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第55話:おい、大丈夫か、ちょっとスライム退治も無理っすね
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
しかし、前回の仕事で、大岩が転げ落ちてくるのを避けようとして、ぎっくり腰になっている俺を助けるために、相棒が右腕と右足を捻挫してしまった。
宿屋のベッドで横になっている相棒。
「おい、大丈夫か」
「うーん、ちょっとスライム退治も無理っすね」
「そうか。じゃあ、俺一人で冒険者ギルドに行ってくる。お前は宿でゆっくりしててくれ」
「うぃっす」
相棒には悪い事をしてしまったなあ。
しかし、俺一人でギルドに行って、取れる仕事はゴミ拾いくらいかもしれん。
やれやれ。
さて、ギルドに到着。
そして、意外にもちゃんとした仕事を依頼された。
と言っても、主な仕事はスライム退治なのだが。
しかし、ギルドの主人は別の仕事も依頼してきた。
てっきり、また清掃かと思ったのだが。
「どうやら、オーガが出現したらしい。一匹だけだがなあ。出現するかどうかわからんが。ただ、かなり狂暴で、しかも普通のオーガよりかなりデカいようだ」
「そうか、わかった。あんたもようやく俺の実力を認めたってわけだな」
「ふん、認めてないよ。あんた一人じゃあ、危ないと思って、もう二人に依頼した。現地で集合だ」
何だよ、相変わらず嫌な態度を取りやがって。
とは言え、相手はオーガ。
スライム以外のモンスターは久々なんで、俺は大いに盛り上がる。
さて、集合場所は、村からやや離れた単なる平凡な田舎道だ。
普通の一本道。
そこに車椅子の男がいた。
そして、その車椅子を押して歩いている背の高い男。
おお、この二人には見覚えがあるぞ。
かなり前の話だが、何度かパーティを組んで、冒険に行ったことがある。
しかし、その二人の姿を見て、俺は驚いてしまった。
車椅子に乗ったいかつい顔をした男。
職業はウォリアーで大男だったのだが。
両脚が膝から下が無い。
おまけに左腕も無いようだ。
大きな袋を抱えている。
そして、背の高い男。
弓使いだったはずだが、何も武器を持っていない。
目に黒い布を巻いている。
車椅子の男が俺に話しかけてきた。
「よお、久しぶりだな」
「あんた、その体! いったい、どうしたんだよ」
「びっくりしたか。モンスターにやられて、このざまだよ」
ニヤニヤ笑いの車椅子の男。
「両脚と左腕を失っちまった」
「それで、今はどうしてるんだ」
「どうしてるって、冒険者だよ」
「その体で続けられるのか」
「ああ、全然、大丈夫さ。右腕一本で充分だ」
またニヤリと笑う車椅子の男。
そして、背の高い男も俺に話しかけてくる。
「そのデカい声でわかったぞ。俺を覚えているか」
「ああ、覚えているけど、あんたも、その目はどうしたんだ」
「俺もモンスターにやられてな。完全失明さ」
「でも、冒険者をやっているのか」
「ああ、目が見えなくなっただけで、後は五体満足だ。まあ、こいつの車椅子を押すのが主な仕事だがな。でも、まだ冒険者をやめるつもりはないぜ」
ギルドが依頼したもう二名とはこいつらだったのか。
それにしても、手足を失ったり、目が見えなくなっても、冒険者を続けるとは。
相当な根性があるなあと俺は思った。
でも、昔はそんな感じじゃなかったなあ。
どっちかというと冴えない感じだったのに。
「それで、今日はスライム退治が中心だが、オーガが出るかもしれないってギルドの主人に言われたんだ。あんたら、そんな体で大丈夫なのか」
「ああ、オーガごとき大したことないさ。じゃあ、仕事を始めるとするか。報酬の取り分は三等分だぜ」
「わかった」
とりあえず、スライム退治を始める俺たち三人組の臨時パーティー。
いかつい顔をした男は、背の高い方に指示を出して車椅子を移動させては、小型ナイフを投げてスライムを退治していく。
まあ、スライム程度なら大丈夫か。
しかし、もし、オーガが出現したらどうするか。
かなり狂暴なオーガらしい。
うーん、いざとなったら俺がこの二人を守らなくてはいけないかもしれん。
俺は二人のことが心配で、時折見守りながら、スライム退治を続ける。
けっこうな数を倒した。
そして、日が落ちてきた。
「だいぶ倒したな、これでいいんじゃないか」
俺は少し離れた場所にいる二人に声をかけた。
「終わりにするか。結局、オーガの奴は出なかったようだな。残念だ」
「うむ、そうだな」
俺はそう言ったが、この二人が心配でオーガが出なくて良かったとも思っていたのだが。
すると、二人の後ろの大木の陰に何やら気配を感じた。
こん棒を持った、頭に角が生えた巨体のモンスター。
オーガが出やがった!
「おい、お前ら逃げろ、後ろにオーガがいるぞ!」
俺は剣を抜いて走って二人に駆け寄ろうとする。
しかし、車椅子の男は平然としている。
「おい、車椅子を反転させてくれ」
「わかったよ」
元弓使いの男はオーガの目の前に車椅子を移動する。
そして、車椅子の男が座ったまま、袋から取り出した大型の投げ斧を握ると、オーガ目がけて、瞬時に投げる。
「ウガア!」
見事、巨体のオーガの首に刺さって、悲鳴をあげてモンスターは倒れた。
そして、いかつい顔の男はまた平然と車椅子でオーガの死骸に近づいて、斧を回収した。
「大したことなかったな。ギルドではかなり狂暴とか言ってたけどなあ」
びっくりしている俺を見て車椅子の男が、ニヤリと笑って言った。
「俺は最後の最後まで冒険者をやめる気はないぜ」
……………………………………………………
俺は宿屋に戻った。
「おお、今日はすごい報酬じゃないすか」
「うむ、オーガを倒したんだ」
「え、オーガ退治を依頼されたんすか。あのギルドの主人には珍しいっすね」
「いや、どうも俺に依頼したわけではないようだなあ」
俺は車椅子の男と失明した男について相棒に話した。
「すごいっすね。片腕しかないのにオーガを倒すなんて。それに目が見えないのに冒険者を続けるなんて。俺っちなんて、捻挫でベッドにへばっていると言うのに。現役の頃はさぞかしすごい冒険者だったんすか」
「それがなあ、昔はどっちかというと冴えない連中だったんだ。それが、今は何と言うか凄みがあると言うか、まったく変わったなあ」
「大ケガして、かえってやる気が出たんすかねえ。もう失うものは何もないって感じなんですかねえ」
「うむ、そうかもしれん」
普通、腕一本になってしまったり、目が見えなくなったら、俺なら落ち込んでしまうもんだがなあ。
「いや、俺も負けられんぞ。あんな大ケガを負っても冒険者として活躍できるんだ」
「張り切るのはいいすけど、とりあえず、その出腹を何とかしたらどうなんすか」
「うるさいぞ」
しかし、俺は思う。
必ず、大物モンスター退治で大活躍してみせるぞと。
とは言え、体調不良なんだよなあ。
情けない。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
しかし、前回の仕事で、大岩が転げ落ちてくるのを避けようとして、ぎっくり腰になっている俺を助けるために、相棒が右腕と右足を捻挫してしまった。
宿屋のベッドで横になっている相棒。
「おい、大丈夫か」
「うーん、ちょっとスライム退治も無理っすね」
「そうか。じゃあ、俺一人で冒険者ギルドに行ってくる。お前は宿でゆっくりしててくれ」
「うぃっす」
相棒には悪い事をしてしまったなあ。
しかし、俺一人でギルドに行って、取れる仕事はゴミ拾いくらいかもしれん。
やれやれ。
さて、ギルドに到着。
そして、意外にもちゃんとした仕事を依頼された。
と言っても、主な仕事はスライム退治なのだが。
しかし、ギルドの主人は別の仕事も依頼してきた。
てっきり、また清掃かと思ったのだが。
「どうやら、オーガが出現したらしい。一匹だけだがなあ。出現するかどうかわからんが。ただ、かなり狂暴で、しかも普通のオーガよりかなりデカいようだ」
「そうか、わかった。あんたもようやく俺の実力を認めたってわけだな」
「ふん、認めてないよ。あんた一人じゃあ、危ないと思って、もう二人に依頼した。現地で集合だ」
何だよ、相変わらず嫌な態度を取りやがって。
とは言え、相手はオーガ。
スライム以外のモンスターは久々なんで、俺は大いに盛り上がる。
さて、集合場所は、村からやや離れた単なる平凡な田舎道だ。
普通の一本道。
そこに車椅子の男がいた。
そして、その車椅子を押して歩いている背の高い男。
おお、この二人には見覚えがあるぞ。
かなり前の話だが、何度かパーティを組んで、冒険に行ったことがある。
しかし、その二人の姿を見て、俺は驚いてしまった。
車椅子に乗ったいかつい顔をした男。
職業はウォリアーで大男だったのだが。
両脚が膝から下が無い。
おまけに左腕も無いようだ。
大きな袋を抱えている。
そして、背の高い男。
弓使いだったはずだが、何も武器を持っていない。
目に黒い布を巻いている。
車椅子の男が俺に話しかけてきた。
「よお、久しぶりだな」
「あんた、その体! いったい、どうしたんだよ」
「びっくりしたか。モンスターにやられて、このざまだよ」
ニヤニヤ笑いの車椅子の男。
「両脚と左腕を失っちまった」
「それで、今はどうしてるんだ」
「どうしてるって、冒険者だよ」
「その体で続けられるのか」
「ああ、全然、大丈夫さ。右腕一本で充分だ」
またニヤリと笑う車椅子の男。
そして、背の高い男も俺に話しかけてくる。
「そのデカい声でわかったぞ。俺を覚えているか」
「ああ、覚えているけど、あんたも、その目はどうしたんだ」
「俺もモンスターにやられてな。完全失明さ」
「でも、冒険者をやっているのか」
「ああ、目が見えなくなっただけで、後は五体満足だ。まあ、こいつの車椅子を押すのが主な仕事だがな。でも、まだ冒険者をやめるつもりはないぜ」
ギルドが依頼したもう二名とはこいつらだったのか。
それにしても、手足を失ったり、目が見えなくなっても、冒険者を続けるとは。
相当な根性があるなあと俺は思った。
でも、昔はそんな感じじゃなかったなあ。
どっちかというと冴えない感じだったのに。
「それで、今日はスライム退治が中心だが、オーガが出るかもしれないってギルドの主人に言われたんだ。あんたら、そんな体で大丈夫なのか」
「ああ、オーガごとき大したことないさ。じゃあ、仕事を始めるとするか。報酬の取り分は三等分だぜ」
「わかった」
とりあえず、スライム退治を始める俺たち三人組の臨時パーティー。
いかつい顔をした男は、背の高い方に指示を出して車椅子を移動させては、小型ナイフを投げてスライムを退治していく。
まあ、スライム程度なら大丈夫か。
しかし、もし、オーガが出現したらどうするか。
かなり狂暴なオーガらしい。
うーん、いざとなったら俺がこの二人を守らなくてはいけないかもしれん。
俺は二人のことが心配で、時折見守りながら、スライム退治を続ける。
けっこうな数を倒した。
そして、日が落ちてきた。
「だいぶ倒したな、これでいいんじゃないか」
俺は少し離れた場所にいる二人に声をかけた。
「終わりにするか。結局、オーガの奴は出なかったようだな。残念だ」
「うむ、そうだな」
俺はそう言ったが、この二人が心配でオーガが出なくて良かったとも思っていたのだが。
すると、二人の後ろの大木の陰に何やら気配を感じた。
こん棒を持った、頭に角が生えた巨体のモンスター。
オーガが出やがった!
「おい、お前ら逃げろ、後ろにオーガがいるぞ!」
俺は剣を抜いて走って二人に駆け寄ろうとする。
しかし、車椅子の男は平然としている。
「おい、車椅子を反転させてくれ」
「わかったよ」
元弓使いの男はオーガの目の前に車椅子を移動する。
そして、車椅子の男が座ったまま、袋から取り出した大型の投げ斧を握ると、オーガ目がけて、瞬時に投げる。
「ウガア!」
見事、巨体のオーガの首に刺さって、悲鳴をあげてモンスターは倒れた。
そして、いかつい顔の男はまた平然と車椅子でオーガの死骸に近づいて、斧を回収した。
「大したことなかったな。ギルドではかなり狂暴とか言ってたけどなあ」
びっくりしている俺を見て車椅子の男が、ニヤリと笑って言った。
「俺は最後の最後まで冒険者をやめる気はないぜ」
……………………………………………………
俺は宿屋に戻った。
「おお、今日はすごい報酬じゃないすか」
「うむ、オーガを倒したんだ」
「え、オーガ退治を依頼されたんすか。あのギルドの主人には珍しいっすね」
「いや、どうも俺に依頼したわけではないようだなあ」
俺は車椅子の男と失明した男について相棒に話した。
「すごいっすね。片腕しかないのにオーガを倒すなんて。それに目が見えないのに冒険者を続けるなんて。俺っちなんて、捻挫でベッドにへばっていると言うのに。現役の頃はさぞかしすごい冒険者だったんすか」
「それがなあ、昔はどっちかというと冴えない連中だったんだ。それが、今は何と言うか凄みがあると言うか、まったく変わったなあ」
「大ケガして、かえってやる気が出たんすかねえ。もう失うものは何もないって感じなんですかねえ」
「うむ、そうかもしれん」
普通、腕一本になってしまったり、目が見えなくなったら、俺なら落ち込んでしまうもんだがなあ。
「いや、俺も負けられんぞ。あんな大ケガを負っても冒険者として活躍できるんだ」
「張り切るのはいいすけど、とりあえず、その出腹を何とかしたらどうなんすか」
「うるさいぞ」
しかし、俺は思う。
必ず、大物モンスター退治で大活躍してみせるぞと。
とは言え、体調不良なんだよなあ。
情けない。
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