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第六十一話 思いもよらぬ疑問

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「なぜそこまで、他人である姉さんを気にかけるんですか?」

 アレクサンドルからの問いかけは、不思議なものだった。
 これが、事の真偽を疑う発言であれば、ギクリと身を竦ませただろう。実際に作り話なのだし、どうやって信じさせようかと頭を悩ませたに違いない。

 けれどアレクサンドルが発した質問は、作り話を信じた上でのものだ。だからこそ、これ以上なにを言いつのればいいのかわからない。
 オレステスにしてみれば、「困っている様子の少女」を見つければ力になろうとするのは、ごく自然な流れだったからだ。そこに疑問の余地を挟む余地はない。

「なぜって……それは気になるでしょ。悲しげな顔した女の子なんて」
「事情を聴き、もし力になれるなら――そう考えてくださることに不自然さはないのでは?」

 戸惑いを浮かべつつも口を開くルシアに続いて、反論めいたものをする。

「姉さんは世間知らずで、この方たちにそう言いくるめられているだけでは?」

 アレクサンドルは声をひそめ、眉間にも皺を寄せる。

「普通に考えて、人が良すぎませんか?」

 胡散臭い。つけ加えた言葉は、半ば吐き捨てるようなものだった。

 なるほど、そういう解釈もあるのかと感心する。
 ルシアも言っていたが、オレステスも別に慈善事業をしているわけではない。誰彼構わず助けることもなければ、厄介事に自ら首を突っ込む趣味もない。

 か弱そうな令嬢が善人とも限らないが、この入れ替わりなどがなくとも、オレステスがオレスティアの性根を疑うことはなかっただろう。
 理由を説明するのは難しい。ただの勘のようなものだ。

 もっとも、今までの経験に培われてきたものによる。そうでなければ、冒険者など続けながら無事ではいられない。

 アレクサンドルは不信を示すように、すっと目を細めた。

「侯爵令嬢に近づけたのを好機とばかりに、なにか企んでいるのではないですか? ただ謝礼を欲しているだけなら、まだ可愛いものですが――」
「なっ!?」

 思わず声を上げる。
 もしかしたらこれが普通の反応なのか。あまりにも穿ちすぎた考えにも思えるが。
 驚きと呆れに二の句が継げないオレステスを尻目に、アレクサンドルは淡々と続ける。

「姉さんを助けて下さったことには感謝しています。もちろん、そのことに対して謝礼もお支払いします。関わりはそれで終わり、ということで構いませんか?」

 構うわ!
 計画が丸つぶれである。

「いやいやちょっと――!」
「わかりました」

 焦るオレステスを遮ったのは、オレスティアだった。行儀よく膝を合わせて座った太腿の上で両手を握り、アレクサンドルを見る。
 落ち着き払った面持ちと静かな眼光が、オレステスの顔だけれどオレステスとは違う気迫を醸し出していた。

「アレクサンドル――様、が、警戒なさるのは道理です。謝礼を支払って終わりにしたいというのも、理解できます」

 ぴくりと片眉が反応したのは驚きのためか。これほどあっさりと「ならず者」が納得するとは思っていなかったのだろう。
 だが流れとしてはアレクサンドルに有利なはずだ。冷たい眼差しのままながら、口元には小さな笑みが刻まれる。

「話が早くて助かります。では――」
「謝礼は必要ありません」

 おそらく、「いくら必要ですか」とでも言いかけたアレクサンドルを遮ることは、あくまで平静だった。

「その代わり、お願いがあります」
「願い、ですか」

 それはなにか。
 言外の問いに、オレスティアははいと頷く。

「私たちを、雇っていただきたい」
「――は?」

 静かに告げたオレスティアに、アレクサンドルは険悪な目を向けた。
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