非モテ最底辺Ω VS 特権階級α

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非モテ最底辺ΩVS特権階級α

藤里省吾(α)

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「藤里さんからお聞きした、例の男の外見の情報を元に探しました所、都内近辺で何人かのΩを確認できました。」



そう言って中里という男が10枚の顔写真を机に並べた。



「こっ、この男です!間違いない!」



藤里省吾はその内の一枚を指差し、叫んだ。禿げあがった頭部に耳元に少量残る毛髪、吹き出物だらけのたるんだ頬や二十顎、異常に離れた目と目の間、角質の目立つぺちゃんこの鼻、長い人中に色の悪いおちょぼ口、写真の中の男はあの日街中で省吾に消えない傷を残したΩに他ならなかった。



あの日以来、省吾は恐怖で外を出歩く事ができない。抑制剤を飲めばとか、車で移動し人通りのあまり無い場所を選べば、等という事で解決する問題ではなかった。

恐怖が体に、心に、脳に染みついていてそんな理屈が通用しないのだ。



出社せずとも会社は問題にしないし、部下達の手柄が自動的に省吾の業績になる。出世も自動的に行われ、給料も不足無く振り込まれる。

しかしどれだけ金と地位があろうと、心身の健康をこうまで崩せば意味が無い。

眠る度にあのΩが現れ、省吾を苛む。今の彼には安息というものが無い。



そして省吾はセックスができなくなった。体が反応しなくなったという事ではない、事に及ぼうとするとあの日の悪夢がフラッシュバックするのだ。

おかげで最近、番とも誰とも関係を持っていない。



あの醜いΩへの憎しみと焦燥に駆られている時、行きつけのクラブで声をかけてきたこの中里という男の事を思い出した。

中里はその時「何かお困りの事がおありでしたらどうぞ。」と省吾に名刺を渡したのだ。

名刺には中里啓二という名、その横に「中里研究施設」とあった。中里は「何でも屋みたいなもの」と言い、人には言えない内容でも秘密裏にご相談にのりますよと囁いた。



中里に、直接会いたいと省吾は伝えこうして自宅に来てもらった。

最初中里と対面した時、Ωである中里と彼の部下のフェロモンを感じた事で吐き気を催し具合が悪くなった。あの日以来、省吾はΩのフェロモンを感受する度フラッシュバックに襲われるようになったのだ。

察しの良い中里は省吾が何か言う前に一旦外に出ると、自分と部下に香水をかけてフェロモンの匂いを誤魔化し再び入室した。

殺しを依頼できる者を紹介できるかと問うた所、あっさり了承され相手の名前や身元を尋ねられたのだが、せっかく相手が名乗ったにも関わらず省吾は覚えていなかった。それで仕方なく、外見の特徴を述べたのである。



「名前も身元も分からなかったのに、こんなに早く見つけ出すなんて…」



省吾は驚嘆しながら写真を眺める。



「それに…よくもまあ、こんな不細工揃いのΩがこんな沢山、都内近辺だけでも居るものなんだな…」



「容姿の良いΩであれば、さっさとαの番になって囲われていますよ。」



中里はふふと笑って言った。

省吾は顔を上げ、中里を失礼にならない程度に見た。彼は決して不細工ではない、どちらかと言えば端正ともとれる顔だ。高級なスーツを着た姿も清潔感がある。しかし彼を番にしたがったり、一夜を共にしようと考えるαはいない気がした。

中里の顔には齢60でもおかしくない皺が刻まれているが、実年齢は40にも届いていないらしく異様に老けている。彼に限らず、こうした世界の人間は老けるのが早い。

目には常に獲物を狙うような鋭さがあり、普通なら体の関係どころかなるべく関わり合いを避けたい類の人間だ。彼の背後で目を光らせる、厳つい部下も同様である。



「事前にお伝えしたものは持って来ていただけましたか?」



中里に問われ、省吾は側に置いていたアタッシュケースを前に置き中を開けた。

ケースの中いっぱいに並ぶ札束を、中里は一つ一つチェックする。



「確かに。では、残りの額は終わった後頂きます。」



中里は部下にケースを持たせ、挨拶すると家を出た。省吾は久しぶりに、一仕事終えたような気分で座っていたソファーにだらり、ともたれ込んだ。

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