スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第60話:このままだと落ちそうだ、大丈夫すか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 今日の仕事の場所は村から少し遠い。
 海の断崖近くの草原。

 そして、仕事はやはりスライム退治。
 つまらん。

 やる気も出ない。
 だらだらとスライムを退治していると、断崖の近くに若い女性が立っているのが見えた。
 なかなかの美人だ。

「おい、あの女性は亡国の姫ではないか。山賊に追われて逃げ来たのでは。そう、彼女を山賊から助けて、そして、ここから大冒険が始まるんだ」
「またもや妄想すか。どこに山賊がいるんすか。それにお姫様って感じじゃないすね。なんか黒いローブを着て、美人だけど表情が暗いっすね」

「そうか。じゃあ、魔王軍団が派遣した四天王の一人じゃないか。しかし、そいつを倒すと、『何とかがやられたらしいな』『ククク、あいつは四天王でも最弱』『四天王の面汚しだな』とか残りの四天王が会話した後、次々と残りの連中が戦いを挑んでくるんだ」
「リーダー、またまた、しょうもない妄想してますね。付き合いきれませんっす。何でこんなド田舎の海の近くに魔王軍団の四天王が現れるんすか」

 あきれ顔の相棒。

「それにしても、あの四天王ってなんで協力して一気に勇者を倒そうとしないんだ。いつも一人ずつ戦いを挑んできては各個撃破されてるじゃないか。仲が悪いのか」
「そりゃ、話を長引かせようってことでしょ。つーか、小説の話をしてもしょうがないっすよ」
「それもそうか」

 しかし、ちょっと気になった。
 俺は女性に近づいて、話しかける。

「こんなとこで何をしてるんだね。断崖から落ちたら危ないぞ」
「……ここから飛び降りたら死ねますでしょうか」

 女性が暗い表情で答えるが、その内容にびっくりする俺。
 おいおい、自殺志願者かよ。

「あんた、何があったが知らないが、とりあえず落ち着け。自殺なんてやめろ」

 相棒も近寄ってきて女性を説得する。

「そうすよ、生きてれば何かいい事ありますよ。見てください、うちのリーダーを。こんなブサイクで出腹で腰痛で膝痛で老眼でリュウマチで頻尿で夜中に何度も便所に行ってと、人生いいこと一切何もないおっさんでも何とか生きてるんですから」
「そうだ、相棒のいう通りだ……って、おい、人生いいこと一切何もないおっさんってなんだよ。ひどいじゃないか」
「まあ、事実を冷静に言っただけっすね」

 俺と相棒のアホな会話を聞いても何だか憂鬱そうな女性。
 再度、聞いてみる。

「うーん、とにかくなんで死にたいのか事情を話せないのか」

 すると女性が答えた。

「……失恋したんです」

 失恋かあ。
 色恋沙汰には俺もとんと縁がないなあ。
 どう説得しようか。

「まあ、あんたみたいな美人ならいくらでもこれから他にいい相手が見つかるんじゃないの」
「そうっすよ。まあ、リーダーみたいなブサイクで出腹なおっさんはもう可能性は全く無いですけどね」
「うるさいぞ」

 しかし、確かに恋愛とかにもあんまり縁がなかった。
 やれやれ。
 つまらん人生だなあ。

 そんなことを考えていたら、その若い女性が断崖の方へよろよろと歩いていく。

「おい、ちょっとやめろって」
「いいんです、生きてる意味ありません。あの人以外は考えられません」

 あの人って振られた相手かな。
 恋愛は頭をおかしくするからなあ。
 って、止めないと。

「まあ、落ち着けよ、お嬢さん」

 俺は女性の前に立ちはだかった。
 すると、突然、地面が揺れた。

 またまた、地震だ。
 最近、多過ぎるぞ。
 断崖の端っこが崩れていく。

「うわあ!」

 俺は墜落してしまった。
 しかし、墜落寸前で木の根っこが見えたのでそれを掴む。
 ああ、けど体が重い。

「やばい、このままだと落ちそうだ」
「大丈夫すか」

 崖の途中で宙ぶらりんになっている俺。
 上から相棒が叫ぶ。

「今、ロープを降ろしますんで、それに捕まってくださいよ、リーダー」
「おう、頼む!」

 しかし、体がずるずると下がって行く。
 掴んでいる木の根っこが少しずつ抜け出しているようだ。

 相棒のロープを待ってられん。
 これはまずいぞ。

 周りを見ると、すぐ近くに平らな岩が突き出しているのが見えた。
 よし、あの岩の上に飛び移るぞ。

「やあ!」

 俺は体を揺らすと思いっ切り飛んだ。
 しかし、岩に体が届いたと思ったら、出腹がぶつかって跳ね返される。

「ひえー!」

 俺はそのまま落下する。
 ああ、俺の人生もこれで終わりか。
 何だかしょぼくれた人生だったなあ。

 あれ、急に体がフワッとした感覚に包まれる。
 そして、ゆっくりと足から着地した。
 どうなってんだ。

「大丈夫ですか、リーダー!」

 上から相棒が俺に声をかける。

「ああ、大丈夫だけど、どうなってんの」
「この人、魔法使いなんですよ。魔法でリーダーが落ちるのを止めてくれたんっす」

 上を見ると、相棒が女性にペコペコと頭を下げている。
 俺も助けてくれたお礼を言わないといかんな。

 急いで走って、遠回りで断崖の上に到着した。

「いやあ、すみませんでした。助けてくれてありがとうって、あれ、あの女性は」

 相棒一人しかいない。

「失恋したとかいう相手の若い男性がやって来て、何か知らないけど元の鞘におさまったらしいっすね。仲良く帰っていきましたよ」
「そうか。うーん、一言、お礼を言いたかったのだけどなあ」

「つーか、自殺志願者を助けようとして、逆に助けられるなんて、間抜けなリーダーに相応しいっすね。冒険者として情けないっす」
「うるさいぞ」

 まあ、あの女性も自殺はやめたようだし、これでいいか。

「しかし、今回の件がショックで自殺なんてしないでくださいっすよ、リーダー」
「いや、自殺どころか、この前岩をモンスターと間違えて戦ったことに続いて、俺はさらにやる気が出てきたぞ」
「へ? 何でやる気が出たんすか」

「さっき、木の根っこに捕まりながらすぐ近くの岩に飛び移ろうとしたんだ。絶体絶命の中、勇気を出して飛んだ、その高揚感。これこそ冒険だ。もう、おっさんだが俺にはまだ冒険心が残っているんだ。やはり冒険はやめられん」
「何、カッコつけてんすか。普通なら飛び移れたはずが、出腹が邪魔して落下しちゃったんじゃないすか。あの女性がいなかったら死んでますよ。もっと痩せたらどうすか」
「うるさいぞ」

「まあ、勝手に盛り上がるのはいいっすけど、俺っちを巻き込まないでくださいっすよ」
「ああ、わかってるよ」

 とにかく、俺はまだ死んでない。
 何とか大冒険をしてやる。

「それよりスライム退治はまだ全然終わってないんすけど」
「おお、そうだったな」

 再びつまらぬスライム退治に勤しむ俺。
 しかし、ホント、最近、地震が多いな。
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