28 / 53
28 王との戦い(ルーツ視点)
しおりを挟む
俺は包帯で固定された左手で破壊神討伐チームが集まっている宿の一室に向かった。チームメンバーは悲鳴を上げていた。
「おいおい、ルーツその腕……!?」
「優勝したって言っても、大丈夫なの、それ!」
「バスティアンの野郎、バカじゃないのか!」
「いや、皆。戦いを望んだのは俺の方だ。この件でバスティアンは責めないでくれ」
俺がバスティアンを擁護するとは。我ながら苦笑する。
「でも、それで明日は大丈夫なの?」
「ああ。策はある」
俺はそれだけ皆に伝えると、自分の部屋に戻るために廊下に出た。
「ルーツ」
すると、ブルーニーが話しかけてきた。
「ブルーニー、どうした?」
「お前、大丈夫か?」
「え? いや、怪我は心配ないさ」
「いや、そうじゃない。お前、大会から帰ってきてから、思いつめた顔してんぞ」
「!?」
ブルーニーは本当に人のことをよく見ている。明日に向けて、俺が色んなことを心に巡らせているのを見破られていたようだった。
「……大丈夫だ」
「ホントだな? 信用するぞ?」
「……ああ」
俺は返答するのに少し時間がかかった。しかし、ブルーニーはそれ以上追求せず、歩き去っていった。
「ブルーニーが、一番鋭かったな」
俺は小声で呟いた。
◇
翌日。
昼からの王との戦いに備え、俺は準備を整える。他の皆は、オーデルグ一味の警戒に出ていた。
そして、時間となり、俺は何人かの付き添いメンバーと共にコロシアムに向かった。
「ここまででいいよ。今日は関係者も入れないらしいから」
「そっか。頼んだぜ、ルーツ」
「しっかりね」
俺は皆と別れ、コロシアムに入っていった。
「ごめんな皆。本当にごめん」
サナ王女やバスティアンはともかく、他の皆は優しい奴ばかりだった。さすが、正義感のある者で選別されたチームだ。ほんの少しの時間を共にしただけだったが、俺は謝罪の言葉を呟かざるを得なかった。
でも、俺は皆とは違う。帝国士官アカデミーで同じクラスになったのは、反帝国同盟の活動として潜り込んだというだけだ。帝国上層部が選別したのではない。だから、皆は俺の出自を疑わなければならなかった。
◇
時間となり、俺は武舞台で王と対峙する。王は銀色の甲冑に、人の手で持てるとは思えない大きさの大剣を持っていた。
「よく来た優勝者ルーツ。存じていると思うが、私に勝てば、そなたに大いなる力が授けられる」
「ええ、知っています」
「しかし、それは人の手に余る物なのだ。私は王として、それを渡すわけにはいかぬ。そうすることがこの国の王の定め。左腕を怪我しているようなのにすまぬが、全力で行かせてもらおう」
王が剣を構える。
「見れば分かりますとも。その大剣を振るうために身に付けた筋力に、身体を巡る圧倒的な魔力。余程の修練を積まれたようですね」
「称賛は無意味。さあ、かかってくるがいい、ルーツよ!」
いや、称賛するさ。その強さを身に付けてきたのはあなた一人ではない。歴代の王全てがそうしてきたはずなのだから。
「王よ、一つ訂正させてもらう」
「何かね」
「ルーツの名は捨てた。今は、別の名を名乗っている」
そう、それは3年前に捨てた名前だ。今の俺の本当の名前は……。
「我が名は魔道士オーデルグ。王よ、いざ参る!」
「おいおい、ルーツその腕……!?」
「優勝したって言っても、大丈夫なの、それ!」
「バスティアンの野郎、バカじゃないのか!」
「いや、皆。戦いを望んだのは俺の方だ。この件でバスティアンは責めないでくれ」
俺がバスティアンを擁護するとは。我ながら苦笑する。
「でも、それで明日は大丈夫なの?」
「ああ。策はある」
俺はそれだけ皆に伝えると、自分の部屋に戻るために廊下に出た。
「ルーツ」
すると、ブルーニーが話しかけてきた。
「ブルーニー、どうした?」
「お前、大丈夫か?」
「え? いや、怪我は心配ないさ」
「いや、そうじゃない。お前、大会から帰ってきてから、思いつめた顔してんぞ」
「!?」
ブルーニーは本当に人のことをよく見ている。明日に向けて、俺が色んなことを心に巡らせているのを見破られていたようだった。
「……大丈夫だ」
「ホントだな? 信用するぞ?」
「……ああ」
俺は返答するのに少し時間がかかった。しかし、ブルーニーはそれ以上追求せず、歩き去っていった。
「ブルーニーが、一番鋭かったな」
俺は小声で呟いた。
◇
翌日。
昼からの王との戦いに備え、俺は準備を整える。他の皆は、オーデルグ一味の警戒に出ていた。
そして、時間となり、俺は何人かの付き添いメンバーと共にコロシアムに向かった。
「ここまででいいよ。今日は関係者も入れないらしいから」
「そっか。頼んだぜ、ルーツ」
「しっかりね」
俺は皆と別れ、コロシアムに入っていった。
「ごめんな皆。本当にごめん」
サナ王女やバスティアンはともかく、他の皆は優しい奴ばかりだった。さすが、正義感のある者で選別されたチームだ。ほんの少しの時間を共にしただけだったが、俺は謝罪の言葉を呟かざるを得なかった。
でも、俺は皆とは違う。帝国士官アカデミーで同じクラスになったのは、反帝国同盟の活動として潜り込んだというだけだ。帝国上層部が選別したのではない。だから、皆は俺の出自を疑わなければならなかった。
◇
時間となり、俺は武舞台で王と対峙する。王は銀色の甲冑に、人の手で持てるとは思えない大きさの大剣を持っていた。
「よく来た優勝者ルーツ。存じていると思うが、私に勝てば、そなたに大いなる力が授けられる」
「ええ、知っています」
「しかし、それは人の手に余る物なのだ。私は王として、それを渡すわけにはいかぬ。そうすることがこの国の王の定め。左腕を怪我しているようなのにすまぬが、全力で行かせてもらおう」
王が剣を構える。
「見れば分かりますとも。その大剣を振るうために身に付けた筋力に、身体を巡る圧倒的な魔力。余程の修練を積まれたようですね」
「称賛は無意味。さあ、かかってくるがいい、ルーツよ!」
いや、称賛するさ。その強さを身に付けてきたのはあなた一人ではない。歴代の王全てがそうしてきたはずなのだから。
「王よ、一つ訂正させてもらう」
「何かね」
「ルーツの名は捨てた。今は、別の名を名乗っている」
そう、それは3年前に捨てた名前だ。今の俺の本当の名前は……。
「我が名は魔道士オーデルグ。王よ、いざ参る!」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる