非モテ最底辺Ω VS 特権階級α

めへ

文字の大きさ
上 下
39 / 63
ろくでなしαの逃亡劇

松崎健之助(α) グルメ回

しおりを挟む
「お前ら~、残念そうな顔するなよ~。もう飯は無いけどよ、デザートは用意してるからな。」



パンチパーマにそう言われ、健之助とホラ吹きはギョッとなる。

嫌な予感しかしない。デザート…絶対にろくでもない物を食わされるのだ。



いつの間にか部屋を出ていた手下が皿に何か黒い物を乗せてやって来た。

その黒い物は遠くから見ると、12センチ直径の丸いケーキの様だ。しかしよく見ると、ケーキの表面が蠢いている。



そっとテーブルに置かれたデザートを見て、再び吐き気を催した。

ケーキの様に見えたそれは、ゴキブリが大量に集まったものだった。ケーキ型に、何かによってびっしりと貼り付いたゴキブリたちは未だ生きていて、自由になる触覚や手足をしゃかしゃかと動かしている。



「ガトーコックローチ…作るの苦労したぜ。ゴキブリホイホイを改造してケーキ型にする。そして捕獲したゴキブリをそこへ貼り付けていくんだ。」



パンチパーマが得意げに料理名とレシピを述べた。



「あんた…俺たちがここへ来る事を知っていたのか?」



健之助が恐る恐る尋ねると、パンチパーマは「何で?」という顔をした。



「だって、今日この日のためにわざわざそれを用意してたんだろう?」



「んなわけねーだろ、たまたまだ。別に食わせる相手はお前じゃなくたって良い。」



つまり普段からこういうものを趣味で作っている、という事か。やはり常軌を逸している。




「ちょっと小さめのケーキだからな~、お前らで全部食っていいぞ~」



そう言いながらパンチパーマはガトーコックローチに包丁を入れていった。刃が一部のゴキブリに差し込まれて身が割れ、オレンジ色の液体が流れだす。

1人分のケーキの様に、綺麗に切り分けられたそれを皿に乗せパンチパーマはホラ吹きの方へ持って行った。切り分けられたガトーコックローチは中が空洞で、上部と側面にゴキブリがびっしり詰まっている。包丁に切断されたゴキブリから流れるオレンジ色の体液が皿やケーキの側面に垂れていた。



悲痛な悲鳴をあげ、顔を引き攣らせるホラ吹きの口をヤクザ2人が無理やりこじ開け、パンチパーマがガトーコックローチを手掴みで押し込んだ。



「ぶぐあああああああ」と呻きながら、口からオレンジ色の液体を垂らすホラ吹きを見て、3人のヤクザは楽しそうにゲラゲラ笑っている。

次は自分の番、そう思うと健之助は吐き気よりも恐怖の方が勝った。



じっと俯いて時が止まる事を願っていると、背後からいきなり顎を掴まれ、健之助は自分の番が来た事を悟った。




「さ~あ、たんとおあがり」



そう言いながら、暗い笑っていない目のパンチパーマが口元をニヤけさせながら、ガトーコックローチを健之助の顔面に近付ける。蠢くゴキブリたちの触覚や手足、切断されオレンジ色の何かを垂れ流す様がどんどんはっきりと視界に映るようになる。



とうとう口に押し込まれたガトーコックローチ、歯にゴキブリのやや硬い表皮が当たる感触と、生暖かい液体が流れだすのが分かる。生命力の強いゴキブリたちはしぶとく生きていて、健之助の口の中で触覚や手足をもぞもぞ動かしている。

寒さによるものではない鳥肌が全身を覆い、吐き気がマックスになった。



「ひゃひゃひゃほへふ…」



「あ?何だって?何言ってんだ、こいつ。」



パンチパーマは健之助の発言に興味を持ち、顎を掴む手下共を制した。

首から上が自由になった健之助はガトーコックローチを急いで吐き出したが、口の中に張り付いているゴキブリの触覚や手足などはなかなか取れない。足元にはオレンジ色の何かに塗れ、それでも強く生き延びるゴキブリたちが蠢いておりぞっとした。



「中里です!中里啓二が…俺らにここへ行くよう命令したんです!」



中里の名を出したところで、彼らが健之助らを見逃すとは思えない。それでも、何でも良い、とにかくこの今の流れを変えたかった。



そして、中里の名を聞いた3人のヤクザは途端に凍り付いた。



「中里って…」



「…あの野郎…!!どこまで俺らをコケにするつもりだ!」



手下共が不安げに顔を見合わせ、パンチパーマが怒り心頭の面持ちで地面を睨みつける。

パンチパーマの視線が、地面から健之助たちへ向かいそして目の笑っていないペニーワイズのような笑顔になった。



「お前ら、命拾いしたぞ。」



そう言われ、健之助は安堵した。確実にろくでもない事をやらされると分かっていても、それでもとりあえずこの急場はしのげたという事に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

芽吹く二人の出会いの話

むらくも
BL
「俺に協力しろ」 入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。 とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。 学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

処理中です...