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強盗団Ω VS 特権階級α
吉岡元(Ω)
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住処のアパートで寝転がっていると、電話が鳴った。スマホのディスプレイを確認すると、仕事の依頼であった。
『今から二体お願いしたいんだけど、いけるか?』
「ああ、良いよ。取りに行く?」
『いや、そっちに行くよ。あと見てもらいたいものがあるんだ。お前にとっても良い
話だぜ。』
「そりゃ楽しみだ、期待してるよ。」
吉岡元は電話を切ると、アパートを出て駐車場に向かい車に乗り発進した。
着いた先は海辺に在る元の仕事場、一目であまりの不気味さに鳥肌が立ちそうになる廃墟だった。窓ガラスはひび割れ、雑草は伸び放題、しかしコンクリート製の頑丈なその建物は雨露をしのぐ事は十分にできる。
この建物と土地の所有者は、元の雇い主である有田高だ。電気と水道もひいてある。
元はある建設会社のΩ雇用枠で働いていた。Ω雇用の給料は生活保護以下であり、抑制剤も買う事ができず元は度々ヒートで仕事を休む。職場にαはおらず、他の職員らは誰も元のヒート処理の相手になりたがらなかった。
そうした事もあり、元は職場でまともに仕事を与えられずいつまでも下っ端のままであった。
そんな彼の唯一の楽しみは、虫や爬虫類をモルタルで固める事だった。まだ固まっていないモルタルの中に虫や爬虫類を放り込んで溺れさせる。やがてそれらは抵抗する体力を失い、モルタルの海に沈んでいくのだ。
ある日、いつもの様にそうやって遊んでいると背後から声をかけられた。
「へえ、面白い事やってるね。」
サラリーマンの様なスーツ姿に整えられた黒い髪、しかし厳つい目付きが尋常ではない者である事を示している。そして漂うフェロモンから、Ωであると察した。
この男が有田高である。元の勤め先は、有田のフロント企業だった。
「本当はもっと大きな動物…猫や犬なんかでやってみたいんですよね。」
「最近は野良猫とか見かけなくなったからねえ。」
「ええ…それに、会社の敷地でそんな事やったらさすがにバレて大事になるだろうし。虫や爬虫類だから、隠れてやれるしバレても大事にはならない。」
その流れで、有田は元に死体を処理する仕事にスカウトした。
「殆どが死体だが、たまにまだ息のある奴もいる。犬や猫以上にでかい動物だ、やりがいがあると思うぜ。」
運び込まれるのは殆どが死体だったが、元に不満は無かった。モルタルを練る作業も好きだし、生きていた形跡のある物体をそれで固める作業は楽しかった。
有田は単純に損得勘定から自分をスカウトした訳だが、それを知った上で恩人として感謝している。
有田に声をかけられなければ、自分はずっと鬱屈を抱え精神的に死んだ状態で生きていたのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セメントや砂を用意していると、聞きなれた車の停まる音がした。客の角田が到着したのだ。
角田は布に包んだモノを肩で担ぎ、運び込んだ。角田の背後をノロノロと付いて歩く男が一人いる。暗闇でも初めて見る顔だと分かった。新入りだろうか。
建物の中に入ると、角田はそれを乱暴に床へ置いた。中を開くと遺体が二体、共にぼろ雑巾の様な酷い有様だ。背丈から察するに、まだ子供だろうか、もしくは一人の大人の体が二つに千切れた状態なのかもしれない。とにかくあまりに酷い状態で、性別や人相どころかもはや人間であるかどうかすら判別不可能だった。
「こりゃまた派手にやったなー。」
元は遺体を見て感想を述べた。
「たまには少しでも息のあるのを連れて来てくれよ。」
「そんなの連れて来させてどうするんだ、面倒なだけだろう。」
「まだ息のある状態で、モルタルの海に沈めてみたいんだ。」
「成る程ね、まあ覚えとくよ。」
角田はケラケラ笑って了承した。
