スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第53話:かかって来い、百人の勇者ども! ちょっと子供たちが怖がってますよ

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 俺は魔王になった。
 そして、目の前には百人の勇者たち。

「ハハハハハ、さあ、かかって来たまえ、勇者たちよ! 私を楽しまさせてくれたまえ!」

 俺は見栄を張って、剣を振り回す。

 しかし、勇者たちは寄ってこない。
 黄金のメダルを首からいっぱいぶら下げた使い魔のガーゴイルが俺に言った。

「ちょっと、リーダー、そんなに剣を振り回さないでくださいよ。子供たちが怖がってますよ」
「でも、そういう設定だろ」

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 しかし、今日はそのスライム退治の仕事さえ取れなかった。
 仕方が無いので、村主催のドラゴンテーマパークでのイベントを手伝うことになった。

 場所は大きい広場。
 子供たちが勇者になり魔王を倒して、賞品としてドラゴンがデザインされたメダルをあげるってイベントだ。
 ちびっ子勇者が百人くらいいるぞ。

 子供たちが紙製の剣を持ち、魔王の頭に付いている風船を破るとメダルが貰える。
 この広場には魔王も十人くらいいる。

 村の大人たちがコスプレして魔王の役だ。
 魔王が持っている剣も、もちろん紙製。

「それにしても、子供がけっこう集まってきたなあ」
「このドラゴンメダルはデザインがいいので、みんな欲しがってるんすよ」

 そして、ガーゴイルの着ぐるみを着た相棒が俺に文句を言う。

「怖い顔したハゲデブのおっさんが紙製とはいえ、剣を振り回してたら子供は怖がって近づかないっすよ。ほら、他の魔王たちは適当に子供たちとチャンバラごっこをした後、ちゃんと風船を破らせてるじゃないすか。出腹魔王もさっさと風船を割らせてあげなきゃだめっすよ」
「何だよ、出腹魔王って」
「魔王がいっぱいいるので、区別するため、俺っちが名付けました」

「ふざけんな! しかし、子供相手にチャンバラごっこして、いったい俺は本当に冒険者なのだろうか」
「まあ、その出腹は冒険者とは言えませんね」
「うるさいぞ。それに人生はいつもうまくいくとは限らないということも教えるべきではないかな。そうやすやすとメダルは貰えんぞってことだ」

「全くいいこと無く人生が終わったリーダーの言うことは説得力はありますけどね。実感が伴ってますね。その情けない外見と相まって」
「おいおい、まだ俺の人生は終わってないぞ。勝手に終わらせるなよ。それに、何だよ情けない外見って。ひどいじゃないか」

「そう言えば、そうすっね。でも、終わってるも同じじゃないすか。だいたい、まだ小さい子供に人生の厳しさなんて教えても仕方が無いっすよ」
「それもそうか」

 しょうがない。
 他の魔王と同様に子供たちと適当にチャンバラごっこをして風船を割らせる。
 そして、ガーゴイルの相棒がその子供にメダルを渡している。

「おい、ガーゴイル。お前は魔王の使い魔なのに、魔王を倒した勇者になんでメダルをやるんだよ」
「人手が足りないんすよ。とにかく、このメダル、首から下げているとけっこう重いので、さっさと全部ちびっ子勇者にあげたいんすけど」

 その後、何度も頭に風船を付けては子供に倒される俺。
 何とも情けない。

 中には後ろから思いっきり俺の頭を叩く子供もいる。

「紙の剣とはいえ、痛いぞ。この悪ガキめ」
「子供に後ろを取られるとは情けない冒険者っすね、リーダーは」

「うるさいぞ。こんなに沢山勇者がいるんだから仕方ないだろ。そもそも、後ろから狙うとは卑怯だぞ」
「けど、この前、山賊を背後から放水して倒しましたっすけどね」

「あれはお前の仕業じゃないか」
「でも、それでリーダーは助かったんだから、いいじゃないすか。それに人生いつも真面目に生きていてもうまくいくとは限らないっすよ。多少はずるくてもいいんじゃないすか」

 相棒の言うことにも一理あるな。

「けど、俺としては嫌なんだな、そういう生き方は」
「そんなこと言ってるから、ちびっ子勇者に後ろから頭を叩かれたりと情けないことになるんすよ」

「いや、俺は正直に生きたいのだ。正面からドラゴンにぶつかって勝ちたいんだよ」
「そんなこと言ってたら、いつの間にかおっさんじゃないすか。生きたいどころかいつあの世に逝くかわからないことになってしまいましたっすね」
「うるさいぞ」

 俺と相棒がしょうもない会話をしていると、おお、美人の女性が近づいてきた。
 あれ、見たことがあるなあと思ったら、この村の美少女コンテストの優勝者で、冒険者になろうとしたが断念して、農業をやっている娘さんではないか。

「姫、ご機嫌うるわしゅう」

 思わず片膝をつく俺。
 キャハハと笑う娘さん。

「相変わらず面白いですねえ、冒険者さん」
「いえ、姫も相変わらず、お美しい」
「ありがとうございまーす」

 その光景に相棒が嫌な顔をする。

「ちょっと、リーダー、恥ずかしいからやめてくださいっすよ。だいたい、何で魔王が姫に挨拶するんすか。しかも村娘さんですよ、姫の格好をしてませんよ」
「そう言えばそうだな。で、何の用かな、お嬢さん」

「あの、私には弟がいるんですけど、体が弱くてこのイベントには参加できなかったんです。でも、そのドラゴンメダルが欲しいみたいで、よろしければ一枚いただけないでしょうか」
「ああ、いいとも。おい、ガーゴイル。メダルを一枚、姫に、じゃなくて、この娘さんにあげてやれ」
「あれ、それはコネを使ったやり方で、さっきの偉そうな『正直に生きたい』発言とは違うんじゃないすか」

 嫌味を言う相棒。
 うるさい奴だ。

「じゃあ、正式に俺の頭の風船を剣で割ればいいんだろ。では、お嬢さん、剣を渡すから」
「わかりました」

 そして、娘さんがサッと剣を素早く振って風船を割った。
 おお、紙の剣なのだが、なかなか扱いがうまい。
 やはりこの娘さん冒険者として素質があるのではないかな。

「ありがとうございましたー!」

 メダルを貰って嬉しそうに帰って行く村娘さんを見て、俺は相棒に言った。

「うーむ、紙の剣とは言え、何かあの娘には可能性が秘められているような気がする。やはり冒険者になったほうがいいのではないか」
「大げさっすよ、紙の剣で風船を割っただけじゃないすか。やめといたほうがいいんじゃないすか。地味に暮らした方がいいっすよ。下手に冒険者になって、リーダーみたいに出腹魔王になったら悲惨っすよ」
「うるさいぞ」

「それに体の弱い弟さんがいるみたいだから、冒険者なんて無理っすよ」
「そうか、残念だなあ。でも、あの娘と一緒に冒険を繰り広げるなんて楽しそうだなあ」

「また妄想すか。ハゲデブで腰痛膝痛肩こりでリュウマチ持ち、夜は頻尿のおっさんは相手にされませんよ」
「うるさいぞ。別に恋愛とかではないぞ」

 ただ、あの若さが眩しいだけなんだな。
 いいなあ、若いって。

 まあ、おっさんの妄想に巻き込むのは可哀想なので、あの娘さんは大人しく農業をしてればいいかなとも俺は思った。
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