休んだ巨塔はまた目をギラッと光らせて煉瓦を発射してきた。
「ゴォッ!!ゴォォォォォォォォォッ!!」
1発、2発と避けていくが、そもそもこの煉瓦弾は160キロ剛速球レベルの超スピードバレット。第一波の弾を全てかわしきったこと自体がラッキーなのであり、そうポンポン避け続けることは叶わなかった。
3発目の弾丸をバックステップで避けると足がもつれてしまった。その場でケンケンパをするようによろめく。
そして、4発目の弾丸の着弾地点は、まさにその『パ』の位置なのだった。
「ぐほぁぁぁっ!?」
胸と腹の間、みぞおち付近にモロに煉瓦弾が直撃し、その勢いのままに後方へ吹っ飛ぶ。服もなにも破けていないのが不思議なくらいに、肉が抉れていないのが不思議なくらいにめちゃくちゃ痛い。
くそっ、ゲームのくせに本当に痛みを感じるなんて!
倒れているところにさらにもう一発喰らえば、次こそマジでバタンキューかもしれん。現実世界ならこれだけのダメージを負ったらすぐには立ち上がれないだろうが、さすがにこのへんはゲームなようだ。俊敏に立ち上がって木刀を構え直す。
つーか、俺の足元にいるこの虎……。こいつは俺みたいに慌ててないのを見ると、どうやらパートナーキャラには攻撃が当たらないようだな。くそ、済ました顔しやがって!
「敵と戦ったりしていると、戦闘時間経過や与えた・受けたダメージなどによって、ゲージが溜まっていくんだ。それを2本ぶん溜めたら、切り札『サポートコンボ』が使用可能になるからね」
「そのゲージはどうやって確認するんだよ!?」
「メニューを開いて」
「そういうことは先に言……とっくに溜まってんじゃねーかクソ虎がああああ!!」
「ハハハハハハハハ、ごめんごめん!」
「笑ってないで、どうやったら使えるのか教えろ!! もー無理ィィィィィ!!」
この一方的ないじめドッジボールもいよいよ限界だ、集中力とか運とか精神力とかいろいろ、このままジリ貧じゃ2分ともたない。
めいっぱい脚を広げてジャンプし、股の間に飛んできた弾を避ける。
もし当たっていたら体のどの部位に被弾していたのか……………………考えたくもない。
「力を借りたいパートナーの名前…、つまりボクの名前を呼ぶんだ! スタ〇ドとかペル〇ナみたいに!」
「いつも一言二言余計なんだよお前は!」
「ゴォォォォォォォ!!」
「うわあああああああああああああ! 弾数が明らかに増えてるぅぅ!!」
ツッコミなんかしてる場合じゃねぇ!
せっかくの初必殺技なんだからカッコつけたいところではあるのだが、如何せん全くそんな余裕はない。
俺は後を追いかけるように撃たれる弾を走って避けながら、神に祈るように、さっきものすごくテキトーに名付けた名前を呼んだ。
「ジェイペグ!!」
言われたとおり、俺がなせる限りのイケボでその虎の名を呼ぶ。
あたり一面が、世界に灰色のトーンを貼り付けたかのように暗くなって、カラクリ仕掛ケノ巨塔は時が止まったかのように動かなくなる。
圧倒される俺の目の前の大地に、どこか見慣れたマークが中心に描かれた魔法陣が展開される。紫色と赤色と黄色と……その魔法陣は次々に色が変わっていき、最終的にはうっとりするような真っ黒い闇色に染まった。
魔法陣は徐々に形を失い、やがて一つの大きな闇の玉となった。
…………演出、長くね?
邪念を振り払い、サポートコンボとやらの観察を続ける。
闇の玉はやがて粘土細工のように変形して、ジェイペグとなった。そういえば、名前を呼ぶまで足元についてきていたジェイペグの姿はいつの間にか消えている。
「――ラヴクラフト!」
ジェイペグの声が、クトゥルフ神話の父として有名なイギリスのコズミックホラー作家の名を呼ぶ。俺がパートナーを召喚し、喚ばれたパートナーは、かつて自らの思い描く混沌の世界を描いた作家を喚んだ。
若干演出過多な2重召喚から登場した『ラヴクラフト』は、皮膚が焼け爛れた鬼のような奇抜な姿。奇怪なリズムで蜃気楼のようにゆらめくその動きのせいで、それが本当にここに存在しているのかすらはっきりとしない。
恐怖と未知の暗示。
そして、混沌の暗示。
ラヴクラフトの名を付けられるに相応しい魔物が、ジェイペグの影となるように顕現した。
「す、すげぇ……! ゲームとか漫画の化身的なアレって、リアルで見たらこんなカッコいいんだな!?」
「うん、なんか憧れられ方に少し納得がいかないけど……」
「え、これ、敵の動きが止まってるのはもしかしてラヴクラフトの能力か? ザ・ワー○ドッ! 時よ止まれッ! 的なアレなのか?」
「いや……普通にチュートリアルの解説のためのシステム的な一時停止だけど……」
「えぇ―……ないわー………」
「えぇー……何そのさっきまでとの温度差……」
一回高望みすると、寸止めされた時の失望感が半端ないよね。現実は理想の2個下でしたみたいな。
「ま、いいや。で、時止めが出来ないならラヴクラフトの能力は何なんだ?」
「ああ。それは実際に見てもらった方がいいかな?」
ジェイペグはそう言うと、四足歩行の右前足を前に突き出して叫んだ。
「いっけぇぇぇー!!」
ジェイペグの無邪気な子供の声を合図に、残虐極まりない奥義演出が展開される。
ラヴクラフトは、鬼のようなその姿を水のような液体に変え、カラクリ仕掛ケノ巨塔を包み込んだ。そのまま真下に潜り、カラクリ仕掛ケノ巨塔の形をした影を地面に写し出し……その姿のまま、確かに笑みを浮かべた。
やがて、イタズラな子供が水面をメチャクチャに殴りまくったように、影が波打った。グチャリ、ベチョ、と、咀嚼音とも何かを踏み潰す音ともつかぬ残虐な音が聞こえてくる。
波打った影は、カラクリ仕掛ケノ巨塔の形を徐々に崩し、元の鬼の形となって、主であるジェイペグの元に帰り、姿を消した。
「……フィニッシュ、かな?」
「ゴッ…………ゴォォゲェェガァァァァァ!?」
突然、ラヴクラフトに拐われてから今までどこかに消えていたカラクリ仕掛ケノ巨塔の体が地面から撃ち上がる。煉瓦造りの巨塔がまるでペットボトルロケットのように放物線を描いて飛び上がる図は、実にシュールだった。
最高到達点にたどり着く。たどり着いたその座標で死神と出会したかのように、カラクリ仕掛ケノ巨塔は凍りつき……先刻の影のように波打ち、砕けた。
……鮮やかだ。そう思った。
「……ラヴクラフトは、影の能力か……厨二くせーけどかっこいいな」
「影を自在に操って、相手が読めないような手段で攻撃を繰り出す。NPC操作の敵なんかはもちろん、同じ双子座のパートナーを持ってたりかなりの上級プレイヤーじゃないと、これは避けられないだろうね」
「プレイヤーじゃないと避けられない、ねぇ。やっぱりこのゲーム、モンスターとだけじゃなく他のプレイヤーとも戦うことがあるのか?」
「もちろん。他のオンラインゲームみたいに闘技場があって、何勝したらレア装備ゲット! とか、このアイテムをかけてバトル! とか、色々な設定で対人戦ができたりするよ。
あと次のイベントなんかは、対人戦でポイントを集めると、レア装備を入手できる特別ダンジョンに挑戦する資格がもらえる! みたいな、対人戦メインのものだしね。装備とかレベルが充実してきたら闘技場に挑戦してみてもいいかもよ?」
なんともメタ的な説明だ……。いや、普通のゲームみたいに『〇〇タウンの〇〇〇という施設で〇〇〇〇に話しかけて〇〇アクションをすることで~』みたいな、固有名詞たっぷりの初心者に不親切な説明されるよりずっといいんだけどさ。
それにしても、対人戦か……。深夜のFPSでニート廃人にボッコボコにされた記憶が蘇ってくるな。
トゥリッパラッパラッパーラッパー♪
「ん? なんだ今の、いかにも『レベルが上がりましたよ!』って感じの効果音?」
「君の予想通り、レベルが上がった効果音だよ。あのデカブツを倒したんだから、一気にレベル4くらいまで上がってるかもね」
パン、と手を叩いてステータスを開いてみると、たしかにレベルは4に上がっている。さっき、レベル1の時に見たものよりも数値が上がっていた。
もちろんまだまだ小さな値ではあるのだが、レベル1の時に比べれば大きく上がっていると言える。この、ステータスの数字がどんどんと上がっていく様子こそRPGの醍醐味である。
「怜斗ー! おーい!」
「こっちこっちー!!」