元は改めて角田に付いて来た男を見た。明るい場所で見るその男は見たところ、20代半ば~30代に見える。身に着けているスーツや靴は高そうだが、血や泥などにまみれ台無しになっていた。髪はボサボサで目はぼんやりとしており、どこを見ているのか分からない。
そして、漂うフェロモンからαであると分かった。
「見てもらいたいものって、その彼?確かに助かるな、ヒート近いんだ。なのにアレがあんな事なっちゃってさ…」
「ああいや…まあ、ヒート近いなら別にこいつを利用すりゃ良いんだけど…それとは別に持って来たんだ。」
「ちょっと待ってろ」と言い、角田は建物の外に出た。車のドアが開け閉めされ、何か重いものが地面に当たり移動させられている、そんな音がした。
角田がガラガラと檻を押して再び建物の中に入って来た。角田の身長半分くらいの高さの檻に、αのフェロモンを放つ人間が入っている。
両手両足の第二関節から先を失っており、包帯が巻かれている。口には猿轡がはめられ、目隠しをされていた。その人間は素っ裸で、張りのある豊満な乳房が檻の床に着き変形している。黒いセミロングの髪は乱れていた。
「お前確か、飼ってた奴が死んだろ。新しいの買わない?」
Ωに販売するために作られた、αの性奴隷。
ヒートが来た時速やかに処理するため、金銭的に余裕のあるΩはα性奴隷を黒社会で購入する。
Ωはαと違い、番になると番ったα以外の者と性交渉ができなくなる。そして番ったαが死なない限り番は解消できず、一生囚われの身だ。なのでα性奴隷には強い拘束が必要となる。
Ωはαと番になると、フェロモンを出さなくなるためそれを目的に性奴隷と番になるΩもいる。そして番を解消したくなれば、元の様な業者に処理してもらえば良い。
元もα性奴隷を飼っていたが、数日前のある夜仕事から帰ると、そいつは冷たくなっていた。
悲しみも寂しさも感じる事は無く、ただ「不便だなあ」「もう壊れたのか」という風な、まるで壊れた電化製品に対するような気持ちにしかならなかった。
「この女は…まさか、このαの男の妻か恋人か?」
元はそう言って、角田の後ろについて来たαを見た。
「いや、こいつの友人の妻だ。そしてその死体はこの夫妻の子供。」
「込み入った事情があるの?人身売買経由でないって事は、かなり良いお家のお嬢様、奥様だよね。」
「海老ケ瀬グループの奥様で、小笠原誠…民事党のご令嬢だよ。まあ、表に出さなきゃ大丈夫。知り合いが見ても、この成りじゃあ分かんないだろうけど。」
「まあ、性奴隷なんて表に出すもんじゃないし、自分以外に見せる機会は無いだろうから良いけど。
小笠原先生か…うちのお得意さんの一人だ。この間、彼の依頼した殺人の被害者を処理したばかりだ。まさかあの先生も、自分の依頼先の末端が娘を性奴隷にしているなんて思いもよらないんだろうな。」
「興奮するだろ?」
「かもしれないね。」
元は満更でもなさそうに笑った。
「夫の方はどうなったの?」
「同じに処理してある。販売するつもりだ。そっちの方が良いか?」
「いや、αなら正直どっちでも良いけど、とりあえず頑丈な奴が良いね。長持ちしそうな。まあ、これで良いよ。いくら?」
「100万」
「無茶言うなよ、60万で。」
「おい、こいつは最近性奴隷に仕上げたばかりだから、栄養状態も良いし従って体が頑丈だ。80万に負けてやる。」
「70万だ、これ以上は出せない。」
「分かった、仕方ないな。」
これはただの茶番である。元から互いに70万程を見込んでいたのだが、こうした取引めいた会話をするのが慣例というか習慣のようなものなのである。
「いやー、助かったよ。前の奴が死んで、そろそろ新しいの買わなきゃなーって思ってたから。」
「あ、そうだ。お前、こいつと番になるか?」
「いや、番なんかなってもメリット何も無いしね。フェロモン垂れ流しでも別に困らないし。」
「じゃあ歯、抜いとく?一応抜かずにおいたんだけど、必要ならオプションで今やるけど。」
「じゃあ、お願い。」
元がそう言うと、角田は連れてきたαの男に「おい、昇」と声をかけた。どこからかペンチを取り出し、昇と呼ばれたその男に手渡し言った。
「こいつの歯を全て抜け。」
そう言って角田は性奴隷を指差す。
無表情で虚ろな目をしていた昇の口角がみるみるうちに吊り上がり、目が三日月型になって不気味な光を帯びた。
角田が性奴隷の背後に回り、猿轡を外すと彼女「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」という耳障りな声をあげた。この建物に関係者以外が近寄る事は無いので、今は問題無いが自宅に連れ帰る場合は猿轡をしておいた方が良いと元は思った。
角田は次に、性奴隷の口を無理やりこじ開ける。舌は切られたらしいが、白い歯が並んでおり育ちの良さを感じさせる。
昇はプレゼントされた玩具を初めて使う子供の様に顔を輝かせ、ペンチを性奴隷の前歯に当てた。力を入れ、思い切り手を引くと、叫び声がよりいっそうのボリュームで弾き出され、建物内をこだました。
昇はその叫び声にうっとりしていたが、間もなく次の歯を抜きにかかる。ふと見ると、彼の股間は盛り上がっていた。
最初はものすごい音量の叫び声をあげていた性奴隷だったが、声が枯れたのか上の歯を全て抜く頃には声も出さなくなっていた。
歯無しの性奴隷は口から血と涎を流し、鼻水と涙と落ちたメイクで顔が酷い事になっている。
昇は股間の辺りに染みを作っていた。どうやら射精したらしい。
――成る程、こいつは変態か。
「できれば目も潰しといて欲しいんだけど。」
「いいぜ。なあ?」
角田はそう言って昇の方を見た。昇は満面の笑みで何度も頷く。
「これ、使う?」
元はそう言って、コードレスのインパクトを持って寄越した。それを手にした昇は使い方が分からないのか、不思議そうな顔をしてインパクトを眺めている。
「インパクトなら使えるだろう、ここを押すんだよ。」
そう言って角田がスイッチを押して見せると、インパクトの先が音を立てて高速回転をした。
昇はインパクトの先を、頭部を固定された性奴隷の水晶体に近付けていく。手足や舌を切られ、歯を抜かれた性奴隷はそれでも恐怖のあまり必死に逃れようと藻掻くが、無慈悲にもインパクトは彼女の水晶体を直撃した。
潜血が飛び散り、叫び声をかき消す程のインパクトの回転する音が響いた。
さっき射精したばかりだというのに、昇の股間は再びテントを張っている。こいつは筋金入りの変態だ、と元は思った。
とにもかくにも、こうして血の涙を流して呻く性奴隷が仕上がったのである。
小笠原家と言えば代々与党政治家、そして旧華族の中でも天皇家と最も近い血筋である。αの中でもかなり上位にあるのだ。
その家の令嬢でαに産まれた彼女は、これまで思い通りにならなかった事などきっと何一つ無かったはずだ。そんな彼女の末路が達磨にされ、舌を切られ歯を抜かれ、目を潰されΩの性奴隷である。奇異なものだ、そして人生というのは最後まで生きてみなければ分からないものだとも思う。
そんな事を思い巡らせていると、目の前にいる角田が急に前屈みになり「ううっ…」と呻いた。
「ヒートか?丁度良い、こいつで処理しろよ。」
元が仕上げたばかりの性奴隷を指して言った。
「…良いのか?お前の買い物だろう…」
「減るもんじゃないし。恋人でも何でもないからな。それに、ちゃんと処理できるのかを確認する事もできる。」
性奴隷は角田のヒートしたフェロモンに反応し、欲情していた。血塗れの口から荒い息が漏れ、性器が変形している。αの女はΩとの性交の際、性器の一部が変形し男性器の様な働きをする。
昇を見ると、αである彼も興奮しており今にも角田に襲いかかろうとしていたため、元は羽交い絞めにした。昇は思った通り筋力が弱く、押さえつける事が簡単だった。
うつ伏せで呻く性奴隷を仰向けに倒し、角田は下着を脱いで腰を下ろした。
性奴隷の「ブモ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”」という風な聞くに堪えない喘ぎ声が響き、元はやはり猿轡が必要だと改めて思った。
間も無く処理を終えた角田は下着とズボンを履きながら「しっかり処理できるぜ、安心しろ。」と元にドヤ顔で言った。
興奮の冷めた昇を放すと、彼は腑抜けた様にユラユラ揺れながら無表情で佇んでいる。
角田は性奴隷の口の中と目に消毒薬などで手当てをし、病気になったりして早く痛んだりしない様に処置すると、猿轡を付け再び檻の中へ入れた。
角田達が建物を出て、車で去って行くと元はさっそくボロボロの死体を布ごとドラム缶に詰める。練ったモルタルを流し入れると、子供二人なためか普段よりも早くに埋まった。
明日の夜、モルタルが固まった頃再びここに来て船に乗せ、海の底へ沈めれば終了だ。
元はあくびを一つすると、性奴隷を入れた檻をガラガラと押しながら建物を出、車に乗せると住処へ走らせた。
――全く、本当に人生というのは最後まで生きてみなければ分からないものだ。
自分や角田、そして有田もろくな死に方はしないだろう。しかしそれでも、この生き方を辞める気にはなれない。この世界でΩが真っ当に生きる事、それは鎖に繋がれ牢獄の中で死んだ様に生きる事を意味する。たとえろくな最後でなくとも、自由が欲しかった。そのためならば、最後の時くらい覚悟できるというものだ。実際はその時が来れば後悔するのかもしれない、それでも今生きている時の自由とは引き換えにできない。警察に捕まり、無期懲役になったとして真っ当に生きるΩの人生自体が牢獄なのだから同じ事だとしか思わない。
元の住むアパートは有田が所有しており、住んでいるのは有田と繋がりのある者ばかりだ。なので性奴隷を見られても困る事は無いのだが、一応布を被せて部屋に運んだ。
部屋に帰ると元は檻の中の性奴隷に変化が無い事を確認し、犬や猫用の餌入れにドッグフードを入れて水桶と共に檻の中に入れておいた。檻の鍵を確認すると性奴隷用の倉庫に入れ外から鍵をかけた。
元は風呂に入り、ビールを飲みながらしばらく窓の外を眺めタバコをふかしていたが、やがて火を消すと床に入り眠った。悪夢を見る事も無く、心地よい疲れによる睡魔に誘われぐっすりと。
『今から二体お願いしたいんだけど、いけるか?』
「ああ、良いよ。取りに行く?」
『いや、そっちに行くよ。あと見てもらいたいものがあるんだ。お前にとっても良い
話だぜ。』
「そりゃ楽しみだ、期待してるよ。」
吉岡元は電話を切ると、アパートを出て駐車場に向かい車に乗り発進した。
着いた先は海辺に在る元の仕事場、一目であまりの不気味さに鳥肌が立ちそうになる廃墟だった。窓ガラスはひび割れ、雑草は伸び放題、しかしコンクリート製の頑丈なその建物は雨露をしのぐ事は十分にできる。
この建物と土地の所有者は、元の雇い主である有田高だ。電気と水道もひいてある。
元はある建設会社のΩ雇用枠で働いていた。Ω雇用の給料は生活保護以下であり、抑制剤も買う事ができず元は度々ヒートで仕事を休む。職場にαはおらず、他の職員らは誰も元のヒート処理の相手になりたがらなかった。
そうした事もあり、元は職場でまともに仕事を与えられずいつまでも下っ端のままであった。
そんな彼の唯一の楽しみは、虫や爬虫類をモルタルで固める事だった。まだ固まっていないモルタルの中に虫や爬虫類を放り込んで溺れさせる。やがてそれらは抵抗する体力を失い、モルタルの海に沈んでいくのだ。
ある日、いつもの様にそうやって遊んでいると背後から声をかけられた。
「へえ、面白い事やってるね。」
サラリーマンの様なスーツ姿に整えられた黒い髪、しかし厳つい目付きが尋常ではない者である事を示している。そして漂うフェロモンから、Ωであると察した。
この男が有田高である。元の勤め先は、有田のフロント企業だった。
「本当はもっと大きな動物…猫や犬なんかでやってみたいんですよね。」
「最近は野良猫とか見かけなくなったからねえ。」
「ええ…それに、会社の敷地でそんな事やったらさすがにバレて大事になるだろうし。虫や爬虫類だから、隠れてやれるしバレても大事にはならない。」
その流れで、有田は元に死体を処理する仕事にスカウトした。
「殆どが死体だが、たまにまだ息のある奴もいる。犬や猫以上にでかい動物だ、やりがいがあると思うぜ。」
