スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第39話:お前はいつもだらんと横になっているだけだな、そりゃ、休日ですからねえ

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 今日は休日。
 普段はスライム退治に明け暮れる俺と相棒だけのしょぼい冒険者パーティー。

 しかし、週一回は休まないとな。
 スライムが相手でも、それなりに体力は使う。

 体が壊れてはまずい。
 冒険者が体を壊したら、飢え死にだ。
 
 俺はベッドで横になって、本を読んでいる。
 しかし、相棒はただ、いつものようにベッドで横になってるいるだけだ。

「おい、お前はいつもだらんと横になっているだけだな」
「そりゃ、休日ですからねえ」

「しかし、いつも寝てばっかりいると、ある朝、起きると一匹の毒虫になっているかもしれんぞ」
「何すか、それ」

「ある朝、起きると一匹の毒虫になって、主人公は焦るんだ。そして、家族も最初は心配してくれるのだが、最後は主人公の存在が面倒になってしまう」
「何だ、小説の話ですか。本当の事かと思いましたっすよ。で、主人公は最後はどうなるんすか」
「家族が投げた果物が頭に当たって死亡。家族は厄介者がいなくなったと喜んで旅行に出かけるって話だな」

「何だか変な話っすね。意味不明っすね」
「まあ、哲学的な小説と言われてはいるがな」

「毒虫って何すか」
「わからん。ちゃんと描写してないからな」

「リーダーみたいなハゲデブ肩こり腰痛持ちのブサイクなモンスターすかね」
「そんなわけないだろ」

「作家は何が言いたかったんすか。ぼんやり寝ていてはいけないとかそういうメッセージでも込めたんすかね」
「いや、実はこの小説の作家は公務員で一家の大黒柱だったのだが、その仕事を辞めて、小説家一本で暮らし始めたら売れなくて、途端に家族が冷たくなったので、うっぷん晴らしに書いたって噂もあるなあ。最初は怪奇小説扱いだったらしい」

「何すか、それ。全然、哲学的じゃないじゃないすか」
「まあ、後の評論家が哲学的に考えてしまったかもしれんなあ。でも、お前のようにだらだらと寝ていると、人生あっという間に終わってしまうんだ。俺みたいなおっさんになるんだぞ」

「また同じことを言ってますね。同じ事ばっかり短く言ってると、冒険者ギルドの運営に、ある日、突然、締め出されますよ。だいたい、リーダーだって、本を読んでいるけど、どうせ、また美少女姫やらドラゴン退治やらとかの下らない小説でしょ」
「うるさいぞ。まあ、さっきの小説はやはり人から必要とされるべきであるというメッセージが込められているかもしれん」

「スライム退治で人に必要とされているじゃないすか」
「まあな。しかし、もっと大きい仕事をやろうとかしないのか、何度も言うが人生あっという間だぞ」
「だから身の丈にあったことをしてるんすよ。リーダーみたいにドラゴン退治とか妄想してもしょうがないじゃないすか」

 確かに、そうかもしれん。
 しかし、若い奴らには野望を持ってほしいものだなあ。

「だいたい、リーダーは人に必要とされる努力はしてきたんすか」
「してないな」

「じゃあ、ダメじゃないすか」
「そうなんだよなあ」

 若い頃からでたらめ人生。
 いつの間にやらスライム退治専門家になってしまった。
 実際のところスライムに詳しくないけど。

「とにかくだな、若いうちからコツコツと少しずつ実力を積み上げていくのが大切なんだぞ。若い頃、楽してはダメだぞ。『若い時の楽は年をとってからの苦』ってことわざもあるぞ」
「だから、コツコツとスライム退治をしてんじゃないすか。それに『あんなに働いたのに老後は裸同然』ってことわざもありますよ」

「なんだ、そのことわざは。若い頃苦労しても全部意味無かったってことか」
「まあ、先の事はわからないってことっすよ。まあ、俺っちとしては、その毒虫に変身するってのも面白いって感じっすね。ある朝、起きたら出腹で腰痛持ちのブサイクなおっさんになっていたってのは嫌っすけどね」
「うるさいぞ」

「だいたい、人生あっという間とか連発してますけど、リーダーはこれからどうする気なんすか」
「もちろん、人生一発大逆転だ」

「また、そんな妄想してんすか。やめておいたほうがいいすよ」
「うるさいぞ。よし、休日だが、俺は冒険に出るぞ」

「どこへ行くんすか」
「何処でもいい、動けば、何か起きるものだ。動かなければ何も起きない」

 すると、相棒が歌う。

「走り~出したら~何が事が起きるだろうって~俺も期待はしてないさ~♪」
「何だ、その変な歌は」

「昔、流行った歌っすよ。著作権の関係で少し変えましたっすけど。まあ、俺っちは何もリーダーには期待してないっすね」
「うるさいぞ、これから大冒険が始まるのだ」

 俺はベッドから立ち上がる。
 すると、右足の親指の付け根に激痛が走った。

「ウギャア!!!!!」
「どうしたんすか、またぎっくり腰すか」

 相棒が俺の絶叫を聞いてびっくりしている。

「いや、右足の親指の付け根に激痛が走ったんだ。こんな痛みは初めてだ。これは凶悪な魔法使いの呪いではなかろうか」
「なんで、スライム退治しかしていない、ブサイクハゲの出腹のおっさんを呪わなきゃいけないんすか」

「しかし、すごく痛いぞ」
「医者にいったらどうすか、仕事は俺っちにまかせて」
「うーむ、仕方がない。悪いな、明日の仕事はまかす」

「しかし、動いたら何か起きましたけど、リーダーらしく、ろくなことじゃあなかったすね」
「うるさいぞ」

……………………………………………………

 翌日。

 そんなわけで村の診療所へ行く俺。
 そして、診断はと言うと、リュウマチ。

 リュウマチっておっさんがかかる病気だな。
 そして、まさしく俺はおっさんだ。
 やれやれ。

「まあ、薬を出しますが、それの効果があらわれるまで、激しい運動や重労働、長時間の歩行などは避けてください」
「ええ、そんな、冒険が出来ないじゃないですか」
「うーん、それは仕方がないですねえ」

「スライム退治はどうですか。大した事しないんですけど」
「まあ、体に負担がかからないくらいならいいですが、とりあえず一週間くらいゆっくりとしてください」

 何て事だ。
 せっかくあらたな冒険へと張り切っていたのに。

 リュウマチとは。
 情けない。

 宿屋に戻り、すっかり落ち込む。
 俺の人生はもうこのままリュウマチで苦しめられて終わりなのか。

 そんなところに相棒が帰ってきた。

「どうすか、体調は」
「うーん、診断はリュウマチだ」

「リュウマチって、死なないけど、なかなか治らない病気じゃないすか」
「そうなんだ。ゆっくりしてろって言われたよ。ああ、俺はもうダメだ」

「また元気を無くしてますね。でも、リュウマチにかかる人に多いのが、主観的に考える人って聞いたことがあるっす」
「何だよ、主観的にって」

「まあ、考えにかたよりがある人っすね。痛いと思うと、ますます痛くなるっす。妄想癖のリーダーみたいな人っすね」
「そうなのか。もう、あのドラゴン退治やら美少女と仲良くって妄想はやめたほうがいいのか」
「そうすっね」

 やれやれ。
 妄想するのもダメなのか。

「まあ、多少の妄想くらいはいいかもしれないっすけど。でも、スライム退治も出来ないんすか」
「いや、体に負担がかからないくらいならいいみたいだ」

「今までも、スライム退治なんて体に対して負担がかかってなかったじゃないすか」
「そうだよなあ」

「まあ、調子がいい時はスライム退治に参加してくださいよ。その間、俺っちが頑張りますから」
「悪いなあ」

「そういや、例のドラゴンテーマパーク関連で軽い仕事をいろいろと募集しているようだから、そっちの仕事するのもいいっすかも」
「そうだな、スライム退治みたいな危険性もないしな」

 やれやれ。
 何とも情けないことになった。

 体中、故障だらけだ。
 これが老化ってことか。

 若い頃が懐かしい。
 人間に寿命があるのはわかっていたが、自分が死ぬとは全然考えなかった。
 今や、具体的に死が近づいている。

 これも運命か。
 しかし、このままスライム退治で終わるのはやはりいやなんだな。

「何度も言うが俺は大冒険したいのだ」
「ハゲで出腹、ブサイク、腰痛、肩こり、膝痛、リュウマチ持ちじゃあ無理じゃないすかね」
「うるさいぞ。それにハゲとブサイクは関係ないだろ」

 しかし、ホント未来の展望がないなあ。
 やれやれ。
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