スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第63話:宝くじの末等分くらいの報酬だぞ、いいじゃないすか、それでも金っすよ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
 
 朝、目覚める。
 さて、冒険者ギルドに行くとするか。

「おい、起きろ。もう、朝だぞ」

 ベッドでスカーッと寝ている相棒の頭を剣の柄で軽くこずく。
 すると、相棒が眠そうな顔で言った。

「何するんすか。痛いじゃないすか」
「冒険に行くぞ。冒険だ、冒険だ」

「まだ朝の五時じゃないすか」
「ありゃ、確かにちょっと早い時間だな」

「もう年寄りは早起きになりますからねえ。でも、俺っちまで起こさないでくださいよ」
「うるさいぞ。俺はまだ年寄りではない」

「でも、ハゲデブ腰痛肩こり膝痛持ち、老眼、リュウマチでおまけに頻尿のおっさんすね」
「うるさいぞ。せっかく早起きしたのだから、とにかく出かけるぞ」
「やれやれ」

 相棒は仕方なく冒険服に着替える。

「早起きは三文の徳って言葉もあるぞ。それに冒険者ならいついかなる時でもすみやかに行動出来る準備をしていないといけないのだ。お前にはそれが無い。冒険者としての気構えに欠けているぞ」
「こんな朝っぱらから説教しないでくださいよ。朝食はどうするんすか。まだ食堂は開いてませんよ」

「昨日のパンの切れ端が残っているだろ」
「やれやれ。しょぼい朝食っすね。まあ、金が無いから仕方が無いっすね」

 さて、俺と相棒は宿屋を出て、パンを食べながら冒険者ギルドに向かう。
 小鳥のさえずりが聞こえてくる。

「どうだ、たまには朝早く外を歩くのもいいではないか。なかなか爽やかな気分になるな」
「ハゲデブのおっさんが歩いていても全然爽やかじゃないすけどね」

「うるさいぞ。それに今日こそは清掃や警備員ではなく、ちゃんとしたモンスター退治の依頼をもらうつもりだぞ」
「まあ、モンスター退治って言っても、どうせスライム退治の仕事でしょうけどね。でも、リーダーはギルドの主人に嫌われてるからギルドの便所掃除の仕事を押し付けられるかもしれませんっすね」

「まあ、便所掃除でもいいや」
「あれ、考えが変わったんすか。昨日は清掃の仕事を断ったのに」

「一晩考えたのだ。俺の人生がうまくいかなかったのは、カッコつけすぎていたのが原因だろう。清掃も立派な仕事だ。便所掃除から始まって、そして、次の仕事でドラゴンを倒すのだ」
「うーん、清掃も立派な仕事って考えはいいんすけど、やっぱり便所掃除からドラゴン退治は飛躍しすぎじゃないすか」

「まあ、実際のところ金が無いってこともあるな」
「そうっすね」

 さて、冒険者ギルドに到着。
 まだ開いてない。
 まあ、当然か。

 ギルドの前で俺と相棒はしばらく待つことにした。

「ああ、腰がつらい。膝も痛いし」
「もしかしたら、便所掃除も出来なくなったんじゃないすかね。もう、要介護老人すね」
「うるさいぞ。しかし、こんなに体中おかしくなるとは、若い頃は夢にも思わなかったなあ」

 昔が懐かしい。
 全身にエネルギーが満ち溢れていた気がする。
 今は、そのエネルギーがすっかり抜けてしまった感じだ。

「今から便所掃除から初めて、俺は大成できるだろうか」
「全く無理じゃないすか」

「おいおい、はっきり言うなよ」
「でも、現実を正確に把握すると無理っすね。まあ、宝くじでも当たって億万長者になるってこともありますけど、運の全く無いリーダーじゃあ、それもないすね」

「宝くじかあ。その宝くじも買う金が無いけどなあ」
「でも、それでいいんじゃないすか」

「何でだよ」
「宝くじに高額当選した人って、破産する人が多いらしいっすよ。ある日、突然、大金が入って来て、使い方が分からず散財して、いつの間にか破産していることが多いみたいっすね」
「俺はそうならない自信があるぞ」

「そんなこと言って、当たったら有頂天になって散財しまくりそうっすね、お調子者のリーダーは」
「うるさいぞ」

 まあ、実際にはその宝くじを買う金にも困っているんだから情けないったらありゃしない。
 さて、しばらくして、ギルドの主人がやって来た。

 俺の顔を見て嫌な顔をする。
 相棒が俺に小声で言った。

「どうやら、相当、リーダーの事が嫌いみたいすね。こりゃ、便所掃除も頼まれないかもしれませんっすよ」
「うーん、じゃあ、ギルドの建物の窓拭きでもやるかな」

 しかし、意外にも冒険者ギルドの主人が俺に仕事の依頼をする。

「ああ、ちょうどいいとこに来た。近くの海岸に不審なモンスター、または人間が現れたって通報があってなあ」
「なに! どんなモンスターだ」

「なんだか全身真っ黒、かなりバカでかい奴らしい。タコみたいな外見で不気味な感じがするそうだ。あんたら、偵察に行ってくれないか」
「わかった、まかせろ!」

 おお、久々にモンスター退治。
 しかも、相手はタコみたいで、かなりでかいようだ。
 俺はすっかり興奮して相棒に話しかける。

「おい、これはもしかして相手はクラーケンではないか。これは宝くじが当たったようなものだぞ」
「うーん、もしそうなら俺っちらには敵わない相手っすね。だいたい、この近辺の海にクラーケンなんて出現したためしがないすけど」
「いや、モンスターは、突然、思ってもいなかった場所に現れるものなのだ。そして、そこで乾坤一擲! クラーケンを倒して俺たちは英雄になるのだ。報酬もかなりの高額だぞ。どうだ、早起きしてよかっただろ」

「でも、冒険者ギルドの主人の依頼は、とりあえず偵察ってことなんすけど。強そうなモンスターだったら、他の冒険者に任せるつもりじゃないすか」
「うるさいぞ。とにかく俺はモンスターと対決したいのだ」

 近くの海岸へと走る俺と相棒。

「ちょっと、リーダー。そんなに急いで走って腰やら膝は大丈夫なんすか」
「腰や膝の痛みなどどうでもいい。久々の本格的なモンスター退治が待ってるんだぞ」

「随分と張り切ってるけど、出腹のおっさんがクラーケンと戦っている光景は想像できませんすね」
「うるさいぞ」
「まあ、とにかく偵察っすよ。慎重にいきましょう」

 さて、冒険者ギルドで教えてもらった海岸に到着。
 おお、確かに巨大なモンスターがいる。

 黒くてバカでかいタコのようなモンスター。
 モンスター図鑑でも見たことが無いぞ。

 俺は剣を構える。

「おい、これは俺の人生、最大の見せ場じゃないか」
「うーん……」

 興奮する俺とは逆になんだか訝し気な顔をしている相棒。

「おい、どうしたんだ。怖気づいたのか」
「いや、確かにデカいすけど、全然、動かないじゃないすか」

 確かにじっとして動かない。

「でも、前に自然の岩をモンスターと間違えたけど、あの目を見ろよ。明らかに岩じゃないぞ」
「しかし、あの目も全然動きませんすね」

 確かにおかしいぞ。

「いや、体がデカいから動きが鈍いんだ」
「鈍いんじゃなくて全然動かないじゃないすか、変すよ」

 相棒がさっさとモンスターに近づいていく。

「おい、無防備に近づくな、危ないぞ」
「大丈夫すよ。ドアノブがありますよ」
「なに、ドアノブだと」

 確かに下の方にドアノブが付いていた。
 相棒がノックする。

 すると扉が開く。
 髪の毛ボサボサで縞模様の服を着た男が出てきた。
 相棒が対応する。

「おはようございます。あのー、このバカでかいものは何ですか」
「私の家ですね」

「はあ、でも目玉とか付いていて、全体がタコみたい何ですけど」
「私は芸術家なんで、まあ、そういう装飾を周りに付けただけですけど」

 家かよ。
 こんな海岸に紛らわしいもの建てるなよ。
 すっかり萎える俺。

「あのー、通報があったみたいなんすけど。巨大なモンスターがいるって」
「ああ、ここら辺の住民の嫌がらせじゃないですかねえ。私は村役場の許可は事前に取ってあるんですけどね。でも、景観が悪くなるとか文句を言われてるんですよ」

 やれやれ。
 俺はすっかりやる気を無くす。

「おい、帰ろう」
「でも、偵察の仕事が残ってるじゃないすか」
「もう家って判明しただろ」

 そんな会話をしていると、その自称芸術家が家に招き入れてくれた。
 家の中に入ると、いろんな芸術品が置いてある。

「土台は木製で、上の方は紙で出来てるんですよ。一番上まで行きますか」

 俺と相棒はその巨大タコモンスターならぬ、単なる家の屋上に行く。
 なかなか見晴らしがいいのだが。

「しかし、この建物のあの目玉はちょっと不気味な感じがするなあ」
「俺っちもそう思いますね」

 相棒が芸術家を説得する。

「とりあえず、あの目玉くらいは何かで隠した方がいいんじゃないすか」
「そうですねえ。まあ、住民の皆さんの気持ちも考えなくてはいけませんね。わかりました。幕でも張って隠します」

 その後、俺たちはクラーケン宅から帰る。
 俺の足取りは重い。

「おい、腰が痛いぞ。膝も痛い。おまけに頭痛までするぞ」
「何すか、さっきは全然痛くないって言ってたのに。だらしがないすね」

「それにしても、またあのギルドの主人が俺を騙したんじゃないのか。あの野郎、最初から家だって知ってたんだろ」
「いや、一応、依頼としては合ってますね」

「何でだよ」
「確か、不審なモンスター、または人間が現れたとか言ってましたっすよ。要するに、あの芸術家の人となりを調べてこいって事じゃないすか。だから偵察って言ったんすよ」

「だったら、最初からそう言えよ」
「いつもリーダーがギルドで暴れてるから、モンスターってことにしたんじゃないすかね」

「やれやれ。せっかくクラーケンという宝くじに当たったと思ったのになあ」
「ハズレでよかったんじゃないすか。本物のクラーケンだったら、破産どころか死んでますよ」

 すっかり気落ちして、ギルドの主人に報告。
 
「どんな奴だった」
「まあ、変人かもしれないけど、別に危険な奴では無かったぞ」
「そうか、ご苦労さん。これは偵察の代金だ」

 少額の報酬を貰う。
 それで、今日の仕事は終わった。

 そぼそぼと宿屋に帰る。

「何だか、宝くじの末等分くらいの報酬だぞ」
「いいじゃないすか、それでも金っすよ。今日はパンの切れ端じゃなくてちゃんとした食事を取れそうっすね」
「そうだな」

 結局、俺の人生は宝くじの末等くらいのものなのだろうか。
 いや、いつかは一等の宝くじを当ててやるぞと俺は思うのだった。
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