運び込まれるのは殆どが死体だったが、元に不満は無かった。モルタルを練る作業も好きだし、生きていた形跡のある物体をそれで固める作業は楽しかった。
有田は単純に損得勘定から自分をスカウトした訳だが、それを知った上で恩人として感謝している。
有田に声をかけられなければ、自分はずっと鬱屈を抱え精神的に死んだ状態で生きていたのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セメントや砂を用意していると、聞きなれた車の停まる音がした。客の角田が到着したのだ。
角田は布に包んだモノを肩で担ぎ、運び込んだ。角田の背後をノロノロと付いて歩く男が一人いる。暗闇でも初めて見る顔だと分かった。新入りだろうか。
建物の中に入ると、角田はそれを乱暴に床へ置いた。中を開くと遺体が二体、共にぼろ雑巾の様な酷い有様だ。背丈から察するに、まだ子供だろうか、もしくは一人の大人の体が二つに千切れた状態なのかもしれない。とにかくあまりに酷い状態で、性別や人相どころかもはや人間であるかどうかすら判別不可能だった。
「こりゃまた派手にやったなー。」
元は遺体を見て感想を述べた。
「たまには少しでも息のあるのを連れて来てくれよ。」
「そんなの連れて来させてどうするんだ、面倒なだけだろう。」
「まだ息のある状態で、モルタルの海に沈めてみたいんだ。」
「成る程ね、まあ覚えとくよ。」
角田はケラケラ笑って了承した。
元は改めて角田に付いて来た男を見た。明るい場所で見るその男は見たところ、20代半ば~30代に見える。身に着けているスーツや靴は高そうだが、血や泥などにまみれ台無しになっていた。髪はボサボサで目はぼんやりとしており、どこを見ているのか分からない。
そして、漂うフェロモンからαであると分かった。
「見てもらいたいものって、その彼?確かに助かるな、ヒート近いんだ。なのにアレがあんな事なっちゃってさ…」
「ああいや…まあ、ヒート近いなら別にこいつを利用すりゃ良いんだけど…それとは別に持って来たんだ。」
「ちょっと待ってろ」と言い、角田は建物の外に出た。車のドアが開け閉めされ、何か重いものが地面に当たり移動させられている、そんな音がした。
角田がガラガラと檻を押して再び建物の中に入って来た。角田の身長半分くらいの高さの檻に、αのフェロモンを放つ人間が入っている。
両手両足の第二関節から先を失っており、包帯が巻かれている。口には猿轡がはめられ、目隠しをされていた。その人間は素っ裸で、張りのある豊満な乳房が檻の床に着き変形している。黒いセミロングの髪は乱れていた。
「お前確か、飼ってた奴が死んだろ。新しいの買わない?」
Ωに販売するために作られた、αの性奴隷。
ヒートが来た時速やかに処理するため、金銭的に余裕のあるΩはα性奴隷を黒社会で購入する。
Ωはαと違い、番になると番ったα以外の者と性交渉ができなくなる。そして番ったαが死なない限り番は解消できず、一生囚われの身だ。なのでα性奴隷には強い拘束が必要となる。
Ωはαと番になると、フェロモンを出さなくなるためそれを目的に性奴隷と番になるΩもいる。そして番を解消したくなれば、元の様な業者に処理してもらえば良い。
元もα性奴隷を飼っていたが、数日前のある夜仕事から帰ると、そいつは冷たくなっていた。
悲しみも寂しさも感じる事は無く、ただ「不便だなあ」「もう壊れたのか」という風な、まるで壊れた電化製品に対するような気持ちにしかならなかった。
「この女は…まさか、このαの男の妻か恋人か?」
元はそう言って、角田の後ろについて来たαを見た。
「いや、こいつの友人の妻だ。そしてその死体はこの夫妻の子供。」
「込み入った事情があるの?人身売買経由でないって事は、かなり良いお家のお嬢様、奥様だよね。」
「海老ケ瀬グループの奥様で、小笠原誠…民事党のご令嬢だよ。まあ、表に出さなきゃ大丈夫。知り合いが見ても、この成りじゃあ分かんないだろうけど。」
「まあ、性奴隷なんて表に出すもんじゃないし、自分以外に見せる機会は無いだろうから良いけど。
小笠原先生か…うちのお得意さんの一人だ。この間、彼の依頼した殺人の被害者を処理したばかりだ。まさかあの先生も、自分の依頼先の末端が娘を性奴隷にしているなんて思いもよらないんだろうな。」
「興奮するだろ?」
「かもしれないね。」
元は満更でもなさそうに笑った。
「夫の方はどうなったの?」
「同じに処理してある。販売するつもりだ。そっちの方が良いか?」
「いや、αなら正直どっちでも良いけど、とりあえず頑丈な奴が良いね。長持ちしそうな。まあ、これで良いよ。いくら?」
「100万」
「無茶言うなよ、60万で。」
「おい、こいつは最近性奴隷に仕上げたばかりだから、栄養状態も良いし従って体が頑丈だ。80万に負けてやる。」
「70万だ、これ以上は出せない。」
「分かった、仕方ないな。」
これはただの茶番である。元から互いに70万程を見込んでいたのだが、こうした取引めいた会話をするのが慣例というか習慣のようなものなのである。
「いやー、助かったよ。前の奴が死んで、そろそろ新しいの買わなきゃなーって思ってたから。」
「あ、そうだ。お前、こいつと番になるか?」
「いや、番なんかなってもメリット何も無いしね。フェロモン垂れ流しでも別に困らないし。」
「じゃあ歯、抜いとく?一応抜かずにおいたんだけど、必要ならオプションで今やるけど。」
「じゃあ、お願い。」
元がそう言うと、角田は連れてきたαの男に「おい、昇」と声をかけた。どこからかペンチを取り出し、昇と呼ばれたその男に手渡し言った。
「こいつの歯を全て抜け。」
そう言って角田は性奴隷を指差す。
無表情で虚ろな目をしていた昇の口角がみるみるうちに吊り上がり、目が三日月型になって不気味な光を帯びた。
角田が性奴隷の背後に回り、猿轡を外すと彼女「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」という耳障りな声をあげた。この建物に関係者以外が近寄る事は無いので、今は問題無いが自宅に連れ帰る場合は猿轡をしておいた方が良いと元は思った。
角田は次に、性奴隷の口を無理やりこじ開ける。舌は切られたらしいが、白い歯が並んでおり育ちの良さを感じさせる。
昇はプレゼントされた玩具を初めて使う子供の様に顔を輝かせ、ペンチを性奴隷の前歯に当てた。力を入れ、思い切り手を引くと、叫び声がよりいっそうのボリュームで弾き出され、建物内をこだました。
昇はその叫び声にうっとりしていたが、間もなく次の歯を抜きにかかる。ふと見ると、彼の股間は盛り上がっていた。
最初はものすごい音量の叫び声をあげていた性奴隷だったが、声が枯れたのか上の歯を全て抜く頃には声も出さなくなっていた。
歯無しの性奴隷は口から血と涎を流し、鼻水と涙と落ちたメイクで顔が酷い事になっている。
昇は股間の辺りに染みを作っていた。どうやら射精したらしい。
――成る程、こいつは変態か。
「できれば目も潰しといて欲しいんだけど。」
「いいぜ。なあ?」
角田はそう言って昇の方を見た。昇は満面の笑みで何度も頷く。
「これ、使う?」
元はそう言って、コードレスのインパクトを持って寄越した。それを手にした昇は使い方が分からないのか、不思議そうな顔をしてインパクトを眺めている。
「インパクトなら使えるだろう、ここを押すんだよ。」
そう言って角田がスイッチを押して見せると、インパクトの先が音を立てて高速回転をした。
昇はインパクトの先を、頭部を固定された性奴隷の水晶体に近付けていく。手足や舌を切られ、歯を抜かれた性奴隷はそれでも恐怖のあまり必死に逃れようと藻掻くが、無慈悲にもインパクトは彼女の水晶体を直撃した。
潜血が飛び散り、叫び声をかき消す程のインパクトの回転する音が響いた。
さっき射精したばかりだというのに、昇の股間は再びテントを張っている。こいつは筋金入りの変態だ、と元は思った。
とにもかくにも、こうして血の涙を流して呻く性奴隷が仕上がったのである。
