スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第34話:『古池や蛙飛びこむ水の音』どうだ、風流だろ、カエルが池に飛び込んだだけじゃないすか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今日の仕事の場所は村近くの森の中の池。
 その周辺のスライム退治だ。

「やれやれ。いつになったら、このスライム退治ばかりの人生から抜け出ることができるのだろうか」
「一生、無理じゃないすか」

「嫌な事言うなよ」
「でも、その出腹を見ると、一生スライム退治って感じっすね、リーダーは」
「うるさいぞ。出腹は関係ないだろ」

 いつものように相棒と下らない会話をしつつ、池に近づく。
 
 池の周りはけっこう木が密集している。
 近づくのに、結構、苦労した。

 しかし、スライムが見当たらないな。

 そして、俺たちが池に近づくと、小さいカエルが一匹、池に飛び込んだ。
 それを見て、俺は俳句を詠む。

「うむ、これはまさしく、『古池や蛙飛びこむ水の音』だな。ちなみに太古の作品なので著作権は関係ないから、変更せずにそのまま詠んだぞ」
「また、何をわけのわからないこと言ってるんすか。カエルがどうしたんすか」

「おい、わけがわからないどころか、ものすごく有名な俳句だぞ」
「俳句ってなんすか」

「簡潔かつ高尚な詩だな。どうだ、静かな古池にカエルが飛び込んでポチャンと音がした。そして、また静寂に戻るという情景が浮かんでくる。なかなか風流だろう」
「カエルが池に飛び込んだだけじゃないすか。それが何で風流なんすか」

「しょうがない奴だな。全く、お前には冒険者としての気構えが……って、これはちょっと違うか。とにかく、この俳句は、太古から続く自然の営みにくらべれば人間の人生なんてあっという間だってことを言いたいのだ」
「何だか後付けって感じがしますけど」

「まあ、実際のところ、作者がそこまで考えて作ったかはわからんな」
「何て言うかハゲデブの腰痛持ちのおっさんには似合わないっすね。その高尚な俳句というものは」
「うるさいぞ」

「人生あっという間とか言ってるヒマがあったら、その出腹なんとかなりませんすかね」
「うるさいぞ」

「それに俺っちらはスライム退治に来たんすけど。その俳句とやらを詠みに来たんじゃないすよ」
「そうだったな」

 さて、俺たちは池の周りを探索する。
 しかし、スライムたちは全然いない。

「スライムが全くいないではないか。これは困った、報酬無しになるぞ」
「それでは、また宿屋の食堂でパンを恵んでもらうことになりまっすよ」

「うーん、このまま一匹も仕留められないとまずいなあ。『古池やスライム見えず腹の音』って感じだな」
「なんすか、その腹の音って」

「お腹が減って腹が鳴る音だ」
「下手な俳句っすね」
「うるさいぞ」

 しかし、相棒の言う通り俳句を詠んでいる場合ではない。
 一匹でも退治しないと。

 すると密生している樹木の間から、突然、スライムが襲ってきた。

「うわ!」

 俺は足を滑らせて池に落ちてしまう。
 そして、何かが俺の足を引っ張ってるぞ。

 俺を襲ったスライムをあっさりとやっつけた相棒が声をかけてきた。

「大丈夫すか」
「おい、この池のモンスターに引きずり込まれそうになってるんだ、助けてくれ」
「この池にモンスターなんていませんっすよ。落ち着てくださいっす。腐った木とかが足に絡んでいるだけじゃないすか」

 確かに足が池の中にある古い木の枝の間に挟まれただけのようだ。
 俺は難なくゆっくり池から上がる。

「やれやれ。えらい目にあった」
「スライムごときが襲って来たくらいで、池に落ちるなんて、リーダーは冒険者としての気構えが足りないっすね。『古池やおっさん落ちて騒ぎ立てる』って感じすかね」

「おい、それは字余りだぞ」
「何すか、字余りって」

「字数が多過ぎるってことだ。とにかく、お前には俳句の才能がないな」
「そんなこと、どうでもいいすよ。それより、もっとスライムを倒さないと」
「しかし、なかなかスライムが現れないんだなあ」

 困ったぞ。
 まだ、一匹しか退治していない。

「おい、もっとちゃんと探せ」
「やってますよ」

 俺たちは何とかスライムを探そうと、木の密集した池の周りを探索していく。
 お、やっと見つけた。

「スライム、覚悟!」

 俺は剣を振り上げるが、スライムが池に飛び込んでしまった。
 そのまま、どこかに消えていく。

「スライムって泳げたっけ?」
「今まで、あんまり気にしなかったっすね」

「毎日、倒してたけど、あんまり俺たちってスライムには詳しくないんだよな、実は」
「まあ、相手が弱すぎますもんねえ」

 しかし、スライムが古池に飛び込んだわけか。

「『古池やスライム飛び込む水の音』。うーん、全然風流じゃないな」
「字余りっすね。でも、俺っちにはカエルとスライム、大して変わりばえしませんすけど。まあ、もう帰りましょう」

「おい、結局、スライム一匹しか倒してないぞ」
「こういう日もありますよ」

 仕方が無いか。
 戻るとするか。
 そして、また俺は俳句を詠む。

「一句浮かんだ。『古池やスライムおらず腹が減る』だ」
「食い物の事しか考えてないようっすね、リーダーは。やっぱり俳句の才能はないんじゃないすか」
「うるさいぞ。しかし、実際腹がへった」

「今日の報酬じゃあ、ろくなもん食えませんよ。スライム一匹ですからね」
「パンを恵んでもらうよりはマシだな」

 まあ、冒険者には俳句の才能なんて必要ないしなと思いながらそぼそぼと帰る俺であった。
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