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第五話 婚約者とは
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どうやら、オレスティアには婚約者がいるらしい。
オレスティアは女だ。と、いうことは――
「えぇっと、婚約者の方は男性、で、間違いない……?」
口元を引きつらせた問いかけに、侍女からは今までよりもさらに冷たい眼差しが返ってきた。
なに当然のこと言ってんだ、こいつは。心の声が駄々洩れている。
事情を知らなければ、オレステスとて同じ反応だっただろう。「ですよね」と乾いた笑いを貼りつけながら、必死で頭を巡らせる。
婚約者に会うためのドレスを作ると言うなら、今すぐの結婚ということはなさそうだ。
むしろ新調するのなら、初顔合わせもまだなのではないか。
ということは、初めて会った場で傍若無人に振る舞い、相手から断ってもらう手もある。
――いや、そうもいかないか。まだ会っていない状況にもかかわらず、婚約者候補ではなく婚約者と呼ばれていた。本人同士の意思など関係ない、政略結婚なのだろう。
ならば回避は不可。オレスティアは身も知らぬその男に嫁ぐことになる。
冗談じゃねぇ。
咄嗟に胸の内で毒づく。
これだから貴族だのの上流階級の繋がりは嫌なんだ。女を政治の道具みたいに扱いやがって。
義憤めいた感情は嘘ではない。だがそれ以上に、「男に嫁ぐ自分」を想像するだけで怖気が走る。
夫婦となれば当然、同衾もするだろう。男に組み敷かれるなんて、どう考えても耐えられない。
逃げ出すなら結婚より前にしなければ。
だが、おそらく切羽詰まってはいないはずだ。顔合わせ前というなら、長ければ数カ月から年単位、短くても一カ月くらいは猶予があるだろう。
ならばまずは、情報を収集することが肝要だった。
この侍女に根掘り葉掘り聞いても、大した情報は引き出せないだろう。オレスティアへの冷たい態度もさることながら、下働きの者がお家事情まで把握しているとも思えない。
ならば家族から話を聞くのが妥当だけれど、オレスティアが知っているはずのことを逐一訊ねては変に思われる。
かといって異変に勘付かれないように探るには時間がかかるし、そもそもオレステスが貴族令嬢を装って周囲を騙し通す自信もない。
――一芝居、打つか。
「とりあえず、出かけるのよね。支度、ありがとう。では、行きましょうか」
できる限りの女言葉を使って言ってみる。胡散臭げな眼で侍女が見ているから、「オレスティア」の口調とは違うのだろう。
とはいえ、知らないものを似せることはできないのだから仕方ない。
そして今からとる策こそ、それらすべてを打開させる方法だった。
振り向いてにこっと笑いかけ、おもむろに立ち上がる。
「――あぁっ!」
立ち上がった瞬間、大げさによろけて見せた。
結果、ばったーんと勢い良く、盛大に倒れる。
咄嗟に受け身をとろうとする本能を押さえるのが、思っていたよりも大変だった。
そして、痛い。
これほど無防備に倒れたのは、生まれて初めてだった。
オレスティアは女だ。と、いうことは――
「えぇっと、婚約者の方は男性、で、間違いない……?」
口元を引きつらせた問いかけに、侍女からは今までよりもさらに冷たい眼差しが返ってきた。
なに当然のこと言ってんだ、こいつは。心の声が駄々洩れている。
事情を知らなければ、オレステスとて同じ反応だっただろう。「ですよね」と乾いた笑いを貼りつけながら、必死で頭を巡らせる。
婚約者に会うためのドレスを作ると言うなら、今すぐの結婚ということはなさそうだ。
むしろ新調するのなら、初顔合わせもまだなのではないか。
ということは、初めて会った場で傍若無人に振る舞い、相手から断ってもらう手もある。
――いや、そうもいかないか。まだ会っていない状況にもかかわらず、婚約者候補ではなく婚約者と呼ばれていた。本人同士の意思など関係ない、政略結婚なのだろう。
ならば回避は不可。オレスティアは身も知らぬその男に嫁ぐことになる。
冗談じゃねぇ。
咄嗟に胸の内で毒づく。
これだから貴族だのの上流階級の繋がりは嫌なんだ。女を政治の道具みたいに扱いやがって。
義憤めいた感情は嘘ではない。だがそれ以上に、「男に嫁ぐ自分」を想像するだけで怖気が走る。
夫婦となれば当然、同衾もするだろう。男に組み敷かれるなんて、どう考えても耐えられない。
逃げ出すなら結婚より前にしなければ。
だが、おそらく切羽詰まってはいないはずだ。顔合わせ前というなら、長ければ数カ月から年単位、短くても一カ月くらいは猶予があるだろう。
ならばまずは、情報を収集することが肝要だった。
この侍女に根掘り葉掘り聞いても、大した情報は引き出せないだろう。オレスティアへの冷たい態度もさることながら、下働きの者がお家事情まで把握しているとも思えない。
ならば家族から話を聞くのが妥当だけれど、オレスティアが知っているはずのことを逐一訊ねては変に思われる。
かといって異変に勘付かれないように探るには時間がかかるし、そもそもオレステスが貴族令嬢を装って周囲を騙し通す自信もない。
――一芝居、打つか。
「とりあえず、出かけるのよね。支度、ありがとう。では、行きましょうか」
できる限りの女言葉を使って言ってみる。胡散臭げな眼で侍女が見ているから、「オレスティア」の口調とは違うのだろう。
とはいえ、知らないものを似せることはできないのだから仕方ない。
そして今からとる策こそ、それらすべてを打開させる方法だった。
振り向いてにこっと笑いかけ、おもむろに立ち上がる。
「――あぁっ!」
立ち上がった瞬間、大げさによろけて見せた。
結果、ばったーんと勢い良く、盛大に倒れる。
咄嗟に受け身をとろうとする本能を押さえるのが、思っていたよりも大変だった。
そして、痛い。
これほど無防備に倒れたのは、生まれて初めてだった。
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