現実世界では聞き慣れた、しかしゲームの世界では初めての声。足元を歩くジェイペグに向けていた視線を前方に戻すと、斗月と夏矢ちゃんが大きく手を振っているのが見える。
そんな二人の足元には、ネコっぽいのとニワトリっぽいのもいるようだが、アイツらもそれぞれパートナーを獲得したんだろうか。
「無事だったか?」
「ああ……でっかい砦っつーか、ゴーレムみたいなのと戦わされたがな」
「私たちもよ。……一回蹴っ飛ばされたわ、めちゃくちゃ痛かった」
「それな。石が頭にマトモに当たってちょっと混乱状態になるわ、散々だったぜ」
どうやら、石がみぞおちに当たったってだけの俺はマシだったらしい。
「そういえば、隣のそいつは?パートナーか?」
「おお、紹介するぜ。このクソ猫は……」
「誰がクソ猫だ。……俺様はナウド。名は、ついさっきそこのチャラ男にそう名付けられた。天秤座のパートナーキャラだ」
「誰がチャラ男だ!」
「……仲悪いな」
「天秤座のパートナーはプライドの高いヤツが多いからね……ファーストコンタクトに失敗したんだろうね」
そういえば斗月のヤツ、天秤座だったっけ。
そう考えると、夏矢ちゃんはたしか射手座だが…射手座のパートナーがニワトリとは、なんかミスマッチだな? 双子座で虎を連れてる俺が言えたことではないけど。
「ワシはキーピー。夏矢を主とするパートナーじゃ」
「……キーピー、あなたそのババ臭い言葉遣い、なんとかならないの?」
「いいんじゃね? 主《あるじ》にそっくりで」
「はぁー!? それどういう意味?」
「言ったまんまだよ。その年でブランドブランド言ってるのは相当ババくせぇから」
「そっちこそ、いつまでもしま○らで私服揃えるのやめたらー?」
「し○むらを馬鹿にしたなこの野郎! 熊○村の巫女さんも認めたファストファッションブランドだぞ!!」
「お主ら仲がええのう。とっととくっついたらええのに」
「そりゃ昔くっついて別れ……」
『………………………………………………』
「……なんでもねっす」
斗月に尋常ならざる視線の圧力×2をかけて黙らせる。だがキーピーの誤解は晴れず「やっぱし仲ええのう」とかほざいて笑っていた。
くそ、無駄なトコで息合わせて来てんじゃねーよ。
……あれ?
ふと気付く。何だか二人の見た目に違和感を感じるのだが……。
「ん?何よジロジロ見て気持ち悪い。……ああコレ?銃よ」
斗月は人の顔くらいの大きさのヨーヨーを両手に、夏矢ちゃんは星の装飾がついた白い拳銃をベルトに取りつけたホルスターに、それぞれぶら下げている。
「このヨーヨー、結構威力高くてさ。なかなか使いやすい武器だぜ」
「真っ白な銃なんて、可愛いでしょ?あんたには分からない価値だろうケド」
「……おいジェイペグ、二人とも俺の木刀なんかよりめっちゃオシャレな武器なんだが、これはどういうことだ」
てっきり「君に似合うダサい武器じゃんか」とかバカにされると思ったのだが、ジェイペグは気まずそうに目を伏せている。
「……あの鍵は、脳に入る瞬間に、君たちの身体能力とかのデータをスキャンして読み取る力も持っていたんだけど……」
「ちょ……なんか嫌な予感がするからやめろ!」
「トヅキは器用で、このゲームでも不人気なヨーヨーやヌンチャクといった武器を使いこなせるトリッキーな才能の持ち主でね……」
「だからやめろって!」
「カヤも、人よりかなり目がよくて、銃とかの遠距離武器の才能は、運営の目から見ても光っていてね……」
「お願いしますやめてください! しんでしまいます!」
「でも怜斗には何にも特筆すべき特技や特に秀でた身体能力がなかったから、適当に一番人気の武器である刀剣類を与えたんだ……」
「う、うわあああああああああああああああああああああああ!」
「黙っててごめんね……」
「謝るなあああああああああああああ! 今すぐ死にたいいいいいいいいいいい!!」
完全にハートブレイクした。
こんなのあんまりだ。現実逃避の先であるべきゲームの中でまで、『お前には特技も特殊性も何もない一般人だ』なんて言われるなんて……! 畜生、いくら勉強できても身体能力が人並みじゃ意味ないってか!?
プークスクスと指を指して笑ってきやがる幼馴染み二人を横目で睨み付け、あいつらを殺して自分も死んでやろうと後ろ向きな決意を固めつつ、俺は膝から崩れ落ちた体勢を立て直した。
「……てか、ジェイペグって。なんつー名前つけてんだよ、お前」
「出来るだけ愛着が沸かなそうな名前を選びました」
「……お前、将来ぜったい孤独死するわ。なんとなくだけど」
現在高校生同士の親友から何故か老後の心配をされ、首を傾げた。
「はい、みんな注目!」
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ジェイペグの声に、事前に打ち合わせでもしていたかのように違和感なく振り向く獣二匹に、顔を見合わせる人間三人。なにが始まるんです?
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