42 / 66
第四十二話 決意(オレスティア視点)
しおりを挟むもう、ナンパの域を完全に超えていた。血の気の多いならず者にとっては、珍しくないことなのかもしれない。
ルシアを掴まえようと手が伸ばされた、その瞬間だった。
「――っ!?」
男が、声にならない悲鳴を上げる。
オレスティア自身も驚いた。気がついたときには、伸ばされた男の手を掴み、捻じり上げていたのだから。
まったくの無意識だった。自然に体が動くなどという経験は初めてで、困惑する。
――ただわかる。どうすればより、苦痛を与えられるのかを。
ぐっと力を入れて、後ろ手に捻り上げた男の手を上方へと持ち上げる。
みしりと男の肩が鳴り、痛みに顔が歪んだ。
「いてーっ! な、なんだよてめぇ、見掛け倒しじゃなかったのかよ!?」
「あ、ごめんなさい」
このまま力を加えたら、関節を外せる。なぜかそれがわかり、実行に移す一歩手前、男の叫び声で我に返った。
オレスティアが手を離すと、腕を掴まれた男だけでなく、もう一人の男も慌てた動作でまろびながら逃げていく。
その情けない後ろ姿を見送って――とたんに力が抜けて、ヘナヘナとへたりこんでしまった。
「えっ、ちょっと大丈夫!?」
突然へたりこんだオレスティアに驚いたのか、ルシアの声に珍しく焦燥感が混じっていた。
抱えていた荷物を脇へ奥と、助け起こそうとするように肩と背に手を置く。
支えてくれるルシアを見上げて、苦笑した。
「すみません。あの方たちが去ってくれて、安心したら力が抜けてしまって」
なにか重篤な症状があるわけではないとわかったからか、ルシアも安心したように息をつく。直後、オレスティアと同様の苦笑を浮かべた。
「でもびっくりした。オレステスの体が動きを覚えてたのね」
「そうみたいです。おかげで助かりました」
「そうみたいって……じゃああなた、確信もなしに飛び出してきたの?」
完全に呆れた調子のルシアに、返す言葉もなかった。ただ先ほどまでと同じく苦みのある笑みを返すしかできない。
「無謀ね。なんとかなったからよかったものを……大体、あたしひとりで対処できるんだし。無駄に危ないこと、する必要ないでしょ?」
助けよう、そう思ったことすら余計なお世話だったのだろうか。説教じみたルシアの言葉に俯きかけて――気づく。
これはルシアが、オレスティアを心配するためであって、責めるものではないということに。
「でも、見過ごせなかったのです。ルシアさんが危ないと思ったら」
ルシアが心配してくれるように、オレスティアも彼女を心配しているのだ。わかってほしくて口を開いたのだが、ルシアは軽く肩を竦める。
「ま、オレステスならきっと、そうでしょうね」
そういえば、トロルからでさえルシアを守ろうと動いたのだったか、この人は。
「はい。オレステスさんなら見て見ぬふりをするはずがない、それに――私だって、ルシアさんを守りたいと思ったんです。それで勇気を振り絞って――」
「待って」
ようやく行動を起こせた。言いかけたオレスティアを、ルシアが遮る。
「ということは、『オレステスの体』が勝手に反応して動いたとかじゃなく、あなたが、あなたの意思で、あたしを助けようとしてくれたの……?」
「はい。でも結局は、オレステスさんの身体能力に助けられたのですけど」
ルシアを守れたのは、オレステスの力ありきだった。とうていオレスティアの能力でできたとは思えない。
――けれど、それでも。
「よかったです。始めて、ルシアさんのお役に立てて」
ずっとお荷物だったオレスティア。放っておいても大丈夫だったのかもしれないが、ルシアの労力を少しだけでも減らせた。
心の底からの安堵が、笑みになる。
「――えっ、ウソでしょ……?」
へたりこんだオレスティアを見下ろしていたルシアが、呆然と呟く。頬が、かすかに赤い。
「? どうかしました?」
「な、なんでもないわ。じゃあ、部屋に荷物を置いて、ごはんにしましょ。立てる?」
「はい」
頷いて立ち上がるオレスティアに、ルシアが手を貸してくれた。
そして、負と思う。王都まで、まだ半月以上はかかる。
それまでの間、このオレステスの体に見合うよう、強くなろう。
動きはきっと、体が覚えている。それは先程の出来事が証明してくれた。
だからせめて衰えてしまわないように――オレステスに返す、その日のために。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】ゲーム転生、死んだ彼女がそこにいた〜死亡フラグから救えるのは俺しかいない〜
たけのこ
ファンタジー
恋人だったミナエが死んでしまった。葬式から部屋に戻ると、俺はすぐにシミュレーションRPG「ハッピーロード」の電源を入れた。このゲーム、なぜかヒロインのローラ姫が絶対に死ぬストーリーになっている。世界中のゲーマーがローラ姫の死なない道を見つけようとしているが、未だそれを達成したものはいない。そんなゲームに、気がつけば俺は転生していた。しかも、生まれ変わった俺の姿は、盗賊団の下っ端ゴブリンだった。俺は、ゲームの運命に抗いながら、なんとかこの世界で生き延び、死の運命にあるローラ姫を救おうとする。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜
仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。
森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。
その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。
これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語
今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ!
競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。
まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる