19 / 63
勝ち組βと負け組α、バディを組む
松崎健之助(α)
しおりを挟む
料亭の駐車場に車を待機させ、健之助は運転席で缶コーヒーを飲みながら中里からの連絡を待っている。
中里があの料亭で誰と会い、何の話をしているのか健之助には皆目見当もつかないが、胡散臭い内容であろうと予想はしている。
中里の仕事内容について、健之助は一切何も知らされていない。中里は彼に運転手という労働のみを求めている。ヒートになった時、処理道具になる事はあるがそれ以上の関係は無い。
理由は健之助がαだからだ。中里はおそらく、いや確実に反社会的な内容で金を稼いでいる。その仕事の片棒を担がせたりした場合、Ωやβであれば自らも罪に問われるリスクから口外したり、警察にタレ込む心配は少ない。
しかしαは何をしても罪に問われないため、平気で警察にタレ込むリスクが高いのだ。なのでαというものは黒社会において信用が得難く、性奴隷に改造されるかΩ相手に売春するか、健之助の様に運転手をするしか無い。
Ωは運転免許の取得を許可されていない。なので多くのΩは無免許運転をしているのだが、金のあるΩはこうしてαを雇い運転手にする。
αが特権階級なんてのは、実家に力のあるαだけの話だ。そうでないαにとって、αである事は呪いでしかない。
Ωの母親がどこかで引っかけたαとの間に産まれた私生児として、健之助は生を受けた。
母親はヒートが来る度、健之助を犯し息子で処理した。息子との間にできた子供がどうなったのか、詳しい事は知らないが母親は産まれてすぐ赤ん坊をどこかへ連れて行き、手ぶらで帰ってきたので売られたのだろう。
やがて母親は他のΩに健之助を犯させ金を稼ぐようになる。
母親に褒められたくて、健之助は文句も言わず励んだ。しかし母親は健之助が16歳の時、愛人と行方をくらました。
その後もΩ相手の売春を続けていたのだが、ある日ヤクザの情夫に買われた時の事、そのヤクザが運悪く最中に帰宅してきたのだ。
健之助はボコボコに殴られ蹴られた跡、性奴隷に改造され売られそうになったところ、たまたまそこに居た中里が運転手を欲しがっておりこうして雇われたのである。
腰が痛くなるが、運転手の仕事は好きでも嫌いでもない。収入も豊かとまではいかずとも、十分ではある。
しかし時たま焦燥感に駆られる。このままダラダラと運転手だけをして生きていたくない、自分の力を試し、自由に生きたい、そんな思いを抱えこうして中里を待っている時などは、このまま中里を放り出しどこか遠くへ車を走らせ去っていきたくなる。
しかし逃げ切れる自信が健之助には無かった。中里の情報収集能力がどれ程のものか見た事は無いが、不明なだけに恐ろしかった。
――結局自分はこのまま、死んだ様にダラダラと生き続けるのだろうか。そんな人生を生きるぐらいなら、いっその事死んだ方がマシかもしれない…
健之助は溜息をついた。彼は突破口を求めていた。この状況から、閉塞感から抜け出す突破口を。それがどれだけ胡散臭い、リスキーなものであっても今の彼なら腹をくくって飛びつくだろう。
電話が鳴った。ディスプレイを見ると、予想通り中里である。
健之助はエンジンをかけると、料亭へ向けてハンドルを切った。
中里があの料亭で誰と会い、何の話をしているのか健之助には皆目見当もつかないが、胡散臭い内容であろうと予想はしている。
中里の仕事内容について、健之助は一切何も知らされていない。中里は彼に運転手という労働のみを求めている。ヒートになった時、処理道具になる事はあるがそれ以上の関係は無い。
理由は健之助がαだからだ。中里はおそらく、いや確実に反社会的な内容で金を稼いでいる。その仕事の片棒を担がせたりした場合、Ωやβであれば自らも罪に問われるリスクから口外したり、警察にタレ込む心配は少ない。
しかしαは何をしても罪に問われないため、平気で警察にタレ込むリスクが高いのだ。なのでαというものは黒社会において信用が得難く、性奴隷に改造されるかΩ相手に売春するか、健之助の様に運転手をするしか無い。
Ωは運転免許の取得を許可されていない。なので多くのΩは無免許運転をしているのだが、金のあるΩはこうしてαを雇い運転手にする。
αが特権階級なんてのは、実家に力のあるαだけの話だ。そうでないαにとって、αである事は呪いでしかない。
Ωの母親がどこかで引っかけたαとの間に産まれた私生児として、健之助は生を受けた。
母親はヒートが来る度、健之助を犯し息子で処理した。息子との間にできた子供がどうなったのか、詳しい事は知らないが母親は産まれてすぐ赤ん坊をどこかへ連れて行き、手ぶらで帰ってきたので売られたのだろう。
やがて母親は他のΩに健之助を犯させ金を稼ぐようになる。
母親に褒められたくて、健之助は文句も言わず励んだ。しかし母親は健之助が16歳の時、愛人と行方をくらました。
その後もΩ相手の売春を続けていたのだが、ある日ヤクザの情夫に買われた時の事、そのヤクザが運悪く最中に帰宅してきたのだ。
健之助はボコボコに殴られ蹴られた跡、性奴隷に改造され売られそうになったところ、たまたまそこに居た中里が運転手を欲しがっておりこうして雇われたのである。
腰が痛くなるが、運転手の仕事は好きでも嫌いでもない。収入も豊かとまではいかずとも、十分ではある。
しかし時たま焦燥感に駆られる。このままダラダラと運転手だけをして生きていたくない、自分の力を試し、自由に生きたい、そんな思いを抱えこうして中里を待っている時などは、このまま中里を放り出しどこか遠くへ車を走らせ去っていきたくなる。
しかし逃げ切れる自信が健之助には無かった。中里の情報収集能力がどれ程のものか見た事は無いが、不明なだけに恐ろしかった。
――結局自分はこのまま、死んだ様にダラダラと生き続けるのだろうか。そんな人生を生きるぐらいなら、いっその事死んだ方がマシかもしれない…
健之助は溜息をついた。彼は突破口を求めていた。この状況から、閉塞感から抜け出す突破口を。それがどれだけ胡散臭い、リスキーなものであっても今の彼なら腹をくくって飛びつくだろう。
電話が鳴った。ディスプレイを見ると、予想通り中里である。
健之助はエンジンをかけると、料亭へ向けてハンドルを切った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。

両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。

運命なんて知らない[完結]
なかた
BL
Ω同士の双子のお話です。
双子という関係に悩みながら、それでも好きでいることを選んだ2人がどうなるか見届けて頂けると幸いです。
ずっと2人だった。
起きるところから寝るところまで、小学校から大学まで何をするのにも2人だった。好きなものや趣味は流石に同じではなかったけど、ずっと一緒にこれからも過ごしていくんだと当たり前のように思っていた。そう思い続けるほどに君の隣は心地よかったんだ。
それが運命というのなら
藤美りゅう
BL
元不良執着α×元不良プライド高いΩ
元不良同士のオメガバース。
『オメガは弱い』
そんな言葉を覆す為に、天音理月は自分を鍛え上げた。オメガの性は絶対だ、変わる事は決してない。ならば自身が強くなり、番など作らずとも生きていける事を自身で証明してみせる。番を解消され、自ら命を絶った叔父のようにはならない──そう理月は強く決心する。
それを証明するように、理月はオメガでありながら不良の吹き溜まりと言われる「行徳学園」のトップになる。そして理月にはライバル視している男がいた。バイクチーム「ケルベロス」のリーダーであるアルファの宝来将星だ。
昔からの決まりで、行徳学園とケルベロスは決して交わる事はなかったが、それでも理月は将星を意識していた。
そんなある日、相談事があると言う将星が突然自分の前に現れる。そして、将星を前にした理月の体に突然異変が起きる。今までなった事のないヒートが理月を襲ったのだ。理性を失いオメガの本能だけが理月を支配していき、将星に体を求める。
オメガは強くなれる、そう信じて鍛え上げてきた理月だったが、オメガのヒートを目の当たりにし、今まで培ってきたものは結局は何の役にも立たないのだと絶望する。将星に抱かれた理月だったが、将星に二度と関わらないでくれ、と懇願する。理月の左手首には、その時将星に噛まれた歯型がくっきりと残った。それ以来、理月が激しくヒートを起こす事はなかった。
そして三年の月日が流れ、理月と将星は偶然にも再会を果たす。しかし、将星の隣には既に美しい恋人がいた──。
アイコンの二人がモデルです。この二人で想像して読んでみて下さい!
※「仮の番」というオリジナルの設定が有ります。
※運命と書いて『さだめ』と読みます。
※pixivの「ビーボーイ創作BL大賞」応募作品になります。

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる