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強盗団Ω VS 特権階級α
尾道昇(α)
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尾道昇はスマートフォンのディスプレイを、つまらないものを見るように見ながら操作している。見ているのはマッチングアプリだ。
平日の、時刻は午後三時。旧財閥グループ御曹司の昇はグループ系列の会社役員であり、αであるため基本的に自由出勤、自由退勤である。
この世界では、αは勉学で好成績を残したり面接や試験を受ける事無く大企業に入れる。そして新入社員の時から自由出勤・退勤で、給料もβの倍以上だ。出世は何もせずとも一年ごとに昇進が約束されている。
順風満帆な人生であった。そう、数年前おかしなΩからのストーカー被害に遭うまでは…
酒井雄介という、醜く不潔の極みにあるその男はΩで、街中かどこかで昇を見初め勝手に運命の番だとつきまとい始めたのだ。
一時、フェロモンを使って無理やり関係を持たされそうになったが、βの何でも屋に相談し解決してもらった事で、酒井雄介は間もなく昇の前から姿を消した。
その後、金持ちの娘で同じくαの公子という女性と結婚。αはα同士で結婚したり付き合う事が多いのだが、α同士の場合子供ができにくいという難点がある。そこで多くのαがそうするようにΩの代理母を使い、αの息子を二人もうけた。
友人の紹介で知り合った公子は美人で、気立ても良い。絵に描いたような順調な人生が再び戻って来た。
しかし贅沢な話だが、こうも人生上手くいき過ぎると刺激が足りないと思い始める。それで少しΩと遊んでみようかと考えたのだ。
――何ならβでも良いな…そういや今までΩとしか遊んだ事が無かった。たまには良いかもしれない。しかしβは番として繋ぎとめておく事ができないからな…
独占欲の強い昇は、番にさえなれば相手を独占可能であるΩという存在に惹かれていた。公子に関しても、同じα故にそれが不可能である事が大きな不満となっている。
しかし下層階級出身であるΩは厄介だった。ゴミの様に扱われて育った彼ら彼女らは、他者に人を人とも思わない扱いを躊躇い無くする事が多い。はねっかえりやチンピラばかりである。
――育ちが良いけど従順で、自信の無さそうな…そういう奴はいないものかね?僕だけを頼りに縋りついてくる様な…
昇のプロフィールには、多数のいいねが付いている。いいねを付けてきた会員をスクロールしながら眺めていて、一人の会員に目が留まった。
黒く清潔感のある短髪、整った品の良い顔立ちには困惑したような笑みを浮かべ、その目は何かに怯えているように見えた。
職業:会社員
年齢:21歳
性別:男(Ω)
名前:小西秀勝
――21歳で会社員…高卒か。そういやΩは大学進学できないんだったな。しかし会社員として真面目に働いているとは珍しい…
昇に言わせれば、Ωは総じて自堕落で怠惰、無能で狡猾である。しかし小西秀勝は真面目で勤勉そうだ。頭は少々弱そうだが、支配し易そうでそれがまた良い。
昇は小西秀勝にいいねを返し、メッセージを送信した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何度かメッセージのやり取りをし、昇は初めて小西秀勝と対面した。
待ち合わせ場所のカフェに現れた秀勝は、写真で見る以上に清潔感があり爽やかだ。服装や身に着けているものは決して高価ではないが、体型に合っており品がある。
しかし若干猫背で、自信無さげな少々怯える様な表情は写真で確認した通りだった。
「君は何と言うか…他のΩと雰囲気が違うな、と思って…それで気になったんだ。」
「それって、良い意味でですか?」
「もちろん。清潔感があって、真面目そうって意味さ。」
「ありがとうございます。昇さんに目を留めてもらえるきっかけがあって良かった。」
話によれば、秀勝はβの家庭に産まれたΩらしい。昇はそんな事があるのかと一瞬驚いたものの――なるほど、それで育ちが良くそれでいて、支配欲を煽るタイプなのか――と妙に納得できた。
社会において圧倒的に使い易いのはβである。そこそこ育ちが良いため、とんでもない事はまずやらない。そして奴隷根性が染みついている。
βの家庭でΩが産まれるなどと、思いもよらなかったがそんな選択肢があったと知り、昇は嬉しくなった。
二人は会ったその日にホテルへ行ったのだが、それで昇はすっかり秀勝の性戯の虜となってしまった。
秀勝によれば、彼は以前生活苦から売春をしておりそれで慣れているらしい。
やむにやまれぬ事情だったらしく「恥ずかしい話ですが…幻滅しましたか?」と遠慮がちに言う姿もいじらしく思え、昇はますます秀勝に好感を抱いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「友達が、保証人を探しているんです。」
ある日、秀勝の憂鬱そうな顔を見た昇が問いただすと、彼はそう答えた。
「保証人て、借金の…?」
秀勝が微かに頷く。
「いくら必要なんだ?借金なんかしなくても、秀勝の友達なんだから僕が融資するよ。」
「ありがとうございます。でも、それだと友人のプライドが傷ついてしまう…あいつにも意地があるから。」
「成る程、そういうものか…」
「昇さん……保証人になってくれませんか?僕がなろうと思ったんだけど、Ωじゃ信用できないって言われて…αの昇さんならきっと…あいつ誠実だから、必ず返します。絶対迷惑かけさせません!
………ごめんなさい、こんな事頼むなんて。
でも、頼れるの昇さんしかいないんです。」
「いや、僕の方こそデリカシーが無かったよ。分かった、秀勝の友人なら誠実に違いない、信用するよ。」
秀勝に頼られた事が嬉しく、また彼に良いかっこうを見せたいとの気持ちから、昇はサインをし印鑑を押した。
平日の、時刻は午後三時。旧財閥グループ御曹司の昇はグループ系列の会社役員であり、αであるため基本的に自由出勤、自由退勤である。
この世界では、αは勉学で好成績を残したり面接や試験を受ける事無く大企業に入れる。そして新入社員の時から自由出勤・退勤で、給料もβの倍以上だ。出世は何もせずとも一年ごとに昇進が約束されている。
順風満帆な人生であった。そう、数年前おかしなΩからのストーカー被害に遭うまでは…
酒井雄介という、醜く不潔の極みにあるその男はΩで、街中かどこかで昇を見初め勝手に運命の番だとつきまとい始めたのだ。
一時、フェロモンを使って無理やり関係を持たされそうになったが、βの何でも屋に相談し解決してもらった事で、酒井雄介は間もなく昇の前から姿を消した。
その後、金持ちの娘で同じくαの公子という女性と結婚。αはα同士で結婚したり付き合う事が多いのだが、α同士の場合子供ができにくいという難点がある。そこで多くのαがそうするようにΩの代理母を使い、αの息子を二人もうけた。
友人の紹介で知り合った公子は美人で、気立ても良い。絵に描いたような順調な人生が再び戻って来た。
しかし贅沢な話だが、こうも人生上手くいき過ぎると刺激が足りないと思い始める。それで少しΩと遊んでみようかと考えたのだ。
――何ならβでも良いな…そういや今までΩとしか遊んだ事が無かった。たまには良いかもしれない。しかしβは番として繋ぎとめておく事ができないからな…
独占欲の強い昇は、番にさえなれば相手を独占可能であるΩという存在に惹かれていた。公子に関しても、同じα故にそれが不可能である事が大きな不満となっている。
しかし下層階級出身であるΩは厄介だった。ゴミの様に扱われて育った彼ら彼女らは、他者に人を人とも思わない扱いを躊躇い無くする事が多い。はねっかえりやチンピラばかりである。
――育ちが良いけど従順で、自信の無さそうな…そういう奴はいないものかね?僕だけを頼りに縋りついてくる様な…
昇のプロフィールには、多数のいいねが付いている。いいねを付けてきた会員をスクロールしながら眺めていて、一人の会員に目が留まった。
黒く清潔感のある短髪、整った品の良い顔立ちには困惑したような笑みを浮かべ、その目は何かに怯えているように見えた。
職業:会社員
年齢:21歳
性別:男(Ω)
名前:小西秀勝
――21歳で会社員…高卒か。そういやΩは大学進学できないんだったな。しかし会社員として真面目に働いているとは珍しい…
昇に言わせれば、Ωは総じて自堕落で怠惰、無能で狡猾である。しかし小西秀勝は真面目で勤勉そうだ。頭は少々弱そうだが、支配し易そうでそれがまた良い。
昇は小西秀勝にいいねを返し、メッセージを送信した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何度かメッセージのやり取りをし、昇は初めて小西秀勝と対面した。
待ち合わせ場所のカフェに現れた秀勝は、写真で見る以上に清潔感があり爽やかだ。服装や身に着けているものは決して高価ではないが、体型に合っており品がある。
しかし若干猫背で、自信無さげな少々怯える様な表情は写真で確認した通りだった。
「君は何と言うか…他のΩと雰囲気が違うな、と思って…それで気になったんだ。」
「それって、良い意味でですか?」
「もちろん。清潔感があって、真面目そうって意味さ。」
「ありがとうございます。昇さんに目を留めてもらえるきっかけがあって良かった。」
話によれば、秀勝はβの家庭に産まれたΩらしい。昇はそんな事があるのかと一瞬驚いたものの――なるほど、それで育ちが良くそれでいて、支配欲を煽るタイプなのか――と妙に納得できた。
社会において圧倒的に使い易いのはβである。そこそこ育ちが良いため、とんでもない事はまずやらない。そして奴隷根性が染みついている。
βの家庭でΩが産まれるなどと、思いもよらなかったがそんな選択肢があったと知り、昇は嬉しくなった。
二人は会ったその日にホテルへ行ったのだが、それで昇はすっかり秀勝の性戯の虜となってしまった。
秀勝によれば、彼は以前生活苦から売春をしておりそれで慣れているらしい。
やむにやまれぬ事情だったらしく「恥ずかしい話ですが…幻滅しましたか?」と遠慮がちに言う姿もいじらしく思え、昇はますます秀勝に好感を抱いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「友達が、保証人を探しているんです。」
ある日、秀勝の憂鬱そうな顔を見た昇が問いただすと、彼はそう答えた。
「保証人て、借金の…?」
秀勝が微かに頷く。
「いくら必要なんだ?借金なんかしなくても、秀勝の友達なんだから僕が融資するよ。」
「ありがとうございます。でも、それだと友人のプライドが傷ついてしまう…あいつにも意地があるから。」
「成る程、そういうものか…」
「昇さん……保証人になってくれませんか?僕がなろうと思ったんだけど、Ωじゃ信用できないって言われて…αの昇さんならきっと…あいつ誠実だから、必ず返します。絶対迷惑かけさせません!
………ごめんなさい、こんな事頼むなんて。
でも、頼れるの昇さんしかいないんです。」
「いや、僕の方こそデリカシーが無かったよ。分かった、秀勝の友人なら誠実に違いない、信用するよ。」
秀勝に頼られた事が嬉しく、また彼に良いかっこうを見せたいとの気持ちから、昇はサインをし印鑑を押した。
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