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第51話:今までの冒険で最短距離じゃないかな、目的地にたどり着いたのは、まあ、宿泊している宿屋の地下室ですからねえ
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「仕事が無いぞ」
「困ったすね」
今日は冒険者ギルドで仕事が取れなかった。
「これじゃあ、食費代も出せんぞ」
「また宿屋の食堂でパンの切れ端を貰ってきますかね」
やれやれ。
もはや、浮浪者に近くなってきたなあ。
この宿屋には、以前、泥棒を逮捕した結果、「一年間無料宿泊券」を貰ったので来年までは泊ることができるのだが。
「とにかく金を貯めるしかないな」
「でも、仕事が無いんだからどうしようもないすよ」
うーん、困った。
俺が悩んでいると、扉がノックされた。
「開いてるよ」
俺が声をかけると、宿屋の主人が入ってきた。
「実は地下倉庫にスライムが侵入してきたんですよ。退治してくれませんかね。相当の報酬は出しますよ」
「なに、スライムが出現したのか。そうか、よし、まかせろ」
俺と相棒はさっそく、宿屋の地下に行く。
「まあ、結局、スライム退治すか」
「何もしないよりはマシだろ。さあ、真面目に仕事をしようか。いや、まさかこの宿屋の地下室に囚われの美少女姫がいるかもしれないぞ」
「リーダー、その類の妄想はやめてくれませんすかねえ」
「冗談だ。でも、この妄想はいつ現れるかわからんぞ」
「どんな凶悪なモンスターよりも現れてほしくないすね」
「うるさいぞ」
さて、下らない会話をしながら、俺たちは宿屋の地下室へ行く。
けっこう広い部屋だ。
中は薄暗い。
「今までの冒険で、最短距離じゃないかな、目的地にたどり着いたのは」
「まあ、宿泊している宿屋の地下室ですからねえ」
扉を開けると、何やらごちゃごちゃと物が置いてある。
「やりにくいな。少し整理するか」
俺たちは地下室に置いてある物品を移動したりといろいろとまとめる。
しかし、スライムが出ない。
どうなってんだ。
「おい、まさか宿屋の主人はスライム退治と見せかけて、地下倉庫の整理をさせようとしたんじゃないか」
「そんな、リーダーと仲が悪い冒険者ギルドの主人みたいな嫌がらせはしないっしょ」
やれやれ。
スライムを退治しないと報酬がもらえないではないか。
地下室を見回す。
おっと、隅っこに宝箱があるのを発見。
「お、宝箱だぞ」
「リーダー、まさか盗むつもりじゃないすよね。いくら貧乏だからって」
「そこまでは落ちてないぞ、俺は。冒険者としての矜持は失ってないぞ。でも、宝箱を見ると中を開けたくなるのは冒険者としての習慣みたいなもんだな」
「でも、こんな倉庫にほっておかれてる宝箱なんて何も入ってないんじゃないすか」
「そうだな。しかし、冒険者が宝箱を見つけるんだが、中は空っぽだったんだ。でも、その宝箱自体が貴重品で高く売れたってオチの小説を読んだことがあるなあ」
「あの宝箱自体を盗むんすか」
「だから、盗まないよ。宿屋の主人に教えてやるんだ。ただ、その代わり、無料宿泊の期間を延長してくれって頼むのはいいだろ」
「いいすけど、なんの価値もないと思いますけどねえ」
そんなわけで、宝箱に近づく俺。
うーん、見てくれは安っぽい。
あまり貴重なものでは無さそうだな。
そして、俺が宝箱を開けようとすると、突然、宝箱が勝手に開く。
「ウォ!」
びっくりする俺。
そのせいで、足を滑らして、宝箱の中に入ってしまう。
中は空っぽだ。
そして、その宝箱のフタには尖った歯が生えている。
宝箱が閉まった。
「うわ、これは宝箱に擬態するモンスターじゃないか、おい、助けてくれ」
しかし、さわぐ俺にたいして、相棒は何もしない。
「おっと、スライムがいたっすよ」
のんびりスライム退治をしてやがる。
「おい、仲間がモンスターに襲われてるんだぞ、このままだと食われちまう。なに、ぼんやりとしてるんだ!」
焦る俺に対して、スライムを難なく退治した相棒がゆっくりと近づいてきたようだ。
「なに、慌ててんすか、リーダー。モンスターじゃないすよ」
「なんだと」
「ドラゴンテーマパークで使われていた疑似宝箱モンスターじゃないすか。食べられることはないすよ」
ああ、思い出した。テーマパークのダンジョンイベントに置いてあったやつだなあ。
「おい、でも出ることができないぞ」
「出腹が引っかかってるみたいすね」
相棒がナイフで宝箱の留め金を壊す。
「ふう、助かった」
「こんな偽物モンスターに引っかかるなんて、リーダーは冒険者としての気構えに欠けてますね」
「うーむ、面目ない」
「でも、宝箱を壊しちゃったすよ」
「仕方が無い。主人に正直に言うか」
「出腹が挟まったってことは言わない方がいいすよ。情けないすよ、おもちゃのモンスターに襲われた冒険者なんて」
「うるさいぞ」
俺と相棒が話していると、宿屋の主人が入ってきた。
「スライムを退治してくれて、おまけに部屋の整理までしてくれたんですか。ありがとうございます」
「いや、その間に宝箱を壊してしまったんだが。申し訳ない」
「ああ、いいですよ。ドラゴンテーマパークで使用されていたんですけど、壊れたんで新品に交換したそうなんですよ。それで古いのを私の息子が面白がるかと村役場からもらったんですけど、捨てることにしてたものですから」
「息子さんは、この宝箱にひっかからなかったのか」
「ええ、近づいたら開いて歯がついてたのを見て、くだらないって言われてしまいましたよ」
それを聞いていた相棒が主人に質問した。
「ところで息子さんはおいくつすか」
「五才ですね」
……………………………………………………
さて、俺たちは地下室の整理分も含めて、けっこうな報酬を貰ったのだが。
部屋に戻って、俺はベッドでがっかりして座っている。
「五才の子供さえ見破れた宝箱のおもちゃを俺はモンスターと思ってしまった。ああ、俺は冒険者としては最低だ」
「元気だしてくださいっすよ、あの部屋は薄暗かったじゃないすか」
相棒は慰めてくれるが、元々、冒険者になるべきではなかったんじゃないかと悩む俺であった。
「困ったすね」
今日は冒険者ギルドで仕事が取れなかった。
「これじゃあ、食費代も出せんぞ」
「また宿屋の食堂でパンの切れ端を貰ってきますかね」
やれやれ。
もはや、浮浪者に近くなってきたなあ。
この宿屋には、以前、泥棒を逮捕した結果、「一年間無料宿泊券」を貰ったので来年までは泊ることができるのだが。
「とにかく金を貯めるしかないな」
「でも、仕事が無いんだからどうしようもないすよ」
うーん、困った。
俺が悩んでいると、扉がノックされた。
「開いてるよ」
俺が声をかけると、宿屋の主人が入ってきた。
「実は地下倉庫にスライムが侵入してきたんですよ。退治してくれませんかね。相当の報酬は出しますよ」
「なに、スライムが出現したのか。そうか、よし、まかせろ」
俺と相棒はさっそく、宿屋の地下に行く。
「まあ、結局、スライム退治すか」
「何もしないよりはマシだろ。さあ、真面目に仕事をしようか。いや、まさかこの宿屋の地下室に囚われの美少女姫がいるかもしれないぞ」
「リーダー、その類の妄想はやめてくれませんすかねえ」
「冗談だ。でも、この妄想はいつ現れるかわからんぞ」
「どんな凶悪なモンスターよりも現れてほしくないすね」
「うるさいぞ」
さて、下らない会話をしながら、俺たちは宿屋の地下室へ行く。
けっこう広い部屋だ。
中は薄暗い。
「今までの冒険で、最短距離じゃないかな、目的地にたどり着いたのは」
「まあ、宿泊している宿屋の地下室ですからねえ」
扉を開けると、何やらごちゃごちゃと物が置いてある。
「やりにくいな。少し整理するか」
俺たちは地下室に置いてある物品を移動したりといろいろとまとめる。
しかし、スライムが出ない。
どうなってんだ。
「おい、まさか宿屋の主人はスライム退治と見せかけて、地下倉庫の整理をさせようとしたんじゃないか」
「そんな、リーダーと仲が悪い冒険者ギルドの主人みたいな嫌がらせはしないっしょ」
やれやれ。
スライムを退治しないと報酬がもらえないではないか。
地下室を見回す。
おっと、隅っこに宝箱があるのを発見。
「お、宝箱だぞ」
「リーダー、まさか盗むつもりじゃないすよね。いくら貧乏だからって」
「そこまでは落ちてないぞ、俺は。冒険者としての矜持は失ってないぞ。でも、宝箱を見ると中を開けたくなるのは冒険者としての習慣みたいなもんだな」
「でも、こんな倉庫にほっておかれてる宝箱なんて何も入ってないんじゃないすか」
「そうだな。しかし、冒険者が宝箱を見つけるんだが、中は空っぽだったんだ。でも、その宝箱自体が貴重品で高く売れたってオチの小説を読んだことがあるなあ」
「あの宝箱自体を盗むんすか」
「だから、盗まないよ。宿屋の主人に教えてやるんだ。ただ、その代わり、無料宿泊の期間を延長してくれって頼むのはいいだろ」
「いいすけど、なんの価値もないと思いますけどねえ」
そんなわけで、宝箱に近づく俺。
うーん、見てくれは安っぽい。
あまり貴重なものでは無さそうだな。
そして、俺が宝箱を開けようとすると、突然、宝箱が勝手に開く。
「ウォ!」
びっくりする俺。
そのせいで、足を滑らして、宝箱の中に入ってしまう。
中は空っぽだ。
そして、その宝箱のフタには尖った歯が生えている。
宝箱が閉まった。
「うわ、これは宝箱に擬態するモンスターじゃないか、おい、助けてくれ」
しかし、さわぐ俺にたいして、相棒は何もしない。
「おっと、スライムがいたっすよ」
のんびりスライム退治をしてやがる。
「おい、仲間がモンスターに襲われてるんだぞ、このままだと食われちまう。なに、ぼんやりとしてるんだ!」
焦る俺に対して、スライムを難なく退治した相棒がゆっくりと近づいてきたようだ。
「なに、慌ててんすか、リーダー。モンスターじゃないすよ」
「なんだと」
「ドラゴンテーマパークで使われていた疑似宝箱モンスターじゃないすか。食べられることはないすよ」
ああ、思い出した。テーマパークのダンジョンイベントに置いてあったやつだなあ。
「おい、でも出ることができないぞ」
「出腹が引っかかってるみたいすね」
相棒がナイフで宝箱の留め金を壊す。
「ふう、助かった」
「こんな偽物モンスターに引っかかるなんて、リーダーは冒険者としての気構えに欠けてますね」
「うーむ、面目ない」
「でも、宝箱を壊しちゃったすよ」
「仕方が無い。主人に正直に言うか」
「出腹が挟まったってことは言わない方がいいすよ。情けないすよ、おもちゃのモンスターに襲われた冒険者なんて」
「うるさいぞ」
俺と相棒が話していると、宿屋の主人が入ってきた。
「スライムを退治してくれて、おまけに部屋の整理までしてくれたんですか。ありがとうございます」
「いや、その間に宝箱を壊してしまったんだが。申し訳ない」
「ああ、いいですよ。ドラゴンテーマパークで使用されていたんですけど、壊れたんで新品に交換したそうなんですよ。それで古いのを私の息子が面白がるかと村役場からもらったんですけど、捨てることにしてたものですから」
「息子さんは、この宝箱にひっかからなかったのか」
「ええ、近づいたら開いて歯がついてたのを見て、くだらないって言われてしまいましたよ」
それを聞いていた相棒が主人に質問した。
「ところで息子さんはおいくつすか」
「五才ですね」
……………………………………………………
さて、俺たちは地下室の整理分も含めて、けっこうな報酬を貰ったのだが。
部屋に戻って、俺はベッドでがっかりして座っている。
「五才の子供さえ見破れた宝箱のおもちゃを俺はモンスターと思ってしまった。ああ、俺は冒険者としては最低だ」
「元気だしてくださいっすよ、あの部屋は薄暗かったじゃないすか」
相棒は慰めてくれるが、元々、冒険者になるべきではなかったんじゃないかと悩む俺であった。
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