小笠原家と言えば代々与党政治家、そして旧華族の中でも天皇家と最も近い血筋である。αの中でもかなり上位にあるのだ。
その家の令嬢でαに産まれた彼女は、これまで思い通りにならなかった事などきっと何一つ無かったはずだ。そんな彼女の末路が達磨にされ、舌を切られ歯を抜かれ、目を潰されΩの性奴隷である。奇異なものだ、そして人生というのは最後まで生きてみなければ分からないものだとも思う。
そんな事を思い巡らせていると、目の前にいる角田が急に前屈みになり「ううっ…」と呻いた。
「ヒートか?丁度良い、こいつで処理しろよ。」
元が仕上げたばかりの性奴隷を指して言った。
「…良いのか?お前の買い物だろう…」
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昇を見ると、αである彼も興奮しており今にも角田に襲いかかろうとしていたため、元は羽交い絞めにした。昇は思った通り筋力が弱く、押さえつける事が簡単だった。
うつ伏せで呻く性奴隷を仰向けに倒し、角田は下着を脱いで腰を下ろした。
性奴隷の「ブモ”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”」という風な聞くに堪えない喘ぎ声が響き、元はやはり猿轡が必要だと改めて思った。
間も無く処理を終えた角田は下着とズボンを履きながら「しっかり処理できるぜ、安心しろ。」と元にドヤ顔で言った。
興奮の冷めた昇を放すと、彼は腑抜けた様にユラユラ揺れながら無表情で佇んでいる。
角田は性奴隷の口の中と目に消毒薬などで手当てをし、病気になったりして早く痛んだりしない様に処置すると、猿轡を付け再び檻の中へ入れた。
角田達が建物を出て、車で去って行くと元はさっそくボロボロの死体を布ごとドラム缶に詰める。練ったモルタルを流し入れると、子供二人なためか普段よりも早くに埋まった。
明日の夜、モルタルが固まった頃再びここに来て船に乗せ、海の底へ沈めれば終了だ。
元はあくびを一つすると、性奴隷を入れた檻をガラガラと押しながら建物を出、車に乗せると住処へ走らせた。
――全く、本当に人生というのは最後まで生きてみなければ分からないものだ。
自分や角田、そして有田もろくな死に方はしないだろう。しかしそれでも、この生き方を辞める気にはなれない。この世界でΩが真っ当に生きる事、それは鎖に繋がれ牢獄の中で死んだ様に生きる事を意味する。たとえろくな最後でなくとも、自由が欲しかった。そのためならば、最後の時くらい覚悟できるというものだ。実際はその時が来れば後悔するのかもしれない、それでも今生きている時の自由とは引き換えにできない。警察に捕まり、無期懲役になったとして真っ当に生きるΩの人生自体が牢獄なのだから同じ事だとしか思わない。
元の住むアパートは有田が所有しており、住んでいるのは有田と繋がりのある者ばかりだ。なので性奴隷を見られても困る事は無いのだが、一応布を被せて部屋に運んだ。
部屋に帰ると元は檻の中の性奴隷に変化が無い事を確認し、犬や猫用の餌入れにドッグフードを入れて水桶と共に檻の中に入れておいた。檻の鍵を確認すると性奴隷用の倉庫に入れ外から鍵をかけた。
元は風呂に入り、ビールを飲みながらしばらく窓の外を眺めタバコをふかしていたが、やがて火を消すと床に入り眠った。悪夢を見る事も無く、心地よい疲れによる睡魔に誘われぐっすりと。
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起きるところから寝るところまで、小学校から大学まで何をするのにも2人だった。好きなものや趣味は流石に同じではなかったけど、ずっと一緒にこれからも過ごしていくんだと当たり前のように思っていた。そう思い続けるほどに君の隣は心地よかったんだ。

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
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