8 / 66
第八話 芝居の始まり
しおりを挟む「――で、姉さんの容体は?」
誰かが訊ねている声が聞こえた。
うとうととした軽い眠りから、ふと覚醒する。
どれくらい時間が経ったのかははっきりとしない。眠りすぎたことによる怠さなどもないから一刻ほどだろうか。
思っていたよりは放置されなかったというべきか、充分に放っておかれたと思うべきか。
もっとも、ドレスを新調するために出かける予定だったはずだ。いい所のお嬢様が一人で出かけるはずもなく、身支度はもう終えていたことを考えれば、もしかしたら馬車などの用意もされていたかもしれない。
たとえば意識が戻ったとしても、さすがに倒れて気を失っていた娘を連れ出すことはないだろう。予定の変更などでバタバタしていれば、あえて知らせなかったとしても周知するのは当然だった。
姉さん、とか言ってるってことは、弟か?
「それが、とくに悪い所は見受けられず……」
答えるのは、医者の声。そりゃそうだ、どこも悪い所はない。完全な仮病なんだからなと思うのと同時、でもお前はもう少しまともに診察しろや、とも思う。
それにしても、倒れた家族を心配して駆けつけたのが弟だけとは。
「――ん……う、うぅん……」
とりあえず弟とはいえ、声を聞けば幼子ではないことはわかる。せっかくやって来た身内なら、話を聞くしかない。
小さく唸り声を上げながら、身動ぎする。
「目が覚めたのか」
オレステスの様子に気づいたのだろう。声と共に足音が近づいてくる。
ベッドを覗きこんでくる気配を感じて、オレステスもゆっくりと目を開けた。
これは――たしかにこの女の弟だな。
目を開けてすぐに見えた男の顔を見て思う。
鏡に映っていた「自分」の顔によく似た、美少年。
真ん中にベースとなる顔を置き、それぞれに男性らしさ、女性らしさを加えた顔立ちが、弟とオレスティアのそれだった。
ただし、髪と瞳の色が違う。
オレスティアは鮮やかな緑だったが、弟は金髪金目だった。
そのせいでパッと見の印象がかなり違い、似ているようには見えないかもしれないが。
「とりあえず、今日の外出はなくなったよ」
だろうな。一方的に告げられた内容に、胸の内で頷く。
「けど、もし仮病だとしても無駄だからね。いくら婚約者と会うのが嫌でも、いつまでも先延ばしにできるものじゃない」
オレステスは、眉をひそめる。
心配して駆けつけたのが弟だけ、と思ったのは、早合点だったようだ。弟の顔にはありありと、「面倒かけやがって」との表情が浮かんでいる。
ふと、オレスティアが不憫になった。
婚約者と会うのが嫌でも、などと言われているところを見ても、オレスティアの望まぬ結婚であることが窺い知れる。
「――婚約者?」
いや、同情している場合ではない。せっかくいい流れを出してくれたのだ。乗っかる以外、道はなかった。
「ごめんなさい。なんのことだかわからなくて」
「は? なにを言っているんだ――」
「本当に、ごめんなさい。――あなた、どなた?」
精一杯の女らしさを演じながら、問いかける。
「覚えていないの。なにも――私自身のことも」
眉を歪めて見上げる視線の先で、弟が唖然と口と目を開いているのが見えた。
1
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン
かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった
と‥‥転生となった
剣と魔法が織りなす世界へ
チートも特典も何もないまま
ただ前世の記憶だけを頼りに
俺は精一杯やってみる
毎日更新中!

駄々甘ママは、魔マ王さま。
清水裕
ファンタジー
ある日、人里離れた森の奥で義理の母親と共に暮らす少年ヨシュアは夢の中で神さまの声を聞いた。
その内容とは、勇者として目覚めて魔王を退治しに行って欲しいと言うものであった。
……が、魔王も勇者も御伽噺の存在となっている世界。更には森の中と言う限られた環境で育っていたヨシュアにはまったくそのことは理解出来なかった。
けれど勇者として目覚めたヨシュアをモンスターは……いや、魔王軍は放っておくわけが無く、彼の家へと魔王軍の幹部が送られた。
その結果、彼は最愛の母親を目の前で失った。
そしてヨシュアは、魔王軍と戦う決意をして生まれ育った森を出ていった。
……これは勇者であるヨシュアが魔王を倒す物語である。
…………わけは無く、母親が実は魔王様で更には息子であるヨシュアに駄々甘のために、彼の活躍を監視し続ける物語である。
※基本的に2000文字前後の短い物語を数話ほど予定しております。
※視点もちょくちょく変わります。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
鍛冶師ですが何か!
泣き虫黒鬼
ファンタジー
刀鍛冶を目指してた俺が、刀鍛冶になるって日に事故って死亡…仕方なく冥府に赴くと閻魔様と龍神様が出迎えて・・・。
えっ?! 俺間違って死んだの! なんだよそれ・・・。
仕方なく勧められるままに転生した先は魔法使いの人間とその他の種族達が生活している世界で、刀鍛冶をしたい俺はいったいどうすりゃいいのよ?
人間は皆魔法使いで武器を必要としない、そんな世界で鍛冶仕事をしながら獣人やら竜人やらエルフやら色んな人種と交流し、冒険し、戦闘しそんな気ままな話しです。
作者の手癖が悪いのか、誤字脱字が多く申し訳なく思っております。
誤字脱字報告に感謝しつつ、真摯に対応させていただいています。
読者の方からの感想は全て感謝しつつ見させていただき、修正も行っていますが申し訳ありません、一つ一つの感想に返信出来ません。
どうかご了承下さい。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
最強魔術師、ルカの誤算~追放された元パーティーで全く合わなかった剣士職、別人と組んだら最強コンビな件~
蒼乃ロゼ
ファンタジー
魔法学校を主席で卒業したルカ。高名な魔術師である師の勧めもあり、のんびり冒険者をしながら魔法の研究を行おうとしていた。
自身の容姿も相まって、人付き合いは苦手。
魔術師ながらソロで旅するが、依頼の都合で組んだパーティーのリーダーが最悪だった。
段取りも悪く、的確な指示も出せないうえに傲慢。
難癖をつけられ追放されたはいいが、リーダーが剣士職であったため、二度と剣士とは組むまいと思うルカ。
そんな願いも空しく、偶然謎のチャラい赤髪の剣士と組むことになった。
一人でもやれるってところを見せれば、勝手に離れていくだろう。
そう思っていたが────。
「あれー、俺たち最強コンビじゃね?」
「うるさい黙れ」
「またまたぁ、照れなくて良いから、ルカちゃん♪」
「(こんなふざけた奴と、有り得ない程息が合うなんて、絶対認めない!!!!)」
違った境遇で孤独を感じていた二人の偶然の出会い。
魔法においては最強なのに、何故か自分と思っている通りに事が進まないルカの様々な(嬉しい)誤算を経て友情を育む。
そんなお話。
====
※BLではないですが、メンズ多めの異世界友情冒険譚です。
※表紙はでん様に素敵なルカ&ヴァルハイトを描いて頂きました。
※小説家になろうでも公開中
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる