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ろくでなしαの逃亡劇
松崎健之助(α) グルメ回
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「お前ら~、残念そうな顔するなよ~。もう飯は無いけどよ、デザートは用意してるからな。」
パンチパーマにそう言われ、健之助とホラ吹きはギョッとなる。
嫌な予感しかしない。デザート…絶対にろくでもない物を食わされるのだ。
いつの間にか部屋を出ていた手下が皿に何か黒い物を乗せてやって来た。
その黒い物は遠くから見ると、12センチ直径の丸いケーキの様だ。しかしよく見ると、ケーキの表面が蠢いている。
そっとテーブルに置かれたデザートを見て、再び吐き気を催した。
ケーキの様に見えたそれは、ゴキブリが大量に集まったものだった。ケーキ型に、何かによってびっしりと貼り付いたゴキブリたちは未だ生きていて、自由になる触覚や手足をしゃかしゃかと動かしている。
「ガトーコックローチ…作るの苦労したぜ。ゴキブリホイホイを改造してケーキ型にする。そして捕獲したゴキブリをそこへ貼り付けていくんだ。」
パンチパーマが得意げに料理名とレシピを述べた。
「あんた…俺たちがここへ来る事を知っていたのか?」
健之助が恐る恐る尋ねると、パンチパーマは「何で?」という顔をした。
「だって、今日この日のためにわざわざそれを用意してたんだろう?」
「んなわけねーだろ、たまたまだ。別に食わせる相手はお前じゃなくたって良い。」
つまり普段からこういうものを趣味で作っている、という事か。やはり常軌を逸している。
「ちょっと小さめのケーキだからな~、お前らで全部食っていいぞ~」
そう言いながらパンチパーマはガトーコックローチに包丁を入れていった。刃が一部のゴキブリに差し込まれて身が割れ、オレンジ色の液体が流れだす。
1人分のケーキの様に、綺麗に切り分けられたそれを皿に乗せパンチパーマはホラ吹きの方へ持って行った。切り分けられたガトーコックローチは中が空洞で、上部と側面にゴキブリがびっしり詰まっている。包丁に切断されたゴキブリから流れるオレンジ色の体液が皿やケーキの側面に垂れていた。
悲痛な悲鳴をあげ、顔を引き攣らせるホラ吹きの口をヤクザ2人が無理やりこじ開け、パンチパーマがガトーコックローチを手掴みで押し込んだ。
「ぶぐあああああああ」と呻きながら、口からオレンジ色の液体を垂らすホラ吹きを見て、3人のヤクザは楽しそうにゲラゲラ笑っている。
次は自分の番、そう思うと健之助は吐き気よりも恐怖の方が勝った。
じっと俯いて時が止まる事を願っていると、背後からいきなり顎を掴まれ、健之助は自分の番が来た事を悟った。
「さ~あ、たんとおあがり」
そう言いながら、暗い笑っていない目のパンチパーマが口元をニヤけさせながら、ガトーコックローチを健之助の顔面に近付ける。蠢くゴキブリたちの触覚や手足、切断されオレンジ色の何かを垂れ流す様がどんどんはっきりと視界に映るようになる。
とうとう口に押し込まれたガトーコックローチ、歯にゴキブリのやや硬い表皮が当たる感触と、生暖かい液体が流れだすのが分かる。生命力の強いゴキブリたちはしぶとく生きていて、健之助の口の中で触覚や手足をもぞもぞ動かしている。
寒さによるものではない鳥肌が全身を覆い、吐き気がマックスになった。
「ひゃひゃひゃほへふ…」
「あ?何だって?何言ってんだ、こいつ。」
パンチパーマは健之助の発言に興味を持ち、顎を掴む手下共を制した。
首から上が自由になった健之助はガトーコックローチを急いで吐き出したが、口の中に張り付いているゴキブリの触覚や手足などはなかなか取れない。足元にはオレンジ色の何かに塗れ、それでも強く生き延びるゴキブリたちが蠢いておりぞっとした。
「中里です!中里啓二が…俺らにここへ行くよう命令したんです!」
中里の名を出したところで、彼らが健之助らを見逃すとは思えない。それでも、何でも良い、とにかくこの今の流れを変えたかった。
そして、中里の名を聞いた3人のヤクザは途端に凍り付いた。
「中里って…」
「…あの野郎…!!どこまで俺らをコケにするつもりだ!」
手下共が不安げに顔を見合わせ、パンチパーマが怒り心頭の面持ちで地面を睨みつける。
パンチパーマの視線が、地面から健之助たちへ向かいそして目の笑っていないペニーワイズのような笑顔になった。
「お前ら、命拾いしたぞ。」
そう言われ、健之助は安堵した。確実にろくでもない事をやらされると分かっていても、それでもとりあえずこの急場はしのげたという事に。
パンチパーマにそう言われ、健之助とホラ吹きはギョッとなる。
嫌な予感しかしない。デザート…絶対にろくでもない物を食わされるのだ。
いつの間にか部屋を出ていた手下が皿に何か黒い物を乗せてやって来た。
その黒い物は遠くから見ると、12センチ直径の丸いケーキの様だ。しかしよく見ると、ケーキの表面が蠢いている。
そっとテーブルに置かれたデザートを見て、再び吐き気を催した。
ケーキの様に見えたそれは、ゴキブリが大量に集まったものだった。ケーキ型に、何かによってびっしりと貼り付いたゴキブリたちは未だ生きていて、自由になる触覚や手足をしゃかしゃかと動かしている。
「ガトーコックローチ…作るの苦労したぜ。ゴキブリホイホイを改造してケーキ型にする。そして捕獲したゴキブリをそこへ貼り付けていくんだ。」
パンチパーマが得意げに料理名とレシピを述べた。
「あんた…俺たちがここへ来る事を知っていたのか?」
健之助が恐る恐る尋ねると、パンチパーマは「何で?」という顔をした。
「だって、今日この日のためにわざわざそれを用意してたんだろう?」
「んなわけねーだろ、たまたまだ。別に食わせる相手はお前じゃなくたって良い。」
つまり普段からこういうものを趣味で作っている、という事か。やはり常軌を逸している。
「ちょっと小さめのケーキだからな~、お前らで全部食っていいぞ~」
そう言いながらパンチパーマはガトーコックローチに包丁を入れていった。刃が一部のゴキブリに差し込まれて身が割れ、オレンジ色の液体が流れだす。
1人分のケーキの様に、綺麗に切り分けられたそれを皿に乗せパンチパーマはホラ吹きの方へ持って行った。切り分けられたガトーコックローチは中が空洞で、上部と側面にゴキブリがびっしり詰まっている。包丁に切断されたゴキブリから流れるオレンジ色の体液が皿やケーキの側面に垂れていた。
悲痛な悲鳴をあげ、顔を引き攣らせるホラ吹きの口をヤクザ2人が無理やりこじ開け、パンチパーマがガトーコックローチを手掴みで押し込んだ。
「ぶぐあああああああ」と呻きながら、口からオレンジ色の液体を垂らすホラ吹きを見て、3人のヤクザは楽しそうにゲラゲラ笑っている。
次は自分の番、そう思うと健之助は吐き気よりも恐怖の方が勝った。
じっと俯いて時が止まる事を願っていると、背後からいきなり顎を掴まれ、健之助は自分の番が来た事を悟った。
「さ~あ、たんとおあがり」
そう言いながら、暗い笑っていない目のパンチパーマが口元をニヤけさせながら、ガトーコックローチを健之助の顔面に近付ける。蠢くゴキブリたちの触覚や手足、切断されオレンジ色の何かを垂れ流す様がどんどんはっきりと視界に映るようになる。
とうとう口に押し込まれたガトーコックローチ、歯にゴキブリのやや硬い表皮が当たる感触と、生暖かい液体が流れだすのが分かる。生命力の強いゴキブリたちはしぶとく生きていて、健之助の口の中で触覚や手足をもぞもぞ動かしている。
寒さによるものではない鳥肌が全身を覆い、吐き気がマックスになった。
「ひゃひゃひゃほへふ…」
「あ?何だって?何言ってんだ、こいつ。」
パンチパーマは健之助の発言に興味を持ち、顎を掴む手下共を制した。
首から上が自由になった健之助はガトーコックローチを急いで吐き出したが、口の中に張り付いているゴキブリの触覚や手足などはなかなか取れない。足元にはオレンジ色の何かに塗れ、それでも強く生き延びるゴキブリたちが蠢いておりぞっとした。
「中里です!中里啓二が…俺らにここへ行くよう命令したんです!」
中里の名を出したところで、彼らが健之助らを見逃すとは思えない。それでも、何でも良い、とにかくこの今の流れを変えたかった。
そして、中里の名を聞いた3人のヤクザは途端に凍り付いた。
「中里って…」
「…あの野郎…!!どこまで俺らをコケにするつもりだ!」
手下共が不安げに顔を見合わせ、パンチパーマが怒り心頭の面持ちで地面を睨みつける。
パンチパーマの視線が、地面から健之助たちへ向かいそして目の笑っていないペニーワイズのような笑顔になった。
「お前ら、命拾いしたぞ。」
そう言われ、健之助は安堵した。確実にろくでもない事をやらされると分かっていても、それでもとりあえずこの急場はしのげたという事に。
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