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第四十七話 お招きするなどと友好的なものではないけれど
しおりを挟む侯爵邸にやって来たのだから、「オレステス」の中に居るのはオレスティアで間違いないはずだ。でなければここに来るはずもなく、「オレスティア」の姿を見て涙を浮かべもしないだろう。
弟とも一月以上ぶりの再会だというのに名乗れないことが、心境を複雑にさせるのか――考えて、内心で頭を振る。
そもそもオレスティアとアレクサンドルの仲はよくなかった。そのようなもどかしさを覚えるほどの愛着があるかどうかも疑わしい。
「――はい。オレステス・ラルヴァと申します」
本来のオレステスならば絶対にしないだろう丁寧な名乗りとお辞儀に、アレクサンドルは目を剥く。
そりゃあならず者然とした男が品の良い挨拶をしてきたら、当然だな。
「けど恩人って言っても、一体どういう状況で? 姉さんが一人で外に出る機会もないでしょうし」
これまた当然の反応だった。焦りも隠せず、「えぇっと」と困り顔を作って苦笑して見せる。
「それは私も曖昧で――だってほら、記憶を失ってますし」
とってつけたような弁明で、アレクサンドルはもちろん納得した様子を見せない。
胡散臭げにじっと見つめてくる視線が痛かった。
「と、とにかく、お二人と話してみたいんです。そうしたらなにかわかるかもしれないし、記憶を取り戻すためのきっかけになる可能性だってあるでしょう?」
「それは――まぁ、ありえるかもしれませんね」
苦し紛れでなんとなく言葉を並べていると、ようやくそれらしい理由が口にできた。
アレクサンドルも、胡散臭げな眼を残しながらも否定できない可能性の気づいたか、首肯する。
「じゃあ、とりあえずお二人と行ってきます」
「は?」
愛想笑いを浮かべつつ言ったオレステスに、一度はややおさまったアレクサンドルの怪訝顔が、前にも増して酷くなる。
「いや姉さん、なにを言ってるんですか。お二人を邸に入れるべきでしょう」
「え、いいんですか?」
眉根に寄せた皺をより深くさせての提案に、オレステスは驚きを隠せない。
こんな、正体も素性も知れぬならず者を侯爵邸に招き入れるなど、常識的に考えればありえなかった。
「もちろん、いいわけはありませんよ」
ふんと范を鳴らし、腕を組んだアレクサンドルは続けた。
「ですが、姉さんを外出させるわけにもいかないでしょう。ならば招き入れた方が幾分マシですし」
話をしない、という選択肢は、今の状況では考えられなかった。せっかく掴みかけた記憶を取り戻すための糸口を、手放すわけにはいかないのだから。
「部屋の表に衛士を置きますし、外からも見張らせます」
だから大丈夫でしょう。
続けて説明するアレクサンドルに、オレステス姿のオレスティアが低い声を発した。
「それは――彼女を逃がさないようにするためですか」
問いかけは、嫌味にも聞こえた。けれどアレクサンドルは、飄々と受け流す。
「姉さんを守るためですよ」
口調は淡々としたものだったが、目つきは何処か、苛立ちも見えた気もする。
「恩人と言っているのは、記憶を失っている姉さんだけだ。素性もわからない者を招き入れてやるのだから、当然の処置だと思いますが」
ならべられた理由は、至極もっともなものだった。
オレスティアはもちろん、オレステスも言える言葉はなく、口を閉ざしたまま頷いた。
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