破壊神の終末救世記

シマフジ英

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43 反攻作戦

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 元破壊神討伐チームの飛空艇は、マーリの街の近くに着陸した。マーリの街には飛空艇の発着場が無かったためだ。

 ルーツとサナの活動拠点でもあったので、ネロとシンディと共に、冒険者ギルドと連携してチームを受け入れてもらった。

 帝国の首都から広がっている魔力結界の影響で、人々がどんどん逃げ出しているという情報が、マーリの街にも届いていた。マーリの街は帝国からかなり離れた位置にあるので、まだ難民の流入は起こっていないが、最終的にはこの街にも押し寄せるのは明白だ。

 冒険者ギルドは本業を休止し、世界を襲っている危機の対応に注力することになった。ここを活動拠点にしている冒険者たちにも、創造神サカズエや破壊神トコヨニ、そして今回の事件の元凶である魔道士オーデルグのことが説明された。

「反帝国同盟は崩壊している。帝国への一斉蜂起も、戦場が帝国に近かったから、もう魔力結界の中だ」
「帝国の近くの国は全滅よ。逃げ出せた人たちもいるようだけど、足が無ければいずれ魔力結界に追いつかれてしまうでしょう」
 ルーツたちと同じように、帝国の近くからマーリまでやって来た冒険者が情報を提供する。

「結局、オーデルグを倒して、あの魔力結界をぶっ潰さないと、世界が滅ぶってことか」
 ブルーニーが言った。

「あの魔力結界に突入できる人材は限られている。飛空艇で上空には近づけるだろうが、それ以降は少人数部隊で帝国に降りる必要があるな」
 その条件を満たす実績があるのはルーツ、サナ、ネロ、シンディの4人しかいなかった。

「ルーツとサナは魔力で防御してるんだろ? 魔道士なら行けるんじゃないのか?」
「無茶言うな! その二人は超ハイレベルな魔道士だぞ!」
 冒険者たちが言った。

「でも、ネロとシンディはどうして大丈夫なんだ?」
「俺たちはこの装備のおかげだよ」
「西の迷宮ダンジョン第2層の魔物に貰ったのよ」
「ああ、噂のあれか。よく認められたな、お前ら、すげーよ」
「でもだったら、皆次々と挑戦して、装備を貰えば良いんじゃないか?」
「それだけの実力を持った者ならな。ちなみに、一度試練をクリアした者が手伝うことはできない。そうするとあの魔物、第二段階として、もっと実力を出してきちゃうんだよ」
「そ、そうだったのか……」
 冒険者の説明に、ルーツは驚きの声を上げた。

「でも、腕に覚えのある冒険者は挑戦すべきだな。それで装備を手に入れることができた奴は、帝国潜入チーム入りだ」
「ええ、それで良いと思うわ」
「俺もやるぜ」
 ブルーニーが名乗り出た。ジャックやリリィも時間のある限り挑戦すると言い始めた。西のダンジョンの近くにキャンプ地を作り、挑戦する者は泊まり込むことになった。

 また、その魔物から貰える武具だけでなく、魔力結界に通用しそうな退魔の武具をかき集めるチームも結成された。彼らはしばらくの間、色んな街に出向いて調査をすることになる。

 そんな中、元破壊神討伐チームが集まっていた。

「今から確認しておくぞ。敵はオーデルグ、すなわちルーツだ。皆、覚悟は出来ているか?」
 ブルーニーがメンバーの皆に言った。ポジティブな反応は無い。未だオーデルグの行動のショックを引きずっているようだった。

「おい、いいか皆! あいつは確かに辛い過去を抱えていた! だけどな皆、ここは怒るところだ! あいつは俺たちに一切相談も救いも求めなかった! 俺はあいつをぶっ倒してぶん殴って叱りつけたい! もっと人を頼りやがれってな! 皆はどうなんだ!?」
 ブルーニーが凄い剣幕で叫んだ。冒険者ギルド全体が静まり返る。

 あっけに取られていた様子のメンバーたちだったが、徐々にブルーニーの言葉に賛同し始めた。

「ああ、そうだな、そうだよ!」
「私たちにいい顔して裏切ったこと、私も殴ってやりたい!」
「やろう!」
 冒険者ギルド全体に彼らの声が響き渡る。

「やるなぁ、ブルーニー」
「ホント。一気に空気を変えた」
 ルーツとサナが呟いた。

 ルーツは、飛空艇でブルーニーと話した時のことを思い出した。ブルーニーによると、元破壊神討伐チームのメンバーには、大なり小なりオーデルグと似た境遇の者もいる。オーデルグが彼らと言葉を交わさず見限ったことにも、ブルーニーは腹を立てていた。オーデルグを殴りたいというはっきりとした目標が出来て、ブルーニーは吹っ切れたようだった。

 喧騒が収まった後、サナ王女とバスティアンがブルーニーの前に立った。そして、元破壊神討伐チームのリーダーは、ブルーニーに変わることになった。

「俺たちも頑張らないとな」
「そうね」
 ルーツとサナが順に言った。ネロとシンディがそれに反応する。

「あん? お前らはこれからどうするんだ?」
「何かやることがあるの?」
 ルーツはネロとシンディに考えを説明した。創造神サカズエが失われたのなら、もうサナ王女が召喚獣タイタニアを味方にすることはできない。別の対抗手段が必要なのだ。それを相談するアテは、一人しかいないということだ。

 ルーツたちは、サナの召喚したルーンドラゴンに乗って、マーリ西のダンジョンに向かい、カタツムリの魔物の元を訪れた。

「というわけだ。伝説の召喚獣タイタニアに匹敵する力を探しているんだ。何か心当たりはないかな?」
 喋れなくても言葉を理解している様子の魔物に、ルーツは事情を説明する。

 カタツムリの魔物は触手で腕組をして何かを考えた後、別の触手をクイクイとした。

「お、おいおい! まさかまた挑戦しろってのか!?」
「ままま、待って! 私たち、一度試練をクリアしてるから、この魔物、さらに強くなるってことでしょ!?」
「いや、でもやるしかないよ!」
「そうね! 何かアテがあるみたいだから、何とか勝とう!」
 ネロとシンディは怯え、ルーツとサナは気合を入れる。

 しかし、4人がかりで挑んだその挑戦は、30秒持たず、ルーツたちの敗北に終わった。

「う、嘘だろ……?」
「つ、強すぎる……」
 壁で逆さまになっているルーツと、地べたでうつ伏せになっているサナが言った。ネロとシンディものびている。魔物は、勝ち誇るように触手でシャドーボクシングをしていた。

「く、くそ、でも時間が無いんだ! 倒れている場合じゃない!」
 ルーツの気合に魔物は何かを考える様子を見せた。すると、触手を4本全員に向け、魔法を放った。ルーツは、自分の傷が回復するのを感じた。

「こ、これは、回復魔法!?」
「さっさと第2ラウンドかかって来いってことね!」
「だああ、もうこうなったらとことんまで付き合うぜ!」
「ええ、やりましょう!」
 その後、何度も挑戦をし、敗北と回復を繰り返すことになったが、勝ち筋は見えなかった。ある時点で、魔物は触手をバッテンの形にした。今日はもうやめろということだった。

 ルーツたちは疲弊した顔でその場を後にした。カタツムリの魔物に挑戦しようとやって来た冒険者やブルーニーたちとすれ違ったが、何も言わずにダンジョンを出た。

 マーリの街に戻り、翌日の挑戦の作戦をまとめる。その後、ルーツとサナは一度村に戻ることにした。転移魔法陣のある家から村に戻り、村人に状況報告をした。

「お疲れ様、ルーツ、サナ」
 村長がルーツたちを労いに来た。

「この村の倉庫からかき集めてきた武具だ。その魔力結界とやらにも効果を発揮するだろう。持っていけ」
 そこには剣、槍、杖があった。これで突入メンバーを3人増やせることになる。

「ありがとう、村長!」
「さすがね!」
 ルーツとサナが村長と握手する。

「だが、悪いニュースもあるんだ。この村に残っている長老の魔力が減ってきている。もう転移魔法陣は何度も使わない方が良いだろう」
「……そっか」
「やっぱり……」
 全てが終わるまで、転移魔法陣は封印されることになった。ルーツとサナはしばらく村に帰れなくなる。

 ルーツもサナも、この日は村で家族と共に過ごした。特別なことは無い。ただ、村にいた時と同じように過ごした。そうすることが一番だろうと二人は思っていた。

 家族水入らずの夜を過ごし、一夜明けると、ルーツとサナは村人たちに送り出されて、マーリの街に移動した。
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