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第二十七話 周囲に流される人間に信は置けない
しおりを挟むやっぱり、ちゃんと食事をとるだけでもだいぶ違うな。
みるみる顔色がよくなってきた「オレスティア」の顔を見て思う。
食事の改善を要望してから、まだほんの数日。さすがに脂肪や筋肉などがつき始めるまでには至っていないが、頬に赤みがさしてきているのを見れば、経過は良好なはずだ。
ほぼ二人前のメインを食べただけで胸やけを起こしてしまったときはどうしようかとも思ったが、意外にも早く、オレスティアの体は馴染んでくれた。
というよりは、極端に量を抑えられていたせいで栄養不足に陥っていたのだろう。常に緩い飢餓状態であった体に、生存本能が蘇ってきたのかもしれない。
二日も経った頃には胃もたれを起こすことはなくなり、文字通りペロリと平らげられるようになった。
もっとも、それでも「オレステス」本人にしては少ない量ではあったが、オレスティアの体を考えればこれくらいが限度だろう。
午前中は朝食のあとに軽く筋力トレーニング、昼食後により本格的に筋肉を鍛え、木刀や素手での型といった鍛練に励む。
そのあと沐浴で体を綺麗にしてもらって調べものをする、という日課に落ち着いた。
それにしても、貴族の邸ってのは凄いんだな。こんな立派な、書庫? 書斎? があるなんて。
四方の壁は上から下まで棚になっていて、びっしりと本が詰まっている。
もちろんそれだけではなく、部屋の中央には机があって、それ以外には書棚が幾重にも並んでいた。
まるで図書館だな。
ぐるりと周囲を見渡す。
オレステスの育った街にあった図書館よりも立派で、さらには蔵書の量も多そうなこれが個人の所有なのだから凄い。
無造作に棚から本をとりだして、ペラペラとめくった。こんなときは、平民とはいえ一応の読み書きはできるように学んでいてよかったと思う。
ただしそれは、「読める」「書ける」だけであって、内容をすべて理解できることと等しくはない。
バカではないと自負しているが、頭脳明晰とも言いがたいのは事実だった。
まして、まるで素養がないとわかっていたから、魔法に関しては門外漢もいいところである。
現に今、適当に手に取った本の文字列を目で追いながら、脳は理解することを放棄してしまっていた。
そもそも、この膨大な数の本の中から、目当ての物を探し出せるのか?
まして、なにを探せばいいのかも、実はよくわかっていない。
本のタイトルに「入れ替わった魂を元に戻す方法」なんていう、ズバリのことを書いているものがあればありがたいのに。
無論、そんな都合のいい展開はあり得ない。地道に探すしかねぇなと、近くの棚からランダムに数冊の本をとり出しては抱え込んでいった。
それらしいものはないかと見出しをめくりながら、流し読む。
これも違う。たぶんこれじゃない。これはよくわからない。これに至っては全然理解できない――ただただ紙をめくり、手に取る数、そして乱雑に積み上げられていく本が増えていく。
無駄な作業のような気がしないでもないが、少しでも手がかりを掴むためにはやめられない。
――一層のこと、アレクサンドルを頼ってみるか……?
ふと、思いつく。
オレステスが目覚めてすぐのときには、冷淡な印象だった。
だがここ数日を過ごしてみて、悪いヤツではない、むしろ単純で面倒見のいい一面が見受けられる。
もっとも、単純だからこそ両親の態度につられ、さらには姉が大人しいことにつけこんで冷たく当たっていたことは擁護に値しない。
今だとて、オレステスの強気に引っ張られているに過ぎなかった。もしオレスティアと入れ替わり、元に戻ったとしたら、また大人しい彼女を侮り始める可能性は高かった。
周囲に流される人間に、信は置けない。自己のない人間は、ある意味芯のある悪党よりも性質が悪く、危険でもあった。
それだけに、うまく使えれば便利ではあるのだが。
「――あぁあ、でもなぁ……」
おれはお前の姉さんじゃありません、中身はむさい男だから元に戻れるように協力してくれ、なんて言って、素直に力を貸してくれるとは思えない。
正直に状態を話しても信じてもらえるはずもなく、ただ気が変になったと思われるだけだ。記憶喪失以上に、現実的にはあり得ないのだから。
あぁあぁあ、と頭を抱えて机に突っ伏したとき、オレステスの耳は、キィという音を捉えた。
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