スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

文字の大きさ
上 下
30 / 69

第30話:かかって来い、ドラゴンめ! ちょっと恥ずかしいからやめてくださいっすよ

しおりを挟む
 俺の目の前に狂暴なブラックドラゴンが現れた。
 その後ろには囚われの姫がいる。

 姫を助けるために、俺は剣を持って突撃した。

「かかって来い! ブラックドラゴン!」

 ドラゴンが口から巨大な炎を吐く。
 それを巧みによけて、俺は飛び上がり、秘剣ドラゴンキラーを巨大なドラゴンの首に突き刺した。

 この剣はダンジョンの奥底で、俺たちのパーティーが数々のモンスターを倒しながら、苦労して発見したものだ。一撃でドラゴンを倒せる伝説の剣だ。

 絶叫を上げて、ドラゴンは倒れる。
 俺はすばやく姫に近づき、いましめを解く。

「助けてくれてありがとうございます」

 お礼を言う姫の前で、俺は片膝をついて、うやうやしく頭を下げる。

「私は姫様のためなら、この命、少しも惜しくありません」
「ああ、何て勇気のある方なんでしょう」

 すると、相棒が後ろから声をかけてきた。

「ちょっと、恥ずかしいからやめてくださいっすよ」

 お姫様の人形の前で片膝をついている俺を見て、すっかりあきれ顔の相棒。
 そして、そのお姫人形の隣には同じく人形のブラックドラゴンが横にして置いてある。
 まだ、ちゃんと設置していないらしい。

「何だよ、せっかくいい気分になっていたのに」
「周りの工事業者がみんな笑ってますよ」

「そうだよなあ。確かにこのドラゴン、しょぼい作りだよなあ。どこがブラックドラゴンだよ。そりゃ笑われるよ。お姫様も、もうちょっと美人に作れなかったのかなあ」
「人形じゃなくて、リーダーが笑われてんすよ」
「うるさいぞ。そんなことわかってるよ」

 俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。
 仕事はしょぼいスライム退治ばかりだ。

 俺は今、村の近くの狭い空地にいる。
 森を切り開いたようだ。
 例の村おこしのためのドラゴンテーマパークを作るらしい。

「こんな俺の背よりちょっと高いくらいの大きさのドラゴンなんて誰が見に来るんだ。もっとマシなの作れよ」
「まあ、お金が無いみたいっす。つーか、毎年積み立てて用意していたんだけど、盗まれちゃったみたいっすね」

「何だと、それでどうなったんだ。村の金を盗んだ泥棒は捕まったのか」

「行方不明みたいっすね。もう遠くに逃げたんじゃないすか」

「金はどうなったんだ」
「ほとんど盗まれたそうっす。だから予算がなくて、急遽計画を変更、こんなしょぼいテーマパークを建設することになってしまったそうっす」

「いっそのこと、やめたらどうだ。『スライム叩き遊園地』の方がまだ儲かりそうだぞ」
「もう始めちゃったからしょうがないんじゃないすか。おっと、ところで俺っちらも仕事を始めないと」
「そうだな、やれやれ。例によってスライム退治か」

 今日の俺たちの仕事は、森からこのテーマパークの城に潜り込んできたスライムの退治だ。
 城と言っても本当にしょぼい。
 
「なんだよ、この城は。単なる倉庫だぞ。四角い建物の外壁にいかにも城のような絵を描いているだけじゃないか」
「予算がないからしょうがないんじゃないすか」

 やれやれ。
 しょぼくれた俺にお似合いの城だな。
 倉庫改め城の中に入ると、木製の薄っぺらい衝立がごちゃごちゃと置いてある。

「なんだよ、この衝立は」
「一応、ダンジョンのつもりらしいっすね」

「これも衝立に洞窟の絵が描いてあるだけじゃないか」
「だから、予算がないからしょうがないんじゃないすかね」

「だいたい、なんで城の中にダンジョンがあるんだよ」
「本当は、別の場所にダンジョンを建設する予定が、金がないので城の中にしたそうっす。一応、迷路にしてあって、その地図も役場から貰ってきましたっす」

「やれやれ。こんな薄っぺらい衝立のダンジョンを探検しても面白くないぞ。だいたい、この衝立が低くて周りが丸見えじゃないか。迷路にもならないぞ」
「何度も言いますけど、予算がないからしょうがないんじゃないすか。それにこの迷路は子供向けなんで、大人はむしろ子供が迷子にならないように見えるほうがいいかと思いますよ」

 子供向けダンジョンでスライム退治。
 なんだかやる気が出ないぞ。

 まあ、いつもやる気ないけどな。
 俺たちは衝立ダンジョンの中をウロウロ歩き回る。
 
「お、いたぞ」

 スライムを見つけた。
 
 バシッ!

 あっさりとやっつける。
 すると巨体のオーガがあらわれた。

「お、モンスターめ、この必殺の剣を受けてみよ!」
「だから、恥ずかしいからやめてくださいっすよ、リーダー」

 所々に置いてあるしょぼいモンスターの人形の前で大声をあげて、剣を振り回す俺に、また嫌そうな顔をする相棒。

「けど、妄想でもしてなけりゃあ、こんなつまらん仕事してられんよ」
「妄想するのはいいすけど、実際に声をあげて剣を振り回すのはやめてくださいっすよ。危ないっすよ。他の業者がケガしたらどうすんすか」
「それもそうか」

 やれやれ。
 衝立ダンジョンを巡って行くと、ゴール地点に宝箱が置いてあった。

「おお、巨大な宝箱を見つけたぞ! って、これまたしょぼいな。紙製の宝箱だぞ」
「金が無いからしょうがないっすよ」

 こんなんでお客さん来るのかなあと思ったら、その宝箱が少し動いた。
 どうやら仕掛けがしてあるようだな。

「それなりに凝っているじゃないか。これは宝箱に擬態したモンスターって落ちかな。箱を開けるとそれがモンスターの口で食べられてしまう。よし、やい、覚悟しろ、モンスター!」

 俺が大声をあげて、また剣を振り回す。

「だから、恥ずかしいって言ってるじゃないすかって……あれ、おかしいっすね」
「どうしたんだ」

「ここがゴールでこの宝箱には金貨がたくさん入ってるそうっす。金貨と言っても丸い厚紙に金色を塗っただけのようですけど。それを子供たちに配ると」
「まあ、子供なら喜びそうだがなあ。けど、これはその前段階の宝箱に擬態したモンスターだろ。やい、覚悟しろ、宝箱モンスターめ。一刀両断にしてやるぞ!!!」
「だから、大きな声をあげないでくださいっすよって、あれ……」

 突然、宝箱が開いて男が飛び出てきた。

「ひえー、命だけはお助けください!」

 何の事だと思ったら、例の村のお金を盗んだ泥棒だった。
 この宝箱にお金と一緒に隠れていたようだ。

……………………………………………………

 あっさりと俺と相棒はそいつを捕まえて、村役場に連行した。
 俺は相棒に自慢する。

「どうだ、俺の妄想もたまには役に立つじゃないか」
「まあ、たまにですけどね」

「おまけにお礼として宿屋の一年間無料宿泊券まで貰ったぞ。これで当分野宿はさけられるぞ」
「食費は稼がなきゃいけないっすけどね」

 そうだよな。
 結局、スライム退治を続けるのか。

 けど、今日の俺は意気揚々としている。
 泥棒も捕まえたし。

 いつかは本格的なダンジョンを攻略して、金貨がいっぱい入った宝箱を見つけてやる。

 すると、目の間に洞窟があるではないか。

「よし、今からでもダンジョンに突入だ!」
「ちょっと、何するんすか、リーダー!」

 張り切って、ダンジョンに入ろうとすると思いっ切り出腹をぶつけてしまう。

「イテテ、何だよこれは」
「これは例のテーマパークのダンジョンの入口っすね。板にダンジョンの絵を描いただけっすけど」

「こんな紛らわしい物、道の脇に置いておくなよ。ああ、腹が痛い」
「工事の人が捨てたんじゃないすか。お金が戻ってきたんで計画やり直しらしいっす。それに出腹が引っ込んで良かったんじゃないすか」
「うるさいぞ」

「しかし、リーダーの妄想はますます激しくなっていくようっすね。妄想の中で死ぬのは勝手ですけど、俺っちも巻き込まないでくださいよ」
「うーむ、面目ない」

 やれやれ。
 お腹を擦りながら、そぼそぼと宿屋へ帰る俺であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...