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第46話:おっさん、一対一の真剣勝負だ、かかって来い、山賊と冒険者の違いを見せてやる
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
さて、今日の仕事は村主催のドラゴンテーマパークで行われるダンジョンでのイベントの警備だ。
「おい、また警備員かよ。俺たちは本当にこのまま警備員になるんじゃないのか」
「今はこのドラゴンテーマパークの件で警備員が足りないんすよ。まあ、しょうがないんじゃないすか」
やれやれ。
警備員って立ってるだけだからつまらないんだよなあ。
事件なんて滅多に起こらないからなあ。
さて、俺たちが疑似ダンジョンがある建物に行くと、あの口から炎を出すドラゴンの人形が置いてある。この前、俺がその炎でワイバーンを攻撃した人形ドラゴンだ。しかし、今、そのドラゴンの口から出ているのは水だ。
「おい、あの人形ドラゴンの口から炎じゃなくて、水が出てるぞ」
「ああ、子供たちの保護者から抗議が来たみたいっすね。炎は危険だと。それで水に変えたみたいっす。まあ、今は夏だから涼しくていいんじゃないすか」
噴水のように口から水を出している人形ドラゴン。
いろんな出し方が出来るようだ。
「うーん、確かに炎は危険ではあったがなあ。それにしても、危険危険と言って、甘やかしていると本当に危険な時に何も出来ないぞ。子供たちには冒険心を育ててもらわないと」
「その冒険心があったリーダーの末路を見ると、親たちが騒ぐのも無理ないっすよ。ハゲデブでブサイク、貧乏、腰痛持ち、肩こり、膝痛、リュウマチ持ち、仕事といえばスライム退治。頭の中はお姫様の妄想だけ。そんな風になってもらいたくはないんじゃないすかね」
「うるさいぞ。だいたい、末路って何だよ。俺はまだ死んでないぞ」
さて、俺と相棒が下らん会話をしつつ、建物の中に入ると担当者に別室に案内される。そこで着せられたのが、俺は魔王のコスプレ、相棒はモンスターのガーゴイル。相棒は魔王の使い魔って感じだ。
「しかし、何で警備員がこんなものを着なきゃいけないんだ」
担当者が説明してくれた。
「お二人にはお姫様を捕まえた悪者って設定なんです。ダンジョンは迷路になってますが、一番奥にお姫様がいて、そこまでたどり着いた人はあなた達と戦って、最後はお姫様から記念の金のメダルを首から下げてもらうってことです」
戦うと言っても、紙製の剣だけどな。
金のメダルも鉄の丸い板に金メッキを塗っただけ。
戦いの方も、お互い帽子を被って、その上に付けた風船を先に破った方が勝ちらしい。
ちなみに、適当にチャンバラした後、俺たちは常に負けなくてはいけないようだ。
「おいおい、これは情けないんじゃないのか。一般人とチャンバラごっこをやって、おまけに負けるなんて」
「しょうがないすよ。それに俺っちらがお姫様の周りにいるのは、本職が冒険者だからってことらしいっす」
「ああ、確かお姫様役の村娘さんはこの前の演劇でストーカー男にナイフで狙われたっけ」
「そうなんすよ。だから、主催者も危険を感じて、単なる村人じゃなくて俺っちら冒険者に娘さんのボディガードを頼んだってことっす」
「ふむ、一応、俺たちの実力を考慮してくれたんだな」
少し機嫌が良くなる俺。
「でも、スライム退治専門ですけどね」
「いや、いつかはドラゴンを退治するぞ」
「また、妄想に入るのはやめてくださいよ。紙の剣以外にも本物の武器も持つわけっすけど、それを振り回してお客さんをケガさせるなんてことはしないでくださいっすよ」
「わかってるよ」
そして、俺たちは地図を貰って、ダンジョンの一番奥のゴールに向かう。
すると、相棒がうめいた。
「うーん」
「どうした」
「このガーゴイルの衣装、重いっすね」
「だらしがないな、ガーゴイルの衣装くらいで。お前には冒険者としての気構えが無いぞ」
「気構えが無いぞって、重いものは重いっすよ。リーダーは黒いマントを羽織って、頭に角を付けてるだけじゃないすか」
「だからお前はダメなんだ。とにかく何事も気合だ、気合」
「気合でその出腹も引っ込むんすか」
「うるさいぞ」
さて、下らん会話をしつつ、ダンジョンの最奥に到達。
すると、そこにはきらびやかな衣装を着た美しいお姫様がいた。
俺は思わず片膝をつく。
「姫様、ご機嫌うるわしゅう存じます」
「あ、はい、あの、よ、よろしくお願いいたします」
相棒がまた嫌な顔をした。
「ちょっと、また妄想に入るのはやめてくださいよ。この女の子は村の美少女コンテストの準優勝者ですよ」
「わかってるって。いやあ、もう俺の習慣になってるな」
しかし、このお姫様、ではなくて村娘さんは美人だけど気が弱そうだ。
俺たちにもやたらヘイコラしている。
姫と言うよりは侍女だなあ。
俺はこっそりと相棒に言った。
「うーん。お姫様ならもっと威厳があって気位の高い態度をしてもらいたいものだな」
「だから、この娘さんはリーダーの妄想のためにお姫様を演じてるんじゃないっすよ」
「それもそうだな」
さて、ダンジョンイベントの開始。
しかし、全然、人が来ない。
「おい、このイベントは失敗じゃないか」
「何でそう思うんすか」
「誰も来ないじゃないか、ヒマだなあ」
「そりゃ、お客さんは、今、迷路をウロウロして楽しんでるんすよ。俺っちらがヒマなのは当然すよ」
「そう言えばそうか」
まあ、スライム退治より報酬は高額だから我慢するかと思っていたら、入口からスライムが入って来た。俺は、思わず本物の剣を構える。
「お、スライムだ。こんなとこに忍び込んで来やがった」
「違いますよ、リーダー」
そのスライムが立ち上がる。
スライムのコスプレをしていた子供だった。
「何だよ、驚かせやがって」
「子供のコスプレに惑わされるとは、リーダーは冒険者としての気構えがありませんね」
「うるさいぞ」
そして、その子供と紙の剣で魔王役の俺がチャンバラごっこをやる。
「ハハハハハ、かかって来い、スライム勇者よ。私を楽しませてくれたまえ」
そして、あっさりと風船を割られて俺は倒れる。
子供はお姫様から金のメダルを渡されて大喜び。
「どうだ、やっぱり子供には勇気が必要なのだ。冒険心が必要だぞ。そう思わないか」
「出腹のおっさんを倒しても、勇気でも何でもないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
その後も続々とやって来る。
何だか忙しくなってきた。
普通の格好の人もいれば、わけのわからないモンスターの格好をしている人もいる。
その連中とチャンバラごっこをやっては倒れる俺。
「おい、俺ばっかりにやらさないで、お前も戦えよ。使い魔のガーゴイルだろ」
「いや、この衣装、重くて動きにくいっす。それに魔王の方を倒す方が面白いんじゃないすか」
「俺に仕事を押し付けるなよ。しかし、モンスターのコスプレやってる人たちだけど、なんだか冴えない感じで、しょうもない格好だな」
「コスプレってそんなものじゃないすかね」
さて、夕方になる。
イベントも終了した。
お姫様、いや、村の美少女コンテストの準優勝の娘さんを入口まで送っていく。
村娘さんが俺たちに深々と頭を下げる。
「お二人とも、今日はお疲れ様でした」
「姫、お疲れでは」
「い、いえ、全然、大丈夫です」
そして、建物から離れていく娘さんのその後ろ姿を見て俺は相棒に言った。
「うむ、美人だし、歩き方はなかなかいいが、でも、あの女の子は姫というよりはやっぱり侍女だなあ」
「あの娘さんも勝手にハゲデブのおっさんに評価はされたくないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
おっと、大事な仕事を忘れていた。
ダンジョンの中を全部見回って、迷路に取り残されている人がいないか確認する仕事が残っている。
「おい、誰か残ってないか、見回りに行くぞ」
「ちょっと、このガーゴイルの衣装が重いので、担当者に戻してくるまで待ってくれますか」
「じゃあ、俺のマントと角も持って行ってくれ」
俺は相棒が戻って来るまで入口で待っている。
すると、お客さんがやってきた。
山賊のコスプレをしている。
おお、なかなか、気合の入ったコスプレじゃないか。
今までの適当なコスプレイヤーとは違うぞ。
本物みたいだ。
ひげ面で片目に黒い眼帯を付けて、デカい剣を持っている。
顔面には酷いキズの特殊メイク。
服装もボロボロなところがリアルだ。
いかにも悪そうな山賊って感じだな。
今日のコスプレ大賞優勝者にしてあげたいくらいだ。
その人が俺に向かって叫ぶ。
「おい、お前。探したぞ、覚悟しろ!」
「うん、なんのことだ」
「兄貴の仇だ」
なんか、よくわからんが、そういう設定なのか。
相手はお客さんだし、仕方が無い。
付き合ってやるか。
「ふふん、大した奴じゃなかったな、お前の兄貴は。俺の剣の錆びにしてやったぜ」
「何だと、この野郎! おい、俺と勝負しろ!」
そして、そいつが剣を抜いた。
本物の剣だ。
危ないなあ。
コスプレも気合が入り過ぎるとやばいよな。
「ちょっと、お客さん。本物の剣は危険なので鞘におさめてくれませんか。後、もうダンジョンイベントは終了したんですけど」
「ふざけんな! てめえ、この前は俺の兄貴をでっかい看板で下敷きにして大ケガさせやがって」
思い出した。
村の入口で看板ドラゴンが倒れて山賊どもが下敷きになったな。
じゃあ、こいつは本物の山賊か。
復讐に来たのか。
あの山賊の弟かな。
よし、相手をしてやろうじゃないか。
俺も剣を抜く。
紙製じゃなくて、本物の剣だ。
「おっさん、一対一の真剣勝負だ」
「かかって来い、山賊と冒険者の違いを見せてやる!」
俺は山賊と剣で戦う。
キンキンキンキンキン!
おっと、こいつはなかなか強いぞ。
くそ、やばい。
おまけに腰が痛くなってきた。
山賊が剣を振る。
俺はかわすが、腰からグキッと嫌な音がした。
思わず地面に倒れる。
山賊が俺に剣の切先を突きつけた。
「さあ、観念しな、おっさん」
「くそー!」
ああ、俺の一生もこんなチンピラ山賊相手との戦いで終わるのか。
せめて、ドラゴンを相手にしたかったな。
すると、突然、山賊が悲鳴をあげて、すっ飛んだ。
「うわー!」
建物の壁に叩きつけられて、気絶している山賊。
「大丈夫すか、リーダー!」
お、どうやら、相棒が例の人形ドラゴンを操作したらしい。
水流を最大にして、山賊の背中に当てたようだ。
「危なかったすね、リーダー」
「いやあ、寸前でやられるとこだった。すまんな」
気絶している山賊を逮捕して村役場に連れていく。
俺は意気揚々と相棒と一緒に宿屋に帰る。
「しかし、久々の一対一の真剣勝負だったなあ。しかし、と言うことはお前が背後から水で襲ったのは卑怯な行為ってことになるな。冒険者の風上にも置けないぞ」
「何言ってんすか。やられる寸前だったのに」
「うむ、それもそうだな、すまん」
俺は若い頃を思い出す。
相手は冒険者だったが、剣で勝負をしたことがあるなあ。
結局、周りに止められてどちらも死なないですんだけどなあ。
そもそも、足を踏んだ踏まないって下らないことで決闘になった。
しょうもない理由だなあ。
でも、若い頃は元気だった。
血気盛んだったころが懐かしいよ。
「ああ、今日は疲れた。宿屋で早く眠りたい……って、おいおい、大事なことを忘れてた。迷路に取り残された人がいないか見回るのを忘れていたぞ」
「おっと、俺っちも山賊の件でそっちまで気が回らなかったっす」
あわてて、ダンジョンイベント会場に戻る俺と相棒。
すると、入口にはあのお姫様役の村娘と子供がいた。
「あれ、姫、じゃなくて娘さん、なぜ戻ってきたんだ」
「あの、イベントが終了して緊張がとけて、うっかりお姫様の格好で帰ってしまったんです。だから着替えに戻ってきて、ついでにダンジョンの見回りもしておきました。そしたら、この子が迷路で迷っていたんで、入口まで連れてきたんです」
「おお、姫、じゃない、すまんな、娘さん」
「やれやれ。危うく子供を置いてけぼりにしてしまうとことだったす、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
俺たちの方が迷惑をかけたのにもかかわらず、さらにヘイコラしているお姫様、ではなくて村娘。
そして、帰って行く村娘さんを見て俺は相棒に言った。
「うーん、やっぱりあの娘さんは美人で優しくはあるが、姫ではなく、侍女だなあ。出来れば、お姫様から上品にお叱りのお言葉をいただきたかった」
「また、妄想すか、やめてくださいっすよ。だいたい、下手したらあの子供を脱水症状かなんかで命の危険にさらしたかもしれないって言うのに。やっぱり俺っちらは冒険者としての気構えが無いんじゃないすか。だから、いつまで経ってもスライム退治ばっかなんすよ」
「うーむ、そうかもしれん。しかし、今から鍛錬すればいいのだ」
「鍛錬って、おっさんリーダーはもう錆びついて、鍛えようがないんじゃないすか。特にその出腹はもう鍛えようがないっすよ」
「うるさいぞ」
しかし、うっかりミスをしてしまった。
これも年のせいだろうか。
いや、とにかく、俺は死ぬまでがんばるぞ。
姫のため、じゃなくて自分の人生のためだ。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
さて、今日の仕事は村主催のドラゴンテーマパークで行われるダンジョンでのイベントの警備だ。
「おい、また警備員かよ。俺たちは本当にこのまま警備員になるんじゃないのか」
「今はこのドラゴンテーマパークの件で警備員が足りないんすよ。まあ、しょうがないんじゃないすか」
やれやれ。
警備員って立ってるだけだからつまらないんだよなあ。
事件なんて滅多に起こらないからなあ。
さて、俺たちが疑似ダンジョンがある建物に行くと、あの口から炎を出すドラゴンの人形が置いてある。この前、俺がその炎でワイバーンを攻撃した人形ドラゴンだ。しかし、今、そのドラゴンの口から出ているのは水だ。
「おい、あの人形ドラゴンの口から炎じゃなくて、水が出てるぞ」
「ああ、子供たちの保護者から抗議が来たみたいっすね。炎は危険だと。それで水に変えたみたいっす。まあ、今は夏だから涼しくていいんじゃないすか」
噴水のように口から水を出している人形ドラゴン。
いろんな出し方が出来るようだ。
「うーん、確かに炎は危険ではあったがなあ。それにしても、危険危険と言って、甘やかしていると本当に危険な時に何も出来ないぞ。子供たちには冒険心を育ててもらわないと」
「その冒険心があったリーダーの末路を見ると、親たちが騒ぐのも無理ないっすよ。ハゲデブでブサイク、貧乏、腰痛持ち、肩こり、膝痛、リュウマチ持ち、仕事といえばスライム退治。頭の中はお姫様の妄想だけ。そんな風になってもらいたくはないんじゃないすかね」
「うるさいぞ。だいたい、末路って何だよ。俺はまだ死んでないぞ」
さて、俺と相棒が下らん会話をしつつ、建物の中に入ると担当者に別室に案内される。そこで着せられたのが、俺は魔王のコスプレ、相棒はモンスターのガーゴイル。相棒は魔王の使い魔って感じだ。
「しかし、何で警備員がこんなものを着なきゃいけないんだ」
担当者が説明してくれた。
「お二人にはお姫様を捕まえた悪者って設定なんです。ダンジョンは迷路になってますが、一番奥にお姫様がいて、そこまでたどり着いた人はあなた達と戦って、最後はお姫様から記念の金のメダルを首から下げてもらうってことです」
戦うと言っても、紙製の剣だけどな。
金のメダルも鉄の丸い板に金メッキを塗っただけ。
戦いの方も、お互い帽子を被って、その上に付けた風船を先に破った方が勝ちらしい。
ちなみに、適当にチャンバラした後、俺たちは常に負けなくてはいけないようだ。
「おいおい、これは情けないんじゃないのか。一般人とチャンバラごっこをやって、おまけに負けるなんて」
「しょうがないすよ。それに俺っちらがお姫様の周りにいるのは、本職が冒険者だからってことらしいっす」
「ああ、確かお姫様役の村娘さんはこの前の演劇でストーカー男にナイフで狙われたっけ」
「そうなんすよ。だから、主催者も危険を感じて、単なる村人じゃなくて俺っちら冒険者に娘さんのボディガードを頼んだってことっす」
「ふむ、一応、俺たちの実力を考慮してくれたんだな」
少し機嫌が良くなる俺。
「でも、スライム退治専門ですけどね」
「いや、いつかはドラゴンを退治するぞ」
「また、妄想に入るのはやめてくださいよ。紙の剣以外にも本物の武器も持つわけっすけど、それを振り回してお客さんをケガさせるなんてことはしないでくださいっすよ」
「わかってるよ」
そして、俺たちは地図を貰って、ダンジョンの一番奥のゴールに向かう。
すると、相棒がうめいた。
「うーん」
「どうした」
「このガーゴイルの衣装、重いっすね」
「だらしがないな、ガーゴイルの衣装くらいで。お前には冒険者としての気構えが無いぞ」
「気構えが無いぞって、重いものは重いっすよ。リーダーは黒いマントを羽織って、頭に角を付けてるだけじゃないすか」
「だからお前はダメなんだ。とにかく何事も気合だ、気合」
「気合でその出腹も引っ込むんすか」
「うるさいぞ」
さて、下らん会話をしつつ、ダンジョンの最奥に到達。
すると、そこにはきらびやかな衣装を着た美しいお姫様がいた。
俺は思わず片膝をつく。
「姫様、ご機嫌うるわしゅう存じます」
「あ、はい、あの、よ、よろしくお願いいたします」
相棒がまた嫌な顔をした。
「ちょっと、また妄想に入るのはやめてくださいよ。この女の子は村の美少女コンテストの準優勝者ですよ」
「わかってるって。いやあ、もう俺の習慣になってるな」
しかし、このお姫様、ではなくて村娘さんは美人だけど気が弱そうだ。
俺たちにもやたらヘイコラしている。
姫と言うよりは侍女だなあ。
俺はこっそりと相棒に言った。
「うーん。お姫様ならもっと威厳があって気位の高い態度をしてもらいたいものだな」
「だから、この娘さんはリーダーの妄想のためにお姫様を演じてるんじゃないっすよ」
「それもそうだな」
さて、ダンジョンイベントの開始。
しかし、全然、人が来ない。
「おい、このイベントは失敗じゃないか」
「何でそう思うんすか」
「誰も来ないじゃないか、ヒマだなあ」
「そりゃ、お客さんは、今、迷路をウロウロして楽しんでるんすよ。俺っちらがヒマなのは当然すよ」
「そう言えばそうか」
まあ、スライム退治より報酬は高額だから我慢するかと思っていたら、入口からスライムが入って来た。俺は、思わず本物の剣を構える。
「お、スライムだ。こんなとこに忍び込んで来やがった」
「違いますよ、リーダー」
そのスライムが立ち上がる。
スライムのコスプレをしていた子供だった。
「何だよ、驚かせやがって」
「子供のコスプレに惑わされるとは、リーダーは冒険者としての気構えがありませんね」
「うるさいぞ」
そして、その子供と紙の剣で魔王役の俺がチャンバラごっこをやる。
「ハハハハハ、かかって来い、スライム勇者よ。私を楽しませてくれたまえ」
そして、あっさりと風船を割られて俺は倒れる。
子供はお姫様から金のメダルを渡されて大喜び。
「どうだ、やっぱり子供には勇気が必要なのだ。冒険心が必要だぞ。そう思わないか」
「出腹のおっさんを倒しても、勇気でも何でもないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
その後も続々とやって来る。
何だか忙しくなってきた。
普通の格好の人もいれば、わけのわからないモンスターの格好をしている人もいる。
その連中とチャンバラごっこをやっては倒れる俺。
「おい、俺ばっかりにやらさないで、お前も戦えよ。使い魔のガーゴイルだろ」
「いや、この衣装、重くて動きにくいっす。それに魔王の方を倒す方が面白いんじゃないすか」
「俺に仕事を押し付けるなよ。しかし、モンスターのコスプレやってる人たちだけど、なんだか冴えない感じで、しょうもない格好だな」
「コスプレってそんなものじゃないすかね」
さて、夕方になる。
イベントも終了した。
お姫様、いや、村の美少女コンテストの準優勝の娘さんを入口まで送っていく。
村娘さんが俺たちに深々と頭を下げる。
「お二人とも、今日はお疲れ様でした」
「姫、お疲れでは」
「い、いえ、全然、大丈夫です」
そして、建物から離れていく娘さんのその後ろ姿を見て俺は相棒に言った。
「うむ、美人だし、歩き方はなかなかいいが、でも、あの女の子は姫というよりはやっぱり侍女だなあ」
「あの娘さんも勝手にハゲデブのおっさんに評価はされたくないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
おっと、大事な仕事を忘れていた。
ダンジョンの中を全部見回って、迷路に取り残されている人がいないか確認する仕事が残っている。
「おい、誰か残ってないか、見回りに行くぞ」
「ちょっと、このガーゴイルの衣装が重いので、担当者に戻してくるまで待ってくれますか」
「じゃあ、俺のマントと角も持って行ってくれ」
俺は相棒が戻って来るまで入口で待っている。
すると、お客さんがやってきた。
山賊のコスプレをしている。
おお、なかなか、気合の入ったコスプレじゃないか。
今までの適当なコスプレイヤーとは違うぞ。
本物みたいだ。
ひげ面で片目に黒い眼帯を付けて、デカい剣を持っている。
顔面には酷いキズの特殊メイク。
服装もボロボロなところがリアルだ。
いかにも悪そうな山賊って感じだな。
今日のコスプレ大賞優勝者にしてあげたいくらいだ。
その人が俺に向かって叫ぶ。
「おい、お前。探したぞ、覚悟しろ!」
「うん、なんのことだ」
「兄貴の仇だ」
なんか、よくわからんが、そういう設定なのか。
相手はお客さんだし、仕方が無い。
付き合ってやるか。
「ふふん、大した奴じゃなかったな、お前の兄貴は。俺の剣の錆びにしてやったぜ」
「何だと、この野郎! おい、俺と勝負しろ!」
そして、そいつが剣を抜いた。
本物の剣だ。
危ないなあ。
コスプレも気合が入り過ぎるとやばいよな。
「ちょっと、お客さん。本物の剣は危険なので鞘におさめてくれませんか。後、もうダンジョンイベントは終了したんですけど」
「ふざけんな! てめえ、この前は俺の兄貴をでっかい看板で下敷きにして大ケガさせやがって」
思い出した。
村の入口で看板ドラゴンが倒れて山賊どもが下敷きになったな。
じゃあ、こいつは本物の山賊か。
復讐に来たのか。
あの山賊の弟かな。
よし、相手をしてやろうじゃないか。
俺も剣を抜く。
紙製じゃなくて、本物の剣だ。
「おっさん、一対一の真剣勝負だ」
「かかって来い、山賊と冒険者の違いを見せてやる!」
俺は山賊と剣で戦う。
キンキンキンキンキン!
おっと、こいつはなかなか強いぞ。
くそ、やばい。
おまけに腰が痛くなってきた。
山賊が剣を振る。
俺はかわすが、腰からグキッと嫌な音がした。
思わず地面に倒れる。
山賊が俺に剣の切先を突きつけた。
「さあ、観念しな、おっさん」
「くそー!」
ああ、俺の一生もこんなチンピラ山賊相手との戦いで終わるのか。
せめて、ドラゴンを相手にしたかったな。
すると、突然、山賊が悲鳴をあげて、すっ飛んだ。
「うわー!」
建物の壁に叩きつけられて、気絶している山賊。
「大丈夫すか、リーダー!」
お、どうやら、相棒が例の人形ドラゴンを操作したらしい。
水流を最大にして、山賊の背中に当てたようだ。
「危なかったすね、リーダー」
「いやあ、寸前でやられるとこだった。すまんな」
気絶している山賊を逮捕して村役場に連れていく。
俺は意気揚々と相棒と一緒に宿屋に帰る。
「しかし、久々の一対一の真剣勝負だったなあ。しかし、と言うことはお前が背後から水で襲ったのは卑怯な行為ってことになるな。冒険者の風上にも置けないぞ」
「何言ってんすか。やられる寸前だったのに」
「うむ、それもそうだな、すまん」
俺は若い頃を思い出す。
相手は冒険者だったが、剣で勝負をしたことがあるなあ。
結局、周りに止められてどちらも死なないですんだけどなあ。
そもそも、足を踏んだ踏まないって下らないことで決闘になった。
しょうもない理由だなあ。
でも、若い頃は元気だった。
血気盛んだったころが懐かしいよ。
「ああ、今日は疲れた。宿屋で早く眠りたい……って、おいおい、大事なことを忘れてた。迷路に取り残された人がいないか見回るのを忘れていたぞ」
「おっと、俺っちも山賊の件でそっちまで気が回らなかったっす」
あわてて、ダンジョンイベント会場に戻る俺と相棒。
すると、入口にはあのお姫様役の村娘と子供がいた。
「あれ、姫、じゃなくて娘さん、なぜ戻ってきたんだ」
「あの、イベントが終了して緊張がとけて、うっかりお姫様の格好で帰ってしまったんです。だから着替えに戻ってきて、ついでにダンジョンの見回りもしておきました。そしたら、この子が迷路で迷っていたんで、入口まで連れてきたんです」
「おお、姫、じゃない、すまんな、娘さん」
「やれやれ。危うく子供を置いてけぼりにしてしまうとことだったす、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
俺たちの方が迷惑をかけたのにもかかわらず、さらにヘイコラしているお姫様、ではなくて村娘。
そして、帰って行く村娘さんを見て俺は相棒に言った。
「うーん、やっぱりあの娘さんは美人で優しくはあるが、姫ではなく、侍女だなあ。出来れば、お姫様から上品にお叱りのお言葉をいただきたかった」
「また、妄想すか、やめてくださいっすよ。だいたい、下手したらあの子供を脱水症状かなんかで命の危険にさらしたかもしれないって言うのに。やっぱり俺っちらは冒険者としての気構えが無いんじゃないすか。だから、いつまで経ってもスライム退治ばっかなんすよ」
「うーむ、そうかもしれん。しかし、今から鍛錬すればいいのだ」
「鍛錬って、おっさんリーダーはもう錆びついて、鍛えようがないんじゃないすか。特にその出腹はもう鍛えようがないっすよ」
「うるさいぞ」
しかし、うっかりミスをしてしまった。
これも年のせいだろうか。
いや、とにかく、俺は死ぬまでがんばるぞ。
姫のため、じゃなくて自分の人生のためだ。
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楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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