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第37話:巨大なドラゴンだなあ、ペラペラですけどね
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
「おお、巨大なドラゴンだなあ」
「ペラペラですけどね」
今、俺たちがいる場所は村の入口付近。
そして、例の村主催のドラゴンテーマパークの看板が設置されているのだが、これがバカでかい。
ドラゴンが翼を大きく広げて、後ろ足で立っている。
その後ろ足の間にドーム状に穴が開いていて、そこを入口にするようだ。
「一般的なドラゴンと背の高さは同じくらいに作ったようだな。しかし、ずいぶんデカいなあ。村のお偉いさんも張り切っているようだな」
「でも、木の板にドラゴンの絵を描いただけっすけどね」
「まあ、実物大のドラゴン人形なんて作ったら、いくらお金がかかるかわからんからなあ」
その時、ちょっと強い風が吹いた。
するとドラゴンの看板がギシギシと音を立てる。
「おい、これ大丈夫かよ。木の板と言っても、これくらいデカいと相当な重さだ。強風で倒れて、下敷きになったら大ケガだぞ」
「そっすね。これは後で村役場に言っておきましょう」
「ところで、今日の仕事はこの村の入口付近にいるスライム退治ってことなんだが、全然いないなあ」
「ああ、それなら冒険者ギルドからスライム退治のついでに清掃してくれって言われましたっすよ」
「おい、何だよ、それは。俺たちは清掃員かよ」
「清掃員も立派な仕事っすよ」
「しかし、冒険者の仕事じゃないぞ。全く、あの冒険者ギルドの主人、俺をなめくさりやがって」
「いつもギルドで騒いでいるから嫌われたんじゃないすか、リーダーは」
しかし、引き受けた以上、仕方が無い。
俺と相棒はゴミを拾っては、布袋に入れる。
そぼそぼとゴミ収集をする俺と相棒。
そして、俺は巨大なドラゴンの看板を見上げる。
「やれやれ。本来なら、こんなドラゴンと対決して、美少女と仲良くなるはずが、なんでゴミ拾いをしてるんだ、俺は」
「ゴミ拾いの方が似合ってますよ。出腹のリーダーがドラゴンと戦っている姿は想像できませんっすね」
「出腹は余計だろ」
しかし、俺の頭の中では妄想が膨らんでいく。
思わず、剣を抜いて、看板ドラゴンの前で振り回す。
「かかって来い、ドラゴン!」
「ちょっと、また妄想すか。いい加減にしてくださいっすよ」
「うるさいぞ。俺はゴミ拾いではない、冒険者だ。そして、いつかは凶悪なドラゴンを退治するのだ」
剣をブンブン振り回す。
「ウォ!」
「どうしたんすか」
「腰が痛い」
「またですか。無意味に剣を振り回すからっすよ」
俺はよろよろと看板ドラゴンの足元にへたり込む。
やれやれ。
もう俺にはドラゴンと戦うなんてことはないのだろうなあ。
つまらんなあ。
俺は冒険者として、もう輝くことはないのだろうか。
人生は終わったのだろうか。
何となく自暴自棄になってきた。
人間、いつか死ぬんだ。
でも、俺も冒険者の端くれだ。
どうせなら何か命をかけて戦って死にたいぞ。
すると、遠くから馬のいななきが聞こえてくる。
砂ぼこりを上げて、ひげ面の男たちが集団で馬に乗ってやって来た。
全員、腰に剣を差している。
二十人くらいいるぞ。
「何だ、あんた達は」
「この村はドラゴンテーマパークとやらを開催するって聞いてな。要するに金持ちなんだろ。それをいただきに来たってわけよ」
戦闘の首領らしき男がニヤニヤ笑いで言った。
こいつらは山賊か。
「おい、山賊ども! この村には入れさせないぞ!」
「何だよ、おっさんが一人で俺たちに立ち向かうのかよ」
ゲラゲラ笑う山賊たち。
確かに、この人数だとやられる可能性が高い。
ろくでなしの山賊が相手か。
せめて、ドラゴン相手に死にたかったな。
しかし、この村の人々を守らなくてはいけない。
腐っても清掃員になっても、冒険者魂は失くしてないぞ。
よし、俺の人生、最後の輝きだ。
俺は相棒に声をかける。
「お前は冒険者ギルドに行け。他の冒険者に連絡しろ。それまでこいつらは俺が食い止める」
「そんな、リーダーをほってはおけませんよ。それに一人じゃ、こんな大勢の山賊どもには敵わないっすよ、腰痛だし」
「うるさい、早く行け!」
しかし、相棒の言葉を聞いた山賊の首領が俺をバカにする。
「腰痛持ちなのかよ、おっさん。無理すんなって」
山賊どもが大爆笑。
くそー、バカにしやがって。
俺は剣を構える。
「おい、ろくでなしどもが! 死にたいものは入って来い!」
これが人生最後の見せ場だ。
それでもかまわんぞ。
大暴れしてやる!
「お前らを俺の剣の錆びにしてやるぞ!」
ちょっと、カッコよく見栄を切って、剣を振り回す。
その剣が看板に当たってしまった。
すると、看板ドラゴンが揺れたと思うと、山賊たちの方にゆっくりと倒れていく。
「うわー!」
山賊どもは焦って逃げようとするが、大勢なのでかえって混乱状態になった。
お互いが邪魔になって動けない。
巨大な看板ドラゴンはあっさりと山賊どもを下敷きにしてしまった。
俺と相棒は看板ドラゴンの足の間の部分にいたからケガはない。
「ありゃ、山賊たちは全員気絶してますね」
「うーん、これはドラゴンに助けられたのか、俺たちは。たまに人間の味方をしてくれるドラゴンもいるがなあ」
「何言ってんすか、ただの看板ですよ。それにしても、やっぱり危険でしたね。これ手抜き工事っすよ」
ちょっと気が抜ける俺。
「せっかくカッコいい見せ場だったのになあ。残酷な山賊相手に剣を持って、一人で獅子奮迅の大活躍。しかし、最後は倒されるが、その時、他の冒険者たちが駆けつけてきて、連中を撃退。俺は村を守ったと満足して死んでいくという展開はまるで冒険小説みたいじゃないか」
「出腹のリーダーにはそんなカッコいい最後は似合いませんよ」
「うるさいぞ。つーか、出腹は余計だろ」
その後、山賊どもは全員縛って、村役場に連行。
ついでにドラゴン看板が倒れたことを言っておいた。
俺は意気揚々として宿屋に帰る。
「しかし、今日はなかなか冒険者らしい緊張した事件に遭ったな」
「まあ欠陥工事のおかげで助かったんすけどね。リーダーらしいっすね」
「うるさいぞ」
しかし、やはり清掃員より冒険者のほうが楽しいなあと俺は思うのであった。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
「おお、巨大なドラゴンだなあ」
「ペラペラですけどね」
今、俺たちがいる場所は村の入口付近。
そして、例の村主催のドラゴンテーマパークの看板が設置されているのだが、これがバカでかい。
ドラゴンが翼を大きく広げて、後ろ足で立っている。
その後ろ足の間にドーム状に穴が開いていて、そこを入口にするようだ。
「一般的なドラゴンと背の高さは同じくらいに作ったようだな。しかし、ずいぶんデカいなあ。村のお偉いさんも張り切っているようだな」
「でも、木の板にドラゴンの絵を描いただけっすけどね」
「まあ、実物大のドラゴン人形なんて作ったら、いくらお金がかかるかわからんからなあ」
その時、ちょっと強い風が吹いた。
するとドラゴンの看板がギシギシと音を立てる。
「おい、これ大丈夫かよ。木の板と言っても、これくらいデカいと相当な重さだ。強風で倒れて、下敷きになったら大ケガだぞ」
「そっすね。これは後で村役場に言っておきましょう」
「ところで、今日の仕事はこの村の入口付近にいるスライム退治ってことなんだが、全然いないなあ」
「ああ、それなら冒険者ギルドからスライム退治のついでに清掃してくれって言われましたっすよ」
「おい、何だよ、それは。俺たちは清掃員かよ」
「清掃員も立派な仕事っすよ」
「しかし、冒険者の仕事じゃないぞ。全く、あの冒険者ギルドの主人、俺をなめくさりやがって」
「いつもギルドで騒いでいるから嫌われたんじゃないすか、リーダーは」
しかし、引き受けた以上、仕方が無い。
俺と相棒はゴミを拾っては、布袋に入れる。
そぼそぼとゴミ収集をする俺と相棒。
そして、俺は巨大なドラゴンの看板を見上げる。
「やれやれ。本来なら、こんなドラゴンと対決して、美少女と仲良くなるはずが、なんでゴミ拾いをしてるんだ、俺は」
「ゴミ拾いの方が似合ってますよ。出腹のリーダーがドラゴンと戦っている姿は想像できませんっすね」
「出腹は余計だろ」
しかし、俺の頭の中では妄想が膨らんでいく。
思わず、剣を抜いて、看板ドラゴンの前で振り回す。
「かかって来い、ドラゴン!」
「ちょっと、また妄想すか。いい加減にしてくださいっすよ」
「うるさいぞ。俺はゴミ拾いではない、冒険者だ。そして、いつかは凶悪なドラゴンを退治するのだ」
剣をブンブン振り回す。
「ウォ!」
「どうしたんすか」
「腰が痛い」
「またですか。無意味に剣を振り回すからっすよ」
俺はよろよろと看板ドラゴンの足元にへたり込む。
やれやれ。
もう俺にはドラゴンと戦うなんてことはないのだろうなあ。
つまらんなあ。
俺は冒険者として、もう輝くことはないのだろうか。
人生は終わったのだろうか。
何となく自暴自棄になってきた。
人間、いつか死ぬんだ。
でも、俺も冒険者の端くれだ。
どうせなら何か命をかけて戦って死にたいぞ。
すると、遠くから馬のいななきが聞こえてくる。
砂ぼこりを上げて、ひげ面の男たちが集団で馬に乗ってやって来た。
全員、腰に剣を差している。
二十人くらいいるぞ。
「何だ、あんた達は」
「この村はドラゴンテーマパークとやらを開催するって聞いてな。要するに金持ちなんだろ。それをいただきに来たってわけよ」
戦闘の首領らしき男がニヤニヤ笑いで言った。
こいつらは山賊か。
「おい、山賊ども! この村には入れさせないぞ!」
「何だよ、おっさんが一人で俺たちに立ち向かうのかよ」
ゲラゲラ笑う山賊たち。
確かに、この人数だとやられる可能性が高い。
ろくでなしの山賊が相手か。
せめて、ドラゴン相手に死にたかったな。
しかし、この村の人々を守らなくてはいけない。
腐っても清掃員になっても、冒険者魂は失くしてないぞ。
よし、俺の人生、最後の輝きだ。
俺は相棒に声をかける。
「お前は冒険者ギルドに行け。他の冒険者に連絡しろ。それまでこいつらは俺が食い止める」
「そんな、リーダーをほってはおけませんよ。それに一人じゃ、こんな大勢の山賊どもには敵わないっすよ、腰痛だし」
「うるさい、早く行け!」
しかし、相棒の言葉を聞いた山賊の首領が俺をバカにする。
「腰痛持ちなのかよ、おっさん。無理すんなって」
山賊どもが大爆笑。
くそー、バカにしやがって。
俺は剣を構える。
「おい、ろくでなしどもが! 死にたいものは入って来い!」
これが人生最後の見せ場だ。
それでもかまわんぞ。
大暴れしてやる!
「お前らを俺の剣の錆びにしてやるぞ!」
ちょっと、カッコよく見栄を切って、剣を振り回す。
その剣が看板に当たってしまった。
すると、看板ドラゴンが揺れたと思うと、山賊たちの方にゆっくりと倒れていく。
「うわー!」
山賊どもは焦って逃げようとするが、大勢なのでかえって混乱状態になった。
お互いが邪魔になって動けない。
巨大な看板ドラゴンはあっさりと山賊どもを下敷きにしてしまった。
俺と相棒は看板ドラゴンの足の間の部分にいたからケガはない。
「ありゃ、山賊たちは全員気絶してますね」
「うーん、これはドラゴンに助けられたのか、俺たちは。たまに人間の味方をしてくれるドラゴンもいるがなあ」
「何言ってんすか、ただの看板ですよ。それにしても、やっぱり危険でしたね。これ手抜き工事っすよ」
ちょっと気が抜ける俺。
「せっかくカッコいい見せ場だったのになあ。残酷な山賊相手に剣を持って、一人で獅子奮迅の大活躍。しかし、最後は倒されるが、その時、他の冒険者たちが駆けつけてきて、連中を撃退。俺は村を守ったと満足して死んでいくという展開はまるで冒険小説みたいじゃないか」
「出腹のリーダーにはそんなカッコいい最後は似合いませんよ」
「うるさいぞ。つーか、出腹は余計だろ」
その後、山賊どもは全員縛って、村役場に連行。
ついでにドラゴン看板が倒れたことを言っておいた。
俺は意気揚々として宿屋に帰る。
「しかし、今日はなかなか冒険者らしい緊張した事件に遭ったな